(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2022年10月07日

「一度しかない映画体験」ができる『僕愛』『君愛』の「5つ」の魅力を解説

「一度しかない映画体験」ができる『僕愛』『君愛』の「5つ」の魅力を解説


5:2作それぞれで異なる製作陣

この『僕愛』と『君愛』はそれぞれで製作会社、監督、主題歌と挿入歌も異なっている。簡単に記しておこう。

『僕が愛したすべての君へ』


製作会社:BAKKEN RECORD(タツノコプロ内で立ち上げた新スタジオレーベル。日清カップヌードルCM『アオハル』シリーズを手がけた)

監督:松本淳(『劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』『閃光のナイトレイド』など)

主題歌 & 挿入歌:須田景凪


『君を愛したひとりの僕へ』


製作会社:トムス・エンタテインメント(『名探偵コナン』『ルパン三世』シリーズなど)

監督:カサヰケンイチ(『ハチミツとクローバー』『のだめカンタービレ』など)

主題歌 & 挿入歌:Saucy Dog


【2作共通】


脚本:坂口理子(『かぐや姫の物語』や『フォルトゥナの瞳』など)

キャラクター原案:shimano


2作は1セット、切っても切り離せないような関係であるのに、それぞれで作り手が異なっており、なおかつ続けて観ても違和感なく観られるのも長所だろう。

正直に申し上げれば、劇場用アニメとしては、『君の名は。』などと比べるとどうしても低予算で作られている、作画のクオリティをもう少しだけでも上げて欲しかったと思う場面もある。だが、もちろんできる限り良い画を作ろうとする意志を感じる場面もあり、特に『僕愛』のクライマックスの光景の美しさ、『君愛』のラストの表現には確かな感動があった。

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原作から映画への転換においても、基本的には忠実に、かつ細かなアレンジを込めつつ、語ると映像では冗長になりそうなところは省略するなど、取捨選択も上手く行われていたと思う。坂口理子は映画版『恋は雨上がりのように』でも実に原作のエッセンスを大切にした脚本作りが見事だったが、今回もその手腕が発揮されていた。映画の後に原作を読むと、映画ではサラリと語られていたSF設定の意味や、語られなかったトリビアを知れるので、さらに楽しめるだろう。

【関連記事】『恋は雨上がりのように』青春映画の新たな名作である5つの理由

そして、ボイスキャストは本業声優ではない、俳優が多くキャスティングされているが、こちらもとても良かった。両作で共通して主人公を務める宮沢氷魚は声がとても低いため初めこそ違和感を覚えるかもしれないが、次第に慣れてくるし、何より朴訥とした雰囲気がとてもキャラクターに合っていた。橋本愛蒔田彩珠それぞれが演じるヒロインもまたハマり役であるし、水野美紀余貴美子西岡徳馬というベテラン勢の演技も聞き惚れてほしい。

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まとめ:あらゆる可能性をも肯定する

この『僕愛』『君愛』の真に素晴らしいことは、現実にはあり得ない平行世界というSF設定を描きながらも、現実の人生に通ずる一度しかない選択、ひいてはあらゆる「可能性」をも肯定することにある

人生において「ああしておけば良かった」「こうだったら良かったのに」と後悔してしまうことはままあるし、そうでなくても今の人生を選んだことによって「そうできなかった」ことは絶対にある。だが、この『僕愛』『君愛』は、どのような選択をしたとしても、きっと肯定できるのだと、まさにタイトルが示すような「僕が愛したすべての君へ」と「君を愛したひとりの僕へ」捧げるような優しさがある。

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そのタイトルの「僕」や「君」に当たるのは、それこそ観客自身なのだ。観た人は、今までの選択を肯定できる、そしてこれからの人生にも希望を持てるようになるかもしれない。そのテーマとリンクするように、どちらを先に観るかという「一度しかできない選択」があるからこその映画体験ができる2作を、ぜひ劇場で観届けてほしい。

(文:ヒナタカ)

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