(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

映画コラム

REGULAR

2023年08月04日

『カールじいさんの空飛ぶ家』が賛否両論を呼ぶ、だけど肯定したい「3つ」の理由

『カールじいさんの空飛ぶ家』が賛否両論を呼ぶ、だけど肯定したい「3つ」の理由


2:おしゃべりなカールを筆頭とした3人のウザキャラが仲間になる

さらに賛否両論を呼んでいるのは、少年ラッセルのキャラクター性だ。彼はおしゃべりで黙っていられない、下世話な言い方をすれば“ウザキャラ”でもある。しかも、巨大な怪鳥のケヴィンと、しゃべる装置をつけた犬のダグも勝手にカールについてくる。カールにとって、うっとおしい存在が3人(1人と1羽と1匹)も仲間というか“お供”になるという、こちらもかなり大胆なパーティ構成だ。もちろん意図的なものだが、人によっては彼らに必要以上のイライラも感じてしまいかねないだろう。

ただ、筆者はこのウザキャラが3人もいることにも、確かな意味があると思う。なぜなら、それぞれの境遇はかなり切なくて、明るく振る舞っているのも、それぞれの“虚勢”のようにも思えるからだ。

例えば、ラッセルはおしゃべりで自分勝手にも見えるが、その実ちゃんと大人に“許可”を取ってから行動する分別もある。例えば、空飛ぶ家の外で空高くから落ちてしまいかねないような事態でも、カールに「しょうがないな」と言われるまで勝手にドアの中には入らなかった。そんな彼でも「僕の秘密の話をしてもいい?」と聞いて即座にカールに「ダメだ」と断られても、結局は彼は「今までキャンプをしたことがない!」としゃべっていた。そして、その後のラッセルの言葉からは複雑な家庭事情、はっきりと「親が離婚している」ことがわかるのだ。

ラッセルは「フィリス(おそらくパパの再婚相手)はママの邪魔をするなって」「お年寄りのバッジをつけた時は、パパは来てくる」と、明らかに両親が離婚したことに寂しさを募らせている。カールに「どっちが長く黙っていられるかゲーム」を提案され、ラッセルが「僕のママもそのゲーム好きなんだ!」と答えるのは、ママが我が子さえもうとましく思ってしまった瞬間があったからなのかもしれない。

これらは、前述した冒頭のカールとエリーの人生をサイレント手法で語ったこととは対照的であり、「子どもの言葉の端々から彼の気持ちが伝わってくる」演出としても秀逸だったと思う。そんなカールが「自分の秘密の話」を許可されずとも話したかったのは、それほどまでに「自分の寂しい気持ちを誰かにわかってほしい」からだろう。

さらに、ベンも仲間の犬のアルファたちから、ものすごくぞんざいに扱われ、からかわれてきたことがわかる。「特別任務のつもりで(怪鳥を見つけに)行っている」「なんの当てもなく探しに出て、今頃無駄足を踏んでいるだろうな」などと言われているのに、「(怪鳥のケヴィンを)連れて帰ったら僕のことを好きになってくれる?」と聞いたりするベンも不憫で仕方がないのだ。

さらに男性名がつけられたケヴィンは実はメスで、我が子の元に帰りたいと願っていた。両親からの愛情に飢えていたようにも思えるカールが、母親であるケヴィンが巣に帰るまで「見届けてあげなきゃ」と願うというのも、あまりにいじらしい。

このように、初めこそウザキャラにも思えた3人には、“そうなる”だけの理由がある。個人的には、振り返ってみれば、ウザくなんてない、みんななんてかわいいんだと思えるようになってきた。その気持ちは、初めこそ3人を遠ざけようとしたとしても、彼らのために勇気のある行動をするようになるカールと一致していた。

また、子どもの頃のカールは、おしゃべりなエリーに「あなたって無口なのね。気に入った!」と言われていて、その後に結婚をする。もともと、カールはおしゃべりな誰かとも相性がいい、受け入れることができる性格だったからこそラッセルはもちろん、ダグやケヴィンとも友だちになれたと言えるだろう。

ちなみに、共同監督および脚本を務めたボブ・ピーターソンによると、ダグの「あなたに会ったばかりだけど、もうあなたのことが好きです!」というセリフは、キャンプカウンセラーだった頃に出会った小さな子どもの言葉からインスピレーションを得たそう。なんてかわいいんだ!

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

RANKING

SPONSORD

PICK UP!