「ブギウギ」羽鳥の敬愛するメッテル先生とは何者か<第36回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第36回を紐解いていく。
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戦争が近づいてくる
第8週「ワテのお母ちゃん」(演出:福井充広)はちょっと暗くはじまりました。昭和14年9月、第二次世界大戦がはじまろうとしています。下宿では、チズ(ふせえり)が、お米が配給制になるらしいと気をもんでいるにもかかわらず、スズ子(趣里)はおかわりを頼みます。まだ、事態は切迫はしてないのです。
でも梅丸楽劇団でも、時局に合わせた演目や演出をすることに。派手な松永(新納慎也)に代わってやってきたのは、やや地味で生真面目そうな竹田(野田晋市)。「〜と私は思うんですね」が口癖のようです。
さっそくスズ子の化粧をもっと地味にするよう注意します。先が思いやられますが、辛島(安井順平)は、竹田はオペラをやっていて芸術の下地がしっかりあること、息子が戦地に行ってることなど、竹田の事情を慮ることを伝えます。オペラなんて最もお金がかかる派手な演目ですから、そういうことができず、抑えめな演目には竹田も忸怩たるものがあるし、息子のことも心配だし、みたいなところでしょうか。
いつも飄々として自由な羽鳥(草彅剛)も、そのうちジャズは愛国精神が足りないって禁止になるんじゃないかと予想しているうちはまだよかった。敬愛し、家に写真も飾っているメッテル先生が国外退去になったことに激しく怒ります。
このとき、「ウクライナのキエフから来た」とやや説明セリフで、メッテル先生がロシア革命から亡命してきたことを伝え、現代と地続きであるように視聴者に感じさせているような気がします。
メッテル先生は、実在の人物で、エマヌエル・レオニエヴィチ・メッテルという音楽家。戦前、ロシアから日本に移住し、京都大学交響楽団や大阪フィルハーモニック・オーケストラで指揮者として活躍しました。
羽鳥のモデル・服部良一のほか、指揮者の朝比奈隆がメッテルから西欧音楽の教育を受けています。服部のジャズにはメッテルの教えの影響が多分にある、ということで、羽鳥もメッテル先生をひじょうに敬っているように描かれています。
その先生が「日本人、おバカさんね」と失言したことで、国外追放になったというのはどういうことなのでしょうか。服部良一の自伝「ぼくの音楽人生」には、昭和14年、先生が練習中、楽団の日本人演奏者がミスを何度もしたとき、「アタマ、スコシ、バカネ」と言ったことで日本人をバカにしたと激怒されたらしいことが書いてあります。
でもこれは、日本語がたどたどしいメッテル先生の口癖で(チコちゃんの「ボーッと生きてんじゃねーよ」や「どうする家康」の「あほたわけ」や、ビートたけしの「ばかやろう このやろう」みたいなものでしょう)、他意はなかったものの、時局柄、捨て置けなかったのでありましょう。運が悪かったとしか……。でも今まで問題なかったことが大事(おおごと)になるのが、戦争です。おーこわ。
第36回は、羽鳥と妻・麻里(市川実和子)との馴れ初めも興味深かったし、その出会いの場・喫茶店バルボラの名前って稲垣吾郎さんが主演した映画のタイトルが「ばるぼら」だったなあと思ったりしつつ、大阪の、ツヤ(水川あさみ)の容態が気になり、六郎(黒崎煌代)に赤紙が来て、彼が無邪気に大喜びしているところが切なくて、月曜から密度が濃すぎました。
(文:木俣冬)
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