(C)2022「かがみの孤城」製作委員会
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インタビュー

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2022年12月22日

『かがみの孤城』原恵一監督インタビュー 「居場所がないのは当たり前」と教えてあげたい

『かがみの孤城』原恵一監督インタビュー 「居場所がないのは当たり前」と教えてあげたい

2022年12月23日より、辻村深月によるベストセラー小説を劇場アニメ化した『かがみの孤城』が公開される。

監督を手がけたのは、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』や『河童のクゥと夏休み』で知られる原恵一。どのように本作に向き合ったのか、どのようにエモーショナルな演出が生まれたのか。そして、優しい視点で作品を見つめていたことがわかる、インタビューをお届けしよう。

(C)菊池修
©菊池修

「職人監督」に徹した作品に

ーー映画『かがみの孤城』を手がけたきっかけを教えてください。 

原恵一(以下、原):今回は完全に依頼された仕事で、『はじまりのみち』でもご一緒した松竹のプロデューサーから、「この原作はアニメで」と要望があったからですね。そこから、今回は「職人監督」「アニメ映画請負人」に徹しようと思いました。

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ーー映画の後に原作を読んでみたのですが、原作のエッセンスを見事に抽出している作品だと思いました。アニメならではの演出のおかげもあって、一部のセリフが原作から省略されたりはしていても、キャラクターの魅力や、物語の本質はこれ以上なく伝わる内容であると思います。

原:最初に考えたのは、「原作の良さを引き出す」ということでしたから。もう1つは、「映画の尺としてどうまとめるか」ということでした。原作は文庫版では上下巻に分かれるほどのボリュームですが、映画では2時間に収める必要があります。そこも職人監督として、主人公のこころを中心とした物語にまとめることに注力しましたね。

ーー原恵一監督の中では、中学生たちの心の問題を描くという点で、『カラフル』がとても通じる作品だと思いました。

原:今回の話をいただいてから原作を読むと、東京に住む中学生の話だったので、正直「『カラフル』でやったよな俺」とも思ったんです。どうしようかと思っていたら、長年付き合いのあるProduction I.G.の石川光久社長から「絶対やったほうがいいよ」と背中を押していただいたので、請け負うことにしました。

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何気ないことを、とても大切に描く演出

ーー原恵一監督は、「実写は引き算で、アニメは足し算。でも、アニメでも引き算の手法を取り入れたい」といったことをKAI-YOUのインタビュー記事で語られていました。『カラフル』も今回の『かがみの孤城』も、まさに引き算的な思考で、最小限の演出で多くのことが伝わる演出をされていると感じたのですが、いかがでしょうか。

原:静かな場面で、大したセリフでもないのに、多くを感じることってあると思うんです。実写の映画やドラマで、そうした場面をたくさん観てきているので。あえて言わない、あえて見せない、あえて動かさないという、アニメとしては不安になるような作り方を「あえて」やるようにはしています。

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ーー『カラフル』で友達が肉まんを分ける時に、ちょっとだけ指を動かして、大きめに分けたほうを主人公にあげるという描写だったり、『ドラミちゃん アララ・少年山賊団!』のみんなが白いご飯を勢いよく食べるところだったり、原恵一監督作品はいつも食べ物が絡むシーンでの、登場人物の感情を伝える力がものすごいと思います。

原:そうした演出で今回の『かがみの孤城』でうまくいったと思うのは、こころと東條さんがふたりでアイスクリームを食べながら話す場面ですね。何気なく見えるけど、ものすごく大切なやりとりがあります。ずーっとお互いに距離があったふたりが久しぶりに会って、東條さんがこころの好きなアイスを選ばせてくれますから。共に大切な時間を過ごしているあの場面は、あまり語りすぎない方がいいと思いました。

