映画コラム
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』3つのポイントで紐解く「誠実さ」
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』3つのポイントで紐解く「誠実さ」
マーベル映画最新作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が2022年11月11日(金)より公開された。
主演俳優・チャドウィック・ボーズマンの急逝を経て、主人公不在という異例のヒーロー映画となった本作。
多くのサプライズや社会派なテーマを盛り込んだエンタメ超大作ながら、名優チャドウィック・ボーズマンへの愛に包まれたシリーズ屈指の異色作となっている。
今回は映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を解説。
監督であるライアン・クーグラーのパーソナルな想いが込められた本作の魅力を紐解いていきたい。
「継承」について
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が描くテーマのひとつは「継承」と言えるだろう。ブラックパンサーことティ・チャラ王の急逝で混沌に陥ったワカンダ王国。
彼の妹・シュリを筆頭に残された人々は、その思いを「継承」するために迷いながらも国を守るための戦いを続けることとなる。
マーベル・スタジオ劇場最新作、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の公開に先立ち、オリジナルショートムービーを公開。
— LEXUS / レクサス (@lexus_jpn) October 20, 2022
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自動車ブランド「LEXUS」のコラボCMでは、ワカンダの国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”隊長・オコエの知られざる活躍が確認できる。
前作でも先代国王 ティ・チャカの息子であるティ・チャラが王位を「継承」する物語が描かれており、『ブラックパンサー』シリーズでは「継承」が重要なテーマとなっているのだ。
ただし、今作の見どころは「継承」というテーマがより深掘りされている点にある。
自然を愛し、伝統を重んじた高潔な存在 ティ・チャラと異なり、本作のメインキャラクターのシュリは最新のテクノロジーを用い、現代的な視点を大切にしたい人物だ。
そのため、兄とは正反対とも言える彼女がどのようにして「彼」に向き合い、その「意思」を継承するのか。
悩みながらも進んでいく姿に、「真似」ではない「継承」という言葉の真の意味を考えさせられるのだ。
また、これはある意味で監督の"チャドウィック・ボーズマンに対する想い"であるとも考えることが出来る。
2020年、大腸癌で急逝したチャドウィック・ボーズマン。
生前、彼は多くの人々に慕われる人徳者でありながら、近親者以外には闘病中であることを隠していたのだという。
突然の別れに衝撃を受けた監督は迷いや葛藤を物語に刻みこんだのではないだろうか。
さらに、本作では新キャラクター・アイアンハートの初登場も大きな見どころとなっている。
彼女はシリーズから退場したアイアンマンを継ぐ存在であり、その第1作『アイアンマン』を思わせる場面も描写されていた。
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アメリカの百貨店チェーン「ターゲット(Target)」のコラボCMでは、その活躍の布石を垣間見ることが出来る。
彼女の活躍は本作を起点にドラマシリーズ「アイアンハート(原題)」へと続くことが発表されており、彼女の「継承」の物語が今後どのように描かれるのかにも大きな期待が高まる。
「復讐」について
本作では予告編の印象とは少し異なり、「復讐」という感情に向き合った重厚な人間ドラマも魅力のひとつだ。
身近な存在の死を受け、行き場のない悲しみから次第に「復讐」という感情に支配されていくシュリ。
ヒーロー映画でありながらも、あくまで「人間の弱さ」にフォーカスした内容にこそ感情を揺さぶられる。
また、「死」を受けた人々が抱くやるせない思いという描写には、チャドウィック・ボーズマンを追悼する作品であるがゆえの切実さを感じられるだろう。
思えば、『ブラックパンサー』の物語は一貫して「復讐」についての物語でもあった。
シリーズの前日譚となる『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ではティ・チャラが亡き父の敵討ちのため、『ブラックパンサー』では悪役・キルモンガーが血縁と自身を虐げてきた世界への「復讐」のために行動する。
「復讐」に支配された人々が時に道を誤り、時に道を踏みとどまる。
そのわずかな選択の違いによって「ヒーロー」と「悪役」が生まれるというリアリティが『ブラックパンサー』シリーズの面白さとも言えるのだ。
「物語」について
本作は「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)の作品としては通算30作目、シリーズの区切りとしてはフェーズ4の最後を飾る映画となった。改めてフェーズ4の作品群を振り返ると「人々が愛する者の喪失や別れから立ち上がる物語」や「メタフィクション」を題材にしていた作品が多かったと言える。
例えば、「ワンダヴィジョン」、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『ソー:ラブ&サンダー』などでは、家族・恋人を失った主人公が立ち上がるさまを描いていた。
一方で「ロキ」、『エターナルズ』、『シー・ハルク:ザ・アトーニー』などは、主人公が歴史や過去の物語を俯瞰した立ち位置から見つめ直す「メタフィクション」的な物語だった。
その点を踏まえると、「現実の死をどのように扱うか」という題材に向き合った本作は、まさしくフェーズ4のフィナーレにふさわしい作品だったと言えるだろう。
コロナ禍により世界中の人々にとって死が身近になった近年において、物語の存在は何をもたらすのか。
本作では主演俳優の死という出来事が重なったことで、そこにもっともパーソナルで愚直な答えを導き出したといえるのだ。
物語は時に現実の深い悲しみを対峙させるが、本作においては作り手自身が創作によって悲しみに対峙することとなった。
彼の物語は終わり、いくら考えてもその続きはない。
しかし、存在した過去は紛れもない事実であり、残したものは今この瞬間も息づいているのではないだろうか。
たとえ、混沌とした世界で泥臭くもがこうとも、"故人"を思い出すことで"自分"と向き合い続けること。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』では、そんな愚直ながらも誠実な想いが刻み込まれていた。
(文:TETSU)
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