映画コラム

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2023年11月11日

『正欲』で稲垣吾郎が見せた本気の実写化|原作の細部まで語る表情

『正欲』で稲垣吾郎が見せた本気の実写化|原作の細部まで語る表情

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朝井リョウによるベストセラー小説を実写化した、映画『正欲』。筆者は本作の原作を読んだときにまさに言葉を失ったのだが、その衝撃は今回の実写映画を観た後の感想にもそのまま繋がった。それは、繊細なテーマを取り扱う原作を映像作品として再構築したとは思えないほどに、違和感なく脳内のシーンがリンクしたからだろう。

そしてこの痛烈な衝撃作を映像化するにあたり、俳優としての真価を観客に見せつけたのが稲垣吾郎と新垣結衣のタッグだ。中でも、“普通の生き方”に囚われた寺井啓喜(てらいひろき)を演じた稲垣の演技は、原作のキャラクター性を自然に汲みながらも、映画ならではの寺井を作り上げていたように感じる。

本稿では、原作小説『正欲』における寺井の立ち位置と映画の微妙な差異をなぞらえながら、本作の稲垣の演技を振り返っていく。

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映画『正欲』で稲垣が演じた「普通に囚われた男」


まずは、稲垣が演じていた寺井という男がどういう人物だったのかを一度整理しよう。

寺井は横浜地方検察庁に勤める検事だ。彼は動画配信を始めた不登校の息子に不安を抱いており、世間からの断絶を何よりも恐れている。「子どもは学校に必ず行くべき」と主張する彼自身、レールから外れた人間へと向ける視線は冷ややかなものである。

亭主関白な一面のある、堅物で融通の聞かない男。ある意味では“どこかにいそうな”中年男性でもある寺井を、稲垣は完璧に演じ切っていたのではないか。寺井の固定観念に囚われた頑固な性格が最も表れていたであろう夫婦喧嘩のシーンで声を荒げる稲垣の姿には、演技といえど鳥肌がたった。

また、本作において、寺井は正義や普通というものを重んじる人間であり、特殊性癖を持つ桐生夏月や佐々木佳道とは真逆のポジションにいる人間として描かれていた。

この「理解できる範疇の“普通”しか理解したくない」とも取れる寺井の言動の数々は、原作に通ずる部分も多い。しかし、改めて比較をしてみると若干の違いが見受けられる点もある。

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©2021 朝井リョウ/新潮社  ©2023「正欲」製作委員会

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