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【名言・名場面】ドラマ「大奥」が教えてくれたこととは?


幕末編

【あらすじ】
家斉の時代に赤面疱瘡は撲滅され、再び男の世が訪れる。そんな中で、徳川家康に影武者として仕えた阿部正勝の子孫・阿部正弘(瀧内公美)は腰の重い兄に代わり家督を継いだ。正弘は女将軍として復活した家定(愛希れいか)や元陰間の瀧山(古川雄大)に支えられながら、西洋列強に対抗するための新たな仕組みづくりを目指す。一方、薩摩からやってきた正室の胤篤(福士蒼汰)と心を通わせていく家定。やがて時代は大政奉還、江戸城無血開城と大きく突き進んでいき、胤篤は瀧山とともに大奥の終焉を見届けることになる。

4. 「私はそなたが好きなのだ」

茂姫(蓮佛美沙子)やお志賀の方(佐津川愛美)ら、愛する子供を殺された母親の手で退治された治済。しかし、治済の忌まわしき血は徳川家慶(高嶋政伸)に受け継がれることとなる。

その被害に遭うのが、娘の家定。彼女は実の父である家慶の慰み者にされ、母親からは毒を盛られるという壮絶な人生を送っていた。

そこから救い出してくれたのが、正弘と瀧山だ。2人は家定にとって家臣であり、母と父のような存在でもあった。無償の愛を注ぎ、心から自分の幸せを願ってくれる存在に人は一歩踏み出す勇気をもらえる。家定が初めは警戒していた胤篤と心を通わせることができたのも、正弘と瀧山がいてくれたからに他ならない。

「私はそなたが好きなのだ」と口にした途端、家定の目からは自然と涙が溢れた。インタビューで、「しおれていた花が少しずつ開くイメージで家定を演じたい」と語っていた愛希れいか。まさしく愛し、愛される喜びによって輝きを増していく家定の変化を体現してくれた。

【インタビュー】「しおれている花が開くイメージ」『大奥2』愛希れいかが体現する徳川家定の“初恋”

5. 光を照らし合う家茂と和宮

家定亡き後、将軍の座についたのは紀州徳川家の家茂(志田彩良)だった。胤篤から伝えられた「日本を身分も男女の別もなく人を取り立てることで小さいけれど強い西洋列強に立ち向かう国にしたい」という家定の意思を継ぎ、彼女は国が抱える内憂外患に立ち向かっていく。

そこで、公武合体を見据えて朝廷から家定の正室として迎えられたのが、降嫁を拒否した孝明天皇の弟になりすます和宮(岸井ゆきの)だ。生まれつき左手がなく、母である観行院(平岩紙)から“家の光”と愛情を受けた弟とは対照的に、幼き頃から無き者として扱われてきた和宮。

そんな彼女が弟の身代わりを引き受けた理由でもある「母親を独り占めしたい」という願いは虚しく、観行院の心は常に京都にいる弟の元にあった。しかし、和宮の降嫁で、いつ戦争に巻き込まれるやもしれない人々の不安が一時でも緩和されたことに間違いはなく、家茂は彼女に心よりの感謝を述べる。

「その御方がそこにいらっしゃる。ただそれだけで図らずも救われる人間が山のようにいる。そのようなお方を世の光と呼ぶのだと私は思います」

家茂の言葉に和宮がどれほど救われたことだろう。日陰に追いやられ続けてきた和宮にとっても、家茂はまさに光であった。

周囲には隠されていたが、大奥初となる女性同士の“夫婦”となり、亀之助という養子を迎えて、別れの時まで互いを照らし合った2人。彼女たちの関係はきっと現代を生きる多くの人に希望を与えたことだろう。

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「この上ない喜びも、出口の見えぬ悲しみも」男女逆転の大奥が教えてくれたこと

志半ばでこの世を去った家茂に代わり、胤篤と和宮は西郷隆盛(原田泰造)との交渉の末に旧幕府軍と新政府軍との間に勃発した戦に終止符を打つ。代わりに「日本は代々男が統治してきた」という歴史の改竄と江戸城の明け渡しを受け入れることになった。

大奥の終焉を見届けながら、胤篤は瀧山に「悲しみばかりであったか?そなたにとって、大奥は」と問いかける。それに対する瀧山の答えが「いえ。この上ない喜びも、出口の見えぬ悲しみも」というものだ。

大奥の始まりを象徴する家光(堀田真由)と有功(福士蒼汰)は互いを強く求め合うも、子供ができないという理由だけで引き裂かれた。それは大奥の性質上、仕方ないことなのかもしれない。だが、「人間はただ子孫を残すためだけに生きているのか?」と、それこそ右衛門佐(山本耕史)のように問い続けてきたのが本作である。

誰かと恋に落ちて愛し合い、志を共にする仲間と切磋琢磨しながら成長していく。やがて別れは訪れるが、そのかけがえのない時間は消えず、一緒に過ごした人の心に残り続け、果たせなかった願いも誰かが叶えてくれる。だから生きている限り、安心して「この上ない喜びも、出口の見えぬ悲しみも」味わい尽くしたい。

男女逆転の大奥を描いた超大作「大奥」は、私たちにそう思わせてくれた。

(文:苫とり子)

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