『すずめの戸締まり』新海誠が国民的作家であることを高らかに宣言した、記念碑的作品
『君の名は。』“閉じた世界”から“開いた世界”への跳躍
『君の名は。』は明らかに、これまでの自己内省的な“閉じた世界”から、“開いた世界”へと跳躍している。
新海誠的なモチーフは堅持しながらも、主人公の立花瀧(神木隆之介)、宮水三葉(上白石萌音)は快活なキャラクターとして描かれ、気の知れた仲間たちが彼らを全面サポート。格段にコメディ要素も増している。「誰もが楽しめるど真ん中のエンターテインメント」を目指して作られた本作は、その宣言通り、不特定大多数の観客のハートを鷲掴みにした。
(C)2016「君の名は。」製作委員会
もちろん、かつての新海誠ファンは急激な作風の変化に戸惑ったことだろう。『君の名は。』をきっかけに、新海作品を追いかけることを辞めてしまった古参のファンもいると聞く。
だが、かつて自分のために物語を紡いできたアニメーション作家は、齢を重ねて大人になり、(おそらくは)社会的な責任感を抱くようになり、より多くの観客にメッセージを届けたい、と思うようになったのではないか。「大丈夫だよ」と、映画を通して寄り添おうとしたのではないか。
『天気の子』再び“閉じた世界”へ
そして『天気の子』(2019年)。筆者が本作を観て驚愕したのは、一度“開いた世界”を再び“閉じた世界”に戻したことだ。主人公の森嶋帆高(醍醐虎汰朗)はフェリーで東京にやってきた家出少年で、その理由はいっさい明かされない。
村上春樹訳の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を携え、ネットカフェに寝泊りし、ヒロインの天野陽菜(森七菜)を護るためなら拳銃もぶっ放す。警察に追われる身となった彼は、社会からはみ出したアウトローとして描かれるのである。
(C)2019「天気の子」製作委員会
そしてクライマックス。異常気象に見舞われた世界を救うべく、陽菜は天気の巫女として人柱になることを決意するが、帆高は積乱雲に囚われていた彼女を救出。世界は大雨によってゆっくりと水没していくことが示唆される。
セーヴ・ザ・ワールドよりもセーヴ・ザ・ガール!究極とも言えるアオハル・スピリット。ラストシーンで、彼らを近くで見守ってきた須賀圭介(小栗旬)はこんなセリフを吐く。
(C)2019「天気の子」製作委員会
「気にすんなよ、青年。世界なんて元々狂ってるんだから」(『天気の子』より抜粋)国民的作家となってしまった新海誠は、その名声を振り払うかのように、とてつもなく反社会的でアヴァンギャルドな作品を世に送り出したのである。筆者にはその姿が、大人に成りきることへの最後の抵抗のように見えた。
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