「ブギウギ」ツヤの病状、六郎の「行きます」、すべてがつら過ぎる<第37回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第37回を紐解いていく。
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起これ、桃の奇跡
つらくてもう見ていられない。でも、それぞれが家族を思う気持ちが遠赤外線のようにじんわり伝わって来る、そんな回でした。熱々やで。大阪ではツヤ(水川あさみ)の病状が悪化していました。
町医者・熱々先生(妹尾和夫)は自分ではどうにもならないから、専門医に診てもらうよう忠告しますが、ツヤは気乗りがしません。お金もかかるし……としきりにお金のことを気にしています。
銭湯の客が減っているというのは戦争の影響? それとも内風呂が増えている? いや、内風呂の普及は戦後です。ツヤが家計を心配するのは、彼女がそれだけお財布をしっかり管理していたからなのでしょう。決して裕福ではなく、すこし油断したらたちまち吹けば飛んでしまうような生活なのかも。寝込んで、家のこともできなくなって、いろいろ心配なことでしょう。
こんなときでも梅吉(柳葉敏郎)は働きません。ただただ心配しているだけ。ツヤの代わりに番台にあがり、家業の手伝いをするのは六郎(黒崎煌代)。彼はアホのおっちゃん(岡部たかし)から料金をとろうとするほどしっかり働いています。その六郎に赤紙が……。
坊主頭になった六郎がツヤの寝室に顔を出し、布団に頭をぐりぐりとこすりつけます。甘えたい気持ちの表れがかいらしい。
赤紙は自分が一人前と認められた印と思っている六郎を、ツヤは否定はせず、共に喜ぶふりをしながら、心は痛んでいるでしょう。カラダも弱り、心もつらい。弱り目にたたり目とはこのことです。
熱々先生の紹介で診察に来た医者からはさらにつらい申告が……(ノベライズを読むとズバリ書いてあるのですが、ドラマでは省かれています)
ツヤがこのことを子どもたちには明かさないと決意したため、なにもしらない六郎は、戦争の予行演習をして大はしゃぎ。いつもは、六郎の大騒ぎを広い心で受け止めている梅吉が、かつてない剣幕で「静かにせい!」と怒鳴りつけて……。
花田家はいま、かなり追い詰められています。はな湯の常連たちも心配顔。いてもたってもいられず、アホのおっちゃん(岡部たかし)が桃を探しに出かけます。
果たして、桃の奇跡は再び起こるでしょうか。起こってくれ。
桃の奇跡とは、スズ子(趣里)が子供のとき百日咳疑惑で寝込んでいたら、ゴンベエ(宇野祥平)が季節外れの桃を見つけてきて、それを食べて元気になった話です(第12回)。
そして、あっという間に六郎が出征する前夜になり、六郎はツヤの部屋へーー。
また頭をぐりぐり。
ツヤ「かわいいで」
六郎「かわいない」
ツヤ「たのもしくなった ひげも濃うなったし 男の子や」
六郎「昨日剃ったけどな」
こういうなにげない会話が切ない。
六郎はアタマがいいのかそうでないのか、とても不思議な子で、ぼーっとしているところがあるかと思えばやけに鋭いところもあります。
出征する前に「世話になったひとにあいさつに行く」と極めて常識的なことを言い、「軍隊でがんばってどんくさいのを卒業する」と決意を語るのも、自分のことでアタマがいっぱいのようにも見えるし、母を心配させたくないようにも見えます。いずれにしても純真そのもの。ツヤは、誰もが六郎のように、素直で正直な人間になりたいと思っているのだ、と言います。本当にそのとおりですね。
そしてツヤはやっぱり「野菜しっかり食べてな」とカラダのことを心配します。
六郎の背中をさするツヤの手があたたかくやさしい。
翌朝、息子の旅立ちに、起きて、見送ることもできず、布団の中で、外の「万歳」の声に耳をすますツヤ。ここでさめざめ泣いたりしないことが逆に切ない。
「行って参ります」と言うと、帰ってくる気でいることになるので「行きます」と言わなくてはいけないという暗黙の決まり事に従う六郎。「ガンダム」の「アムロ、行きます」をなにげに愉快に言ってる現代っ子と、戦争ごっこする六郎が重なります。
「行きます」を国が強いていた時代があった。この時代の経て、もう2度とそういうことはないと思いたい。
一方、東京では、竹田(野田晋市)が「と私は思うんですね」と言っていて、なぜか羽鳥(草彅剛)も
「と僕は思う」「僕なんかは思う」みたいに似てきているところが、そこはかとなく面白い。
(文:木俣冬)
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