ーーまさに、「語りすぎない」こと、細部で伝える原恵一監督ならではの演出だと思います。先ほどあげた『アララ』では、後ろにいるのび太の先祖をよく見ると、メガネをかけたり外したりして、しずかちゃんの先祖の綺麗さにドギマギしているという、「神は細部に宿る」な演出も大好きでした。

原:覚えてない(笑)。細かいところまで見てくださってありがとうございます。

 

悪い人を演出するのは楽しい

ーー演出と言えば、今回の『かがみの孤城』は怖いシーンも素晴らしかったです。家のドアの外、窓のカーテンの向こう側にいる、悪意のある人間が「襲ってくるかもしれない」恐怖が、これでもかと伝わって来ました。『エスパー魔美 星空のダンシングドール』や『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』でも原恵一監督は「暗闇」の表現がすごいと思ったのですが、それがホラー演出としても展開していたと思います。

原:あのシーンは明確に演出のプランを立てたところで、「外にカメラを出さない」ことを決めていました。シルエットだけ見せて、家の中からの視点で、恐怖を抽出したほうが、怖くなると考えたのです。

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ーー『かがみの孤城』では優しい人たちもたくさん出てくるのですが、人間の悪意ある言動が良い意味で辛かったです。それも『河童のクゥと夏休み』や『カラフル』でも人間の悪意を鮮烈に描いた、原恵一監督らしさなのかとも思います。

原:悪い人を演出するのって、すごく楽しいんですよ。お客さんにどれだけ「ひでぇなこいつ!」「うわあこいつ嫌い!」と思ってもらえるかどうかが、作品にとってもとても重要ですから。悪役が嫌な奴になればなるほど、こころが可哀想になって、感情移入できます。何より、最後には悪が倒されていることがわかっている、絶対に乗り越えることになるから、障害は高い方がいいんです。
 

脚本家・山田太一からの影響

ーー改めて、原恵一監督はアニメ映画の監督でありながら、実写作品からの影響の強い方だとお見受けしました。

原:自分の作品で、いちばん影響を受けているのは脚本家の山田太一さんなんですよ。山田さんの手がけるドラマが大好きで、その会話はため息が出るほど素晴らしくて、物語における会話はこうあるべきだと教えてもらった気がしますね。現実の会話のように自然かと言われれば、そうではない部分もあるのですが、ドラマの中ではものすごく自然に聞こえる。ちょっとしたセリフだけで、その人物がものすごく鮮やかに見えてくる。その描き分けが本当に見事なんです。

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ーー山田太一さんとよくタッグを組まれていた木下恵介監督への敬愛を、原恵一監督は実写映画『はじまりの道』で込められていましたね。

原:山田さんを先に好きになって、後で木下監督も好きになったんですよ。山田さんは松竹に入ってから木下組にいましたし、木下監督はテレビドラマに進出するときに山田さんに「自分が責任を持つから」と脚本を任せていたりしていました。そこで山田さんは、関係者を納得させる初稿が決定稿となる脚本をあげてくるんです。みんなでよってたかって、ああだのこうだのと脚本を手直ししすぎると、あまりよくならないことが多いと思っているので、その点でも尊敬していますね。
 

主人公のこころを演じた當真あみさんの「今」に出会った

ーーキャストについてもお聞かせください。麻生久美子さんは『カラフル』『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』『バースデー・ワンダーランド』と連続で原恵一監督作にご出演されていますが、それはやはりこだわりがあるからなのでしょうか。

原:僕が麻生久美子さんが好きだからです(笑)。

ーーなるほど(笑)。でも『カラフル』と同様に主人公のお母さん役ではありますが、良い理解者としての姿も見せていて、さすがの演技で表現されていました。他の若手キャストはいかがですか。

原:當真あみさんの「今」に出会った、ということは大きいですね。収録した時は15歳で、他キャストに比べるとキャリアは浅いのですが、その年齢、あの感じがこころにぴったりでした。去年でもない、来年でもない、それがすごく良かった。これから當真さんはいろいろと仕事が増えてくると思います。

