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2023年07月25日

<考察>『君たちはどう生きるか』主題歌「地球儀」に込められた、米津玄師から宮﨑駿への想いとは

<考察>『君たちはどう生きるか』主題歌「地球儀」に込められた、米津玄師から宮﨑駿への想いとは

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7月14日(金)より公開中の、宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』。この物語を優しく締めくくるのは、米津玄師が本作のために書き下ろしたバラード「地球儀」だ。

筆者は情報シャットアウト状態で公開初日に駆けつけ、J-POP界のトップランナーである米津玄師の歌声がラストに流れたとき、相当な衝撃を受けた。

米津玄師は自身のTwitterで次のように語っている。
「君たちはどう生きるか」の為の曲であり、わたしが今まで宮﨑さんから受けとったものをお返しする為の曲でもあります。

米津玄師 Twitterより
つまりこの楽曲は、米津玄師から宮﨑駿へのラブレターであり、クリエイターとしてのシンパシーを表明しているのだろう。

という訳でこの稿では、この楽曲に込められた想いについて紐解いていきたい。

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外の世界への解放



「地球儀」のイントロは、高らかなバグパイプの音色で始まる。そこに柔らかなハミングが重なり、「僕が生まれた日の空は 高く遠く晴れ渡っていた」と優しく語り始める。その“僕”は、「時に人を傷つけながら」、「風を受け走り出」し、最後に「扉を今開け放つ」。

普通に考えれば、“僕”とは米津玄師その人だ。「扉を今開け放つ」という歌詞には、モノづくりに邁進する純粋な想いが込められている。

もともと彼は、ニコニコ動画に自分の作品を投稿することでキャリアをスタートさせたアーティストだ。音声合成ソフトのVOCALOID(ボーカロイド)を駆使して楽曲を制作する、ボカロPだったのである。やがて、「インターネット上のプラットフォームにとどまっているだけでは、本当の意味での普遍性は獲得できない」と感じるようになっていく。

そのきっかけとなったのが、昔から大好きだったジブリ映画。ファンタジーを描きつつも、宮﨑作品には常に現実に対する眼差しがあった。観る者をアニメーションの世界に耽溺させるのではなく、その外の世界へと羽ばたかせる作用を果たしていたのである。



ハチという名前で活動していた米津玄師は、2012年より本名での活動を開始し(芸名っぽいが、米津玄師は本名なのである)、2013年にメジャーソロデビュー。その後、DAOKOとコラボした「打ち上げ花火」、菅田将暉をヴォーカリストに迎えた「灰色と青」、第33回日本ゴールドディスク大賞(ソング・オブ・ザ・イヤー・バイ・ダウンロード 邦楽部門)に輝いた「Lemon」と、次々にヒット曲を発表。あっという間にスターダムへと駆け上っていった。

いわば宮﨑映画は、自分を外の世界へと解放してくれた恩人。「わたしが今まで宮﨑さんから受けとったものをお返しする為の曲でもあります」という謝辞は、そんなところにも起因しているのだろう。

2017年に発表した「砂の惑星」は、フランク・ハーバートによる同名SF小説からインスパイアを受けたナンバー。その歌詞のなかにも、『天空の城ラピュタ』を彷彿とさせる「天空の城まで僕らを導いてくれ」と一節が登場する。

彼の創作の原点には、常に宮﨑駿がいたのだ。

▶︎米津玄師「地球儀」を聴く

“僕”の正体

©︎2023 Studio Ghibli

筆者が興味深く感じたのは、「地球儀」のイントロにバグパイプを使っていることだ。

『君たちはどう生きるか』は、幻想的なファンタジー映画の骨格をまとっている。詳しいネタバレは伏せるが、この映画で描かれているファンタジーの世界と、スコットランドの民族楽器との関連性は、正直見当たらない。「地球儀」は映画のために書き下ろされた楽曲でありながら、どこかミスマッチなのだ。なぜ、米津玄師はそんなアレンジを施したのだろうか?

そこで思い出すのは、『となりのトトロ』だ。戦後まもない日本を舞台にした本作のオープニングを飾る楽曲は、『さんぽ』。実は、この曲にもバグパイプが使われていた。

作曲・編曲を担当した久石譲へのインタビューによれば、日本の土着性を感じさせるようなサウンドではなく、あえて異国情緒バリバリのバグパイプを提案したところ、宮﨑駿が面白がってOKを出したのだという。当初はイントロだけにインサートされる予定だったのだが、宮﨑監督からのリクエストによって、全面的に使われることになったのだ。

このエピソードを米津玄師を知っていたかどうかは、正直よく分からない。ただ「地球儀」で使われるバグパイプの音色は、おそらく「さんぽ」と同じように、異世界へと導くしるしとして機能している。

©2023 Studio Ghibli

もう一つ興味深いのは、ジャケットだ。そこに描かれているのは、机に向かう少年の後ろ姿。もちろん『君たちはどう生きるか』のワンシーンを切り取ったものなのだが、その背中はスタジオジブリで一人絵コンテを切る宮﨑監督のようでもある。

米津玄師は次のように語っている。
この4年間のあいだ、幾度か小金井のスタジオへと足を運び、宮﨑さんや鈴木さんとお話をさせて頂いたのですが、その殆どが不思議なくらい気持ちよく晴れた日でした。近所にいる園児の声を聞きながら、黒々と落ちた木陰の中を歩いたのをおぼえています。常日ごろ狭い部屋で独り過去の記憶を辿りながら作曲をしている身からすると、それは豊かと呼ぶ他ない体験でした。

米津玄師 Twitterより
そして彼が続けてきた孤独な作業は、宮﨑駿にも当てはまるものだ。つまり“僕”とは、米津玄師であり、宮﨑駿であり、孤独を抱えながらモノづくりに邁進する全てのクリエイターが投影されたものなのではないか。

まるで宮﨑監督が座る椅子の音をサンプリングしたかのように、ギシギシ音を立てるSEがそこかしこにインサートされているのは、そのモノづくりを端的に表現したものだろう。

「地球儀」は、「飽き足らず描いていく 地球儀を回すように」という歌詞で結ばれる。筆者の脳内には、ジャケットに描かれていた少年が、小さな部屋で嬉しそうに地球儀を回している姿が浮かぶ。

どれだけファンタジーの空想をはためかせても、それは閉じた空間にとどまらせるものではなく、外の世界へと羽ばたかせるもの。文字通り米津玄師が「宮﨑さんから受けとったもの」が、音楽として昇華している。

だからこそ「地球儀」は、同じように宮﨑映画に触れてきた観客に、強烈な感動を呼び起こすのだ。少なくとも筆者には、そんな気がしてならない。

(文:竹島ルイ)

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