「らんまん」老人に食べにくい大きな山椒餅を作る万太郎、喉につまらせたらどうする<第23回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第23回を紐解いていく。
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キツネノカミソリ
反政府運動と国家権力との騒動に巻き込まれた万太郎(神木隆之介)。迎えに来たタキ(松坂慶子)たちと村に帰る途中、彼岸花に似た花を見つけます。なんていう名前だろう?と思うと、タキが「キツネノカミソリ」と呼ぶと教えてくれました。
年の功で、昔から伝わっている花の名前を知っていることが彼の知識欲を刺激します。
「わし おばあちゃんともっともっと話よったらよかった」と後悔する万太郎。調子いいやつという感じですけども。あとあとになって身近な人の意外な一面を知ることはあるものです。
キツネノカミソリを掘り起こして大切に持ち帰る万太郎。
出てくる植物がほぼすべて造花らしいのですが、このドラマの功労者はこの植物を作っている人達でしょう。若干みずみずしさがないのが惜しいですけども。
逸馬の着物の色を思わせる緋色のキツネノカミソリに逸馬(宮野真守)を思う綾(佐久間由衣)の心が染みました。もう出てこないのでしょうか逸馬は。回想シーンを入れずに花だけだったのが上品です。劇伴のピアノも上品です。弦楽器は情を煽りますが鍵盤には理性があります。
峰屋に戻ると、タキがものすごく疲れて見えて(そりゃそうです、5時間以上歩いているはずなので)、万太郎は労おうと手ずから山椒餅を作ることに。
できたのはやたら大きな山椒餅。大きいのを頬張りたいという子供の時の希望をかなえたのです。おばあちゃんのために作ったのかと思ったら、結局、自分の気持ち優先で、おばあちゃんが食べにくい大きさにするところが万太郎らしい。老人が餅を喉に詰まらせたらどうするのか。
タキが懐紙で隠しながら食べるところが上品です。昔ながらの所作っていいものですね。
タキが山椒餅を食べ終わると、綾と結婚できないと自分の気持ちを語り、勘当してくれ、と頼みます。
「生まれてこんほうがよかった」と言ってタキを悲しませますが……。
「わがままなのは構わん けんど人の思いを踏みにじるのはいかん」綾はほんとうによくできた人。養子だから心配性というわけでなく、生い立ちを知らないで育ったにもかかわらず、他者への気遣いがある。甘やかされた万太郎とはえらい違いです。
(綾)
ただ、そう言って一旦がっかりさせておいて、いまはそうじゃないと説明するのです。
「とびっきりの才があるがよ」
「好きいう才が」
「生まれてこんほうがよかった」と落胆していた少年が、タキや店の者たちに大切に育まれたおかげで、自分の特性を伸ばすことができた。
異端な者には周囲の理解と慈しむ心が大事であるということを万太郎は認識できたのです。それは高知で逸馬たち、恵まれない者たちが自由を獲得しようと声をあげている姿を、それが権力に踏みにじられる姿を、目の当たりにしたからでしょう。そんなとき自分は優遇されていることを自覚したのでしょう。
大切に育てられた異端の者の、いよいよ旅立ちの時が近づいているようです。
(文:木俣冬)
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