アキ役の吉柳咲良さんは恐るべき女優ですよ。彼女(アキ役)を、キャラクターではなく、生の人間にしてくれました。

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リオン役の北村匠海さんは、実際の年齢が10歳以上も上なのは不安ではあったけど、スタートしたらもう大丈夫、上手かったですね。

自分からのリクエストなのは、フウカ役の横溝菜帆さんです。まだ14歳ですけど、個人的にはすごく期待していて、『義母と娘のブルース』というドラマで少女時代を演じていたのを見て、すごいなこの子となったんです。『バースデー・ワンダーランド』でも今回と似たキャラクターにキャスティングしていたこともあって、決め打ちですね。

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「監督は孤独である必要がある」の真意

ーー『かがみの孤城』のタイトル由来でもあると思うのですが、「監督は孤独である必要がある」といったシビアな内容の公式のコメントを出されていました。映画を作り上げた今はどのように思われているでしょうか。



原:あれは全然、嘘偽りのない本心ですよ。みんなで楽しく作ったら、そりゃあ楽しいですけど、それでいい作品になるかと言ったら、たぶんならないと思います。どこかでスタッフとぶつかったりしながらでも、監督の仕事をやらないといけないのですから。監督は、相談しすぎないほうがいいと思っています。最終決定は自分でする、監督はそういう立場でないといけない。そうであれば、当然孤独である必要があるんですね。

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もちろん「あれどう思う?」と聞くことはありますが、監督がするべきことは、自分がいいアイデアを思いついたら、周りが「ちょっとやりすぎじゃないですか」と言われても、もしくは止めようとしてもやる。それぐらいの意識が必要だと思います。

ーーみんなが反対しても「これをやるんだ」と決意し実行するというのは、言葉は良くないかもしれませんが、ある種のエゴイスティックでもある意志が必要なのかもしれませんね。

原:もちろんです。僕はエゴイストですよ。エゴがなかったら、監督なんかできません。

居場所がないのは当たり前

ーーエゴイスティックと言えば、劇中ではウレシノという少年にそういう面がありましたし、それ以外でも、中学生の登場人物は適度な距離感を保っているようで、深く傷ついたり、孤立したりもします。そうした彼らの心の動きで、共感したことはありますでしょうか。

原:僕自身は中学生である彼らの悩みに共感するような年齢ではないのですが、「最近の若い人と、僕らの若い頃とは違うなあ」と思うことはあります。例えば、「居場所」を求めていること、居場所がないと思っている人が多い。でも、「居場所がないのは当たり前だし、生きていて居心地のいい居場所なんてないよ」とも思うんです。

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中学生と高校生の頃は家庭と学校という場所で生きていて、人間関係は友達と親子くらいしかない。精一杯に生きている世界が小さいんだと思うんです。そういうところで生きづらさを感じている子どもたちを、助けてあげなきゃいけないとは思うし、「学校に行きたくなきゃ行かなくていいよ」と言ってあげたいし、行かなくたってなんとかなると思います。小中高で合わせても12年、それから先の人生のほうがずっと長いんですから。

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僕なんか、小中高で学んだことなんて、世の中に出て役になったことはひとつもないですよ(笑)。だから、「学校が嫌だったら行くなよ、行かなくていいよ」「旅行でもしたほうがいいんじゃないか。その方がよっぽど勉強よりも勉強になるよ」と言ってあげたいですけどね。

ーーその「別の選択肢もあるよ」ということは、この『かがみの孤城』という作品、原作者の辻村深月さんの考え方、そして優しさと一致していると思います。原監督も、仕事をやめてでもいいからと、東南アジアへ旅行に行かれたことがありましたよね。そうしたことが、作品に投影されているとも思います。

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『かがみの孤城』は12月23日より公開。原作者の辻村深月と、監督を務めた原恵一監督の優しさは、きっと本編を観れば伝わることだろう。

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