映画ビジネスコラム
日本映画は世界に挑戦、『マリオ』大ヒット、ハリウッドは歴史的ストetc…【2023年映画産業10大ニュース】
日本映画は世界に挑戦、『マリオ』大ヒット、ハリウッドは歴史的ストetc…【2023年映画産業10大ニュース】
コロナからの回復期だった2022年を経て、2023年は本格的に映画館に賑わいが戻り、年間興行収入もコロナ前とほぼ同水準にまで回復することとなりました。
そして、映画産業の労働環境の改善の課題に向けて取り組みが始まっています。日本社会の人口減少なども踏まえ、日本映画産業は国内だけで完結せず、グローバル市場を求めていく必要性に迫られ、実際にその動きが顕著になってきています。
そんな2023年の映画産業10大ニュースを振り返り、2024年以降の映画産業の動きを占ってみましょう。次の時代の胎動がはっきりと感じられる一年だったのではないでしょうか。
※取り上げるニュースの順番は、話題性や影響の大きさを考慮したものではなく、順不同です。
1:『スーパーマリオ』「ONE PIECE」ハリウッド版が大ブレイク
2023年、洋画の最大ヒットとなった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、日本のみならず世界中で大ヒットを記録し、任天堂のキャラクターIPの人気を改めて証明しました。
そして、Netflixの実写「ONE PIECE」も同サイトの世界チャートで1位を記録するなど世界中で評判を呼び、ついにマンガの実写化企画での世界的成功例が登場。シーズン2の制作も早々に決定しています。
国内のプロダクションですが、Netflixは「幽☆遊☆白書」の映像化も成功させ、ハリウッドの新たなトレンドとして日本IPの映像化が来るかもしれません。
『NARUTO』や『僕のヒーローアカデミア』、Boichi原作の『ORIGIN<オリジン>』、そして小島秀夫氏の『デス・ストランディング』実写化のニュースもあり、今後も続々とマンガ・アニメ・ゲームの映像化が発表されるかもしれません。
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2:『すずめの戸締まり』『君たちはどう生きるか』『ゴジラ-1.0』etc...日本映画が海外市場で躍進
2023年は、日本映画の海外展開にとってエポックメイキングな年になりました。『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK』が世界最大の映画市場である中国で、日本映画の記録を更新。
年末には、北米市場で『ゴジラ-1.0』と『君たちはどう生きるか』が同時にランキング上位に食い込むという異例の状況が発生。アニメ作品は数年前からグローバル市場でも存在感を強めていましたが、怪獣特撮映画までもがブレイクを果たしました。
日本映画は、これまで国内市場でのリクープを目指した作りで、海外市場を意識して攻めていく姿勢が弱かったのです。しかし、労働環境改善のためには制作費を上げる必要があり、そのためにはより大きな売上が必要。グローバル市場は日本映画の持続可能性のために絶対に必要です。
今後、これらに続く作品を定期的に生み出していくために、全体的な戦略が必要になってくるでしょう。2024年に優先的に取り組むべき課題の一つです。
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3:MCU、DCのヒーロー映画が再編を迫られる
2010年代を通して、世界の映画産業を牽引してきたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)、そしてそのライバルであるDCコミックス原作のヒーロー映画の不振が目立った一年でもありました。
『マーベルズ』はMCU史上最低の興行収入となることが確定。その他のMCU作品も公開初週は好成績を収めるものの、息の長い興行につながらない傾向が目立ちました。さらには、フェーズ5でヴィランとなる予定だったカーンを演じるジョナサン・メジャースが裁判で有罪となり、正式に降板が決定。シリーズ全体の方向転換を余儀なくされています。
一方、DCの方も苦戦続き。『ザ・フラッシュ』はDC映画史上最高額の制作費をかけたものの、赤字に終わり、『シャザム!神々の怒り』も事前予測には届かず、『ブルービートル』は日本と韓国では配信のみでの展開となりました。
ここ数年、不安定な状態だったDC映画シリーズについて、ジェームズ・ガン監督がどう立て直すのか、注目です。またMCUもX-MENの参戦や『デッドプール3』などの公開が控えています。
