続・朝ドライフ

SPECIAL

2023年07月28日

「らんまん」田邊教授が激怒する気持もわからなくもない<第85回>

「らんまん」田邊教授が激怒する気持もわからなくもない<第85回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第85回を紐解いていく。

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万太郎、出禁になる

やっちまったな、万太郎(神木隆之介)

田邊教授(要潤)に、ムジナモの論文を書くように言われ、やる気満々で論文と植物図を書き、植物図譜の第3巻を刷り上げます。

絵を描いている最中、植物学教室の人たちのとのことを思い出し、彼らとの出会いに感謝しながら、描き続けます。

「みんながおったきこそ、わしはこの1枚が描けた」

完成したものはすばらしい出来で、みんな大絶賛。

ところが、その盛り上がりに水を指したのはーー

田邊です。

田邊は、万太郎に「君は自分の手柄だけを誇っているんだな」と冷たい眼差しを向けます。

できた図譜のどこにも、田邊の名前はありません。
田邊はてっきり、自分との共著になると思っていたようで、だからこその論文執筆の勧めであったのです。

万太郎はきょとん。

そんなこと思いもよらなかったようです。「みんながおったきこそーー」と思ってるときには、田邊の笑顔も思い浮かべていたのに……。

「もちろん感謝しています。ほじゃから懸命に描いて……」というリアクションは、
人を苛立たせるに足るものです。

大窪(今野浩喜)はあわてて、田邊との共著としての刷り直しを提案。このひとも相変わらず掌返しだなあーと思いますが、悪い人ではないことがさんざん描かれているので、不快な気分にはなりません。いや、たぶん、大窪は大窪なりにこの場をなんとか収めようとしたのでしょう。でも万太郎は、ピンと来ない。鈍すぎる!

田邊は、怒って、万太郎に植物学教室への出入りを禁じますが、もはやそれは理不尽な虐めには思えません。

むしろ、それなりに歩み寄った田邊が、お気の毒過ぎるという気分にすらなります。

徳永(田中哲司)に第85回で「教授がお前に 世界への花道をかけてくださった この感謝を忘れるなよ」と強く言われたのに、気づけない万太郎には、シェイクスピアの「リア王」を思い出します。

リア王は娘3人に引退するにあたって、娘3人に財産分与することにして、それぞれに自分に対する思いを聞く。長女と次女に  飾り立てたことを言われ喜ぶリアですが、バカ正直なことしか言わない末娘に落胆し、勘当してしまいます。結果的には、末娘が最も父を愛しているのですが……というお話です。

万太郎が最も田邊を愛しているかといえば、そういうわけではないでしょうが、研究室の人たちが、保身のために田邊を腫れ物に触るようにご機嫌取りしていることは事実。リアの長女と次女のように強欲ではないですが。

万太郎は良くも悪くも、保身などいっさい考えず、丸腰で、植物研究一筋。ただ、はじめて学会誌を作ったときには、大窪に巻頭言を依頼したり、それなりに処世術を発揮していましたから、なんで、その感覚を退化させてしまったのか。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」であってほしい。
共著ではないにしても、謝辞は入れるべき。実際、田邊が、ムジナモが日本ではまだ発見されていないという情報を得ていたのと、論文を許可したわけで、それはひとえに東大の植物学を世界的に知らしめたいという気持ちから、だとは察して然るべき。

共著じゃねーよ、と思っても、なにかしら田邊の機嫌をとることをなぜ、考えないのか、それは、野宮(亀田佳明)言うところの「無知」だからで済ませていいものでありましょうか(力説)。

モデルの牧野富太郎はどうだったのか、こういう人だったら、たぶん、身近にいたら、どんなに天才でも好きじゃないかも、と思って、牧野富太郎の自伝や、小説化して話題の「ボタニカ」の、ムジナモあたりの項目を確認すると、当然ながら牧野主観で描いてあり、さらりと、田邊のモデルの谷田部にひどい仕打ちを受けたような印象を受けるような描き方です。モデルの人は学歴はなくとも、ドラマほど無邪気ではない人だと想像します。

「らんまん」は朝ドラの主人公として、天真爛漫、純真、無邪気な人物として描かないとならない制約のなかで、どうにかして、ある圧倒的天才の影に隠れたほかの者たちの言い分も描くか、熟慮している気がします。


(文:木俣冬)

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