「らんまん」園子の死の重さとかる焼きの甘さ<第91回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第91回を紐解いていく。
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倉木の優しさが染みる
8月6日からはじまった甲子園中継のため「あさイチ」と「朝ドラ受け」はしばらくお休み。これが夏の風物詩。また、終戦の日を15日に控え、残暑の厳しいこの頃の朝ドラは、重めな話になることが多いのです。
おそらく、戦争を経験した人の気持ちを慮り、経験したことのない人にも伝えるように、と考えているからではないかと想像します。
朝ドラでは必ずといっていいほど「喪失」の悲しみを乗り越えるエピソードが重要な位置を占めます(*朝ドラ辞典「喪失」ご参照)。
戦争に限ったことではなく、喪失の悲しみは古今東西、誰もが味合うもの。
万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)は第一子・園子をはしかで亡くし、それこそ大きな喪失感を覚えています。
万太郎は髪の毛ぼさぼさで、あの天真爛漫な笑顔はなく、植物にも目がいきません。
寿恵子はずっと横になったまま。お腹のなかに第二子がいることもあって身体的にもつらいのでしょう。
あるとき、ふいに、園子の泣き声が聞こえたと、外にふらふら出ていってしまうほど、意識もはっきりしていません。
月足らずで産んだからと自分を責める寿恵子。
万太郎も、自分が植物採集ばかりしていたからと反省します。
こういうときは自分を責めてしまうもの。第二子がお腹のなかにいるのも複雑な気分でしょう。第二子のためにも元気に、と言われても、園子の代わりにはならない。園子が亡くなったのに、新たな生命が芽生えていることをいまは素直には喜べない。でも新たな生命には罪はないし、祝福し大切にしたいのに。ここにも生きる矛盾が存在します。生きることってほんとうに複雑です。
「時薬」という言葉を使う倉木(大東駿介)。
時間が解決してくれるという考え方があって、例えば、「半分、青い。」第128回では「日にち薬」と言われていました。
倉木はそう言いながら、無造作に布にくるまれたものを万太郎に差し出します。
中には何が??? お金? 植物? 石?
ーー卵でした。
第90回で、倉木が九兵衛(住田隆)に「牛込で車を押していた」と指摘されていましたが、卵を買うために働いていたのかもしれません。
卵でおかゆをつくるまつ(牧瀬里穂)。でも、寿恵子は食べられません。もったいない。
考えた万太郎は、まつからかる焼きの作り方を教わり、作ってみます。
ようやく食べられる寿恵子。万太郎と寿恵子の出会いのきっかけになったかる焼きが寿恵子を少しだけ元気づけました。
朝ドラでは子供を亡くすエピソードが少なくありません。「花子とアン」や「マッサン」などがあります。子供が亡くなる話は胸が痛いです。モデルがいる物語だとしても見ていてつらい。でも書くのはなぜでありましょうか。実際に子供を失った人たちの悲しみを分かち合うことなのかなと思います。
発展途上だった日本、食生活や衛生や医療がまだまだ成熟してない時代、子供が亡くなることは今より多かったでしょう。りん(安藤玉恵)も長屋ではこういうことがよくあるようなことを言っていました。第90回では「7つまでは神のうち」とも言っています。そう思うことでやり過ごしたり、だからこそ大切にしたりしてきたのでしょう。
「らんまん」では神木隆之介さんと浜辺美波さんが、少年少女のような雰囲気もあって、若く未熟な夫婦が大きな悲しみに遭遇して、それでも懸命に生きている様が胸を打ちます。ああ、でも、そろそろ光が見えてほしい。
(文:木俣冬)
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