他にも、ソニー・ピクチャーズが手掛ける「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」では『マダム・ウェブ』の公開も控えています。一時の人気はさすがにピークアウトしたかもしれませんが、ヒーロー映画はまだまだ作られ続けるでしょう。
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4:バーベンハイマーが日本で炎上、『オッペンハイマー』は24年公開へ
2023年、全米夏の興行を湧かせた二本の映画『バービー』と『オッペンハイマー』。ヒーロー映画でもなく、人気シリーズの続編でもなく、監督の作家性が存分に発揮された二作が興行を引っぱったことは、アメリカ映画産業にとって明るい話題でした。
北米では同日に公開されたこともあって、SNSでは「Barbenheimer(バーベンハイマー)」というミームが出現。興行を盛り上げる要因となりました。しかし、日本では原爆開発者のオッペンハイマーを茶化すようなそのミームが炎上。その余波を受けたのかどうか、真相はわかりませんが『オッペンハイマー』は、人気監督クリストファー・ノーランの新作にもかかわらず公開されないという事態に。
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結局、『オッペンハイマー』はビターズ・エンド配給で2024年に公開予定と発表されました。被爆国である日本でこそ観られるべき内容だという指摘も多く、賞レースでも本命の一本と目されています。
この一件は、SNSマーケティングの難しさを浮き彫りにしたものといえるでしょう。日本ではさまざまな事件で「推し」概念の是非が議論された一年になりましたが、バーベンハイマー騒動もSNS時代のリスクについて考えさせられるものでした。
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5:『名探コナン』ついに100億円の大台突破
毎年ゴールデンウィークの王者として君臨してきた劇場版『名探偵コナン』シリーズが、初めて興行収入100億円を突破。遂に大台を突破し、今後も同規模の興行収入を見込むドル箱タイトルとなっています。
2024年は劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』が、永岡智佳監督(『名探偵コナン 紺青の拳』など)で4月12日からの公開がすでに決定しています。本作には、日本の女性監督として初の100億円突破の期待もかかります。
永岡智佳監督は、コナン映画と劇場版『うたの☆プリンスさまっ♪』を連続大ヒットさせており、興行成績においては日本の女性監督で突出した存在です。
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6:ハリウッドがダブルストライキ敢行
全米脚本家組合(WGA)は5月1日から、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)は7月からストへと突入。63年ぶりのダブルストライキは長期化し、11月に終結することとなりました。これらのストライキは、世界の映画産業で最も大きな出来事だったといえるでしょう。主な争点は二つ。配信による報酬・待遇改善とAI関連の権利保護です。このストの結果、Netflixは視聴データの開示を決め、これまで不透明だった配信作品の成績が確認できるようになりました。
2023年は映画産業に限らず、あらゆる分野でAIとどう向き合うのかが議論されました。今後もAIと権利の問題は議論が続いていくこととなるはずです。
ストの余波で、ハリウッドでは制作の遅延が生じ、世界の劇場への作品供給が減少しています。コロナで苦しんだ世界の劇場にとって、これは一難去ってまた一難という事態。世界の映画産業がこれをどう受け止めたか、おそらく今後はハリウッドに頼りすぎず、各国が自国映画を強化する流れへとなるのではと思います。
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7:日本テレビ、スタジオジブリを買収
