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アニメ好きライターが選ぶ!「2022年TVアニメBEST10」
アニメ好きライターが選ぶ!「2022年TVアニメBEST10」
3位「モブサイコ100 Ⅲ」
圧倒的な超能力を持つモブこと影山茂夫(かげやましげお)の、なんてことない日常を描き続けてきた「モブサイコ100」が、2022年10月から放送された第3期「モブサイコ100 Ⅲ」で完結した。
まず大きな声で叫ばせてもらいたい。
「ありがとう!モブサイコ100!!」
どんなアニメにもラストは存在する。ただこんなにも清々しく、前向きになれる完結とはそう出会えないと感じている。
そもそもモブサイコ100シリーズは、超能力バトルという強烈な非日常を描きながらも、人間の弱さや愚かさ、成長の余白といった人の本質に、丁寧にスポットライトを当ててきた作品だ。もはや超能力の部分がエッセンスではないかと思わせるほどの、人間味あふれる展開に視聴者は胸を打たれてきた。
そして迎えた、第3期最終章。ずっと抑え続けてきた最強の超能力者である自分と真っ向から向き合うモブの姿は、最凶でありながらもどうしようもなく人間だった。
この自分自身と対峙するモブの苦しみや痛みを、大胆なカメラワークや緩急のあるキャラクターの動きを駆使した壮絶なバトルシーン作画が見事に表現していた。
モブサイコ100を最初から最後まで見届けられる時代に生きられて、本当に幸せだと感じている。
2位「アキバ冥途戦争」
「花咲くいろは」「SHIROBAKO」「サクラクエスト」「白い砂のアクアトープ」……。さまざまな職業を題材に、お仕事シリーズと呼ばれるアニメを手掛けてきたP.A.WORKSというアニメ制作会社がある。
時に厳しい現実を目の当たりにしながらも、目の前の仕事に正面から向き合い、成し遂げるキャラクターたちの姿に、筆者は勇気をもらってきた。そして2022年の10月に始まった新作が、このシリーズに属する一作だと耳にした。
そのアニメのタイトルは「アキバ冥途戦争」。キャッチコピーは「萌えと暴力について」。食べ合わせ要注意な2つの用語が並ぶ違和感。そして1話終盤で、メイドカフェ「とんとことん」のエースが歌う楽曲にのせて始まる苛烈な銃撃戦。飛び散る血しぶき、赤く染まるフリル。見せの第1話を観終わって真っ先に思ったのは「P.A.WORKSの皆様、頭打ったのかな?」だった。メイドに任侠モノを掛け合わせたアニメを、お仕事シリーズに入れるのは、いささか強引すぎやしないか、と。
ただ不思議と目が離せない。むしろメイドたちが各々の心に持つ矜持に惚れていく自分がいる。そして最終回を経て、思う。「アキバ冥途戦争」はまぎれもなく、P.A.WORKSが誇るお仕事シリーズだったと。真摯に萌えに向き合い、メイドであり続けた主人公・和平なごみの生き様に、脳天が痺れた。
さあ、大丈夫。怖くない。ちょっと狂ってるだけだから!オッケーだもの!
1位「平家物語」
なんというか確信めいたものがあった。
2022年は「平家物語」を越えるアニメは無いだろうな、と。そして年の瀬を迎えた今、この確信は揺るぎないものとなった。
この作品を一言で表すなら「祈りの継承」だと思う。本作は、古川日出男氏が現代語訳した同名大作軍記物語をもとに、栄華を極めた平家が滅びゆくまでのたった十数年を描いている。この刹那とも言える時の流れの中に、歴史の教科書や年表には載っていない、その時代を生きたすべての人の息遣いが感じられたのだ。
例えば平重盛の嫡男であり舞の名手である穏やかな維盛が、必死に心を奮い立たせ刀を振るう姿からは、時代の転換点に立たざるを得なかった人の強い葛藤や痛みが感じられた。また戦という表舞台には立たないものの、この時代に振り回された女性たちの感情もがありありと伝わってくる。3歳で即位し、源平の争いに巻き込まれた安徳天皇の母・徳子からは、劣勢に立たされる中でも、天皇の母である前にただただ愛するわが子を守る母として生きるという強い覚悟が見て取れた。
膨らみすぎた権力に抗えない苦悩を抱えて生きた人々の想いが、今を生きる人々に「どうか同じ苦しみを味わわないで」という祈りとして、今を生きる私たちの現実として伝わってくる。この物語は過去の話ではない。今を生きる私たちの物語でもあるのだ、と。
また、背景の美しさはアニメ史に残ると思う。1話で描かれた四季の移ろいは、滅びの未来が約束された平家に流れる残酷すぎる時間の早さを、儚く、美しく表現していた。平家物語の冒頭と劇伴の「purple clouds」をバックに、徳子が最期を迎える紫雲のシーンは、もう圧巻としか言いようがない。
TVアニメ「平家物語」は、「語り継ぎたい」ではなく「語り継がなければならない」映像作品だと感じている。
【関連記事】アニメ「平家物語」と『この世界の片隅に』で紐解く“祈り”の継承
思いがけないトレンドが巻き起こった2022年のアニメ界
筆者は、実は「ぼっち・ざ・ろっく」をそこまで注視していなかった。しかしSNSで話題になっているのを見て後追いで視聴を始めたところ、そのエモさにどっぷりと浸かった次第だ。反対に尻すぼみになっていく注目作も少なくはなかった。2022年に上映された、アニメ製作に携わる人々の熱狂を描いた『ハケンアニメ!』では、覇権をとるアニメの指標が視聴率やディスクの売上として描かれていた。もちろんこれらも指標の1つではある。しかし毎週のようにSNSのトレンドをにぎわせた「リコリス・リコイル」や「ぼっち・ざ・ろっく」「アキバ冥途戦争」だって覇権候補だろう。またDisney+独占から配信先が増えたタイミングでSNSのトレンドに入った「サマータイムレンダ」も、人の心に刻まれていたヒット作ではないだろうか。
このようにヒット作の中には、思いがけないリアルタイムな反応や誰かの中で傑作になっていたものが後になって表に出てくる場合もある。2022年は、この思いがけないトレンドのおかげで、想像以上にいい作品と出会えた年だった。2023年も思いがけないトレンドに全力で頼っていきたい。
(文:クリス菜緒)
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