長きにわたり、日本の映画産業を牽引してきたスタジオジブリが日本テレビの傘下となりました。これまで独立運営を貫いてきた同スタジオは、後継者問題などを踏まえて関係の深い日本テレビの子会社となり、スタジオの存続させる道を選んだことになります。スタジオジブリは、これまでずっと後継者問題が取りざたされていましたが、これで一応スタジオ自体は存続することとなったといえるでしょう。日本テレビがこれからジブリをどう生かしていくのかまだわかりませんが、この世界的なブランドを今後も大切に育ててほしいと思います。
8:日本アニメの市場規模、約3兆円の大台へ近づく
一般社団法人・日本動画協会が毎年している「アニメ産業レポート」において、2022年度の日本の市場規模が2兆9,277億円(前年比106.8%)になったことが発表されました。コロナ禍以降も成長基調が続き、海外市場・ライブエンタテインメント・映画が牽引しているという状況とのこと。配信市場の台頭で勢いに乗ったアニメ産業は、その配信による伸びはとりあえず頭打ちで、これからはさらに別のモデルを模索する必要がある状況になってきています。
日本アニメはメディアミックスによるレバレッジ効果によって市場規模を拡大してきました。これからは、グローバル市場で国内同様にIPの水平展開をどう進めていくのかという課題と、慢性的な現場の人材不足を解消するために、人材育成の体制を業界全体で整える必要があります。
ここは現場だけでなくて、お金を出す側も一緒になって知恵とお金を出していかないといけないところだと思います。
9:役所広司・坂元裕二・濱口竜介など海外映画祭で日本人が活躍
2023年、カンヌ国際映画祭で『怪物』の脚本を手掛けた坂元裕二氏が脚本賞を受賞。テレビドラマ出身の坂元氏が世界の舞台で大きな賞を受賞。役所広司氏が『PERFECT DAYS』でカンヌ最優秀男優賞を受賞。日本を代表する名優が遂に栄冠を勝ち取りました。
その他ベネチア国際映画祭では、濱口竜介監督『悪は存在しない』が銀獅子賞を受賞。濱口監督はこれで、カンヌ・ベルリン・ベネチアの三大国際映画祭で受賞を経験したことになります。
その他、塚本晋也監督『ほかげ』がベネチアでNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞。宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』は、トロント国際映画祭で観客賞3位に選ばれています。北米の賞レースでは『ゴジラ-1.0』が視覚効果の部門で存在感を発揮しており、世界の映画賞で日本映画は一定の存在感を発揮した一年だったといえるでしょう。
しかし、持続的にこうした成績を収めるためには、制度や資金の面で足りないものが多いのも事実。国際共同制作などを加速させ、世界の映画祭マーケットを戦略的に攻めていくための支援体制をより強固にしていく必要があるでしょう。
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10:労働環境改善を目指す「映適」開始
長年、日本映画の労働環境問題は問題視されてきましたが、2023年4月、その改善を目指す組織「日本映画制作適正化機構」(映適)がスタート。映適に申請した映画は一日の労働時間は最大13時間、週一日は撮休、契約書の締結などが義務付けられます。この基準はまだまだ志半ばといったところ。しかし、現場では環境改善の風が感じられているようです。10月にはシンポジウムも開催され、率直な感想と改善点が議論されています。
この映適の基準に合わせるだけでも、制作費は1.3倍程度になると東映が決算説明会で語っています。つまり、労働環境を改善するためには制作費の増額が必要で、今よりも大きな売上を作る必要があるということです。つまり、グローバル市場を開拓することと、労働問題はつながっています。
日本映画の持続可能な発展のために、絶対に避けて通れない問題なので、現場の人間だけでなく、お金を出す側も一緒になって改善を考えていかないといけません。また、映画だけでなくドラマやテレビの現場も環境改善していく必要があるでしょう。
2023年、日本映画は世界に出ていく必要に迫られ、実際にいくつかの成果が出ています。
ハリウッドのストライキが浮き彫りにした配信と制作者の適正な関係のあり方は今後も議論されるでしょうし、AIとの向き合い方も考えなくてはいけません。2024年以降も、こうした議論は続いていくことになります。
映画ライターとしては、日本と世界の映画産業がより豊かで多彩なものになるために、どんな情報を届ければいいか、一層深く考えて活動していきたいと思います。
(文:杉本穂高)
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