物語のディテールを深める、綾野剛の存在
綾野剛が出演者に名を連ねていると、作品に興味を持ってしまう。今度はどんな表情、どんな人物の人生を見せてくれるのか、と期待させてくれる。
そもそも、出演作が幅広い。2023年は映画『最後まで行く』『花腐し』に出演。また、Netflixで配信中の「幽☆遊☆白書」では戸愚呂弟役を。
2024年は、さっそく最新作『カラオケ行こ!』が公開となった。そんな綾野剛の魅力を改めて考えてみたい。
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影と悲哀ある『天空の蜂』
2015年公開の映画『天空の蜂』。
超巨大ヘリ・ビッグBが遠隔操縦によりハイジャックされた。ビッグBには設計士・湯原(江口洋介)の息子を乗せたまま。ハイジャック犯の要求は「全国すべての原発の破棄」。破棄しなければ爆発物を大量に乗せたヘリを原子炉に墜落させる――。無謀とも言える要求をする犯人を演じるのが、綾野だ。
セリフ量は多くないながら、その悲哀と絶望に満ちた表情が言葉以上のものを語る。
(C)2015「天空の蜂」製作委員会 原作/東野圭吾「天空の蜂」(講談社文庫刊)(C)東野圭吾
追い詰められ、逮捕寸前……抵抗し、ケガを負わせ、自らも傷つけ、血まみれになりながらも逃げようとする姿は息を呑む。と同時に、犯行への思いの強さを感じさせる鬼気迫る様子を重厚な演技で描いた。
何が彼をそこまで突き動かしたのか……物語への没入感を際立たせるフックとなっている。
▶︎『天空の蜂』を観る
軽薄な?テレビマン『白ゆき姫殺人事件』
一方、2014年に公開となった『白ゆき姫殺人事件』はふわっふわだ。
化粧品会社の女性社員が何十カ所も刺された上に、火をつけられるという凄惨な事件が起こった。被害者の後輩・里沙子(蓮佛美沙子)から電話をもらった情報番組のスタッフ・赤星(綾野)は独自に捜査を開始。里沙子が犯人ではないかと示唆していたのは城野美姫(井上真央)。赤星は城野が犯人だと断定したような番組を制作し、彼女を追い詰めていく。
「正義漢に燃えて事件を暴いていく」というよりは、一発当ててやるぜ!というような軽薄さが感じられる。番組の評判が良ければ、そのままパァッと遊びに行って浮かれ放題。しかし、真実は……。
(C)2014「白ゆき姫殺人事件」製作委員会 (C)湊かなえ/集英社
軽薄さと同時に、ひとつのことにのめり込む情熱と、すべてを失ったときの絶望の姿。2時間強の作品の中で、波瀾万丈すぎる表情を見せてくれている。
事件の真相に迫るのが物語のメインなのだが、事件をきっかけにさほど良いものでもなかった人生がもっと悪くなったようにも見える赤星のその後も気になるところだ。
▶︎『白ゆき姫殺人事件』を観る
熱い男も良い。ドラマ「オールドルーキー」
2022年に主演を務めたのが、日曜劇場「オールドルーキー」だ。元プロサッカー選手の新町(綾野)がセカンドキャリアとして選んだのはスポーツマネジメント会社。サッカー以外が何もできず、壁にぶち当たりまくる姿は観ていて胸が痛いものがあった。
しかし精神的に追い詰められながらも、その度に立ち上がる姿は同時に勇気がもらえる。社長の言葉に抗いながらも「アスリートファースト」でスポーツ選手たちをサポートしていく姿は、観ているこちら側としても希望が持つことができた。
「オールドルーキー」自体が新町の物語だ。話が進むにつれて、新町の解像度が増し、共感が増す。一度はくじけたことがある人たちの心に寄り添った。
また陸上部出身ということもあり、綾野の走る姿の美しさや体の動きの良さを観られるのも嬉しいところだ。
▶︎ドラマ「オールドルーキー」を観る
最新作は『カラオケ行こ!』
いくつかの作品を振り返ってみると、綾野から感じられる「静かな熱さ」は魅力のひとつと言ってもいいかもしれない。表に出さずとも、言葉に、動きににじみ出てくるからこそ、イイ。
そんな綾野の最新作は映画『カラオケ行こ!』。和山やまの同名漫画を実写化。
ひょんなことから男子高生・聡美(齋藤潤)にカラオケの教えを乞うヤクザ・成田狂児を演じる。ヤクザ役を演じる綾野剛はわりと容易に想像ができるが、そこに「高校生にカラオケを教えてもらう」という設定が乗ると、もう無理だ。観るしかない。
©2024『カラオケ行こ!』製作委員会
決して、成田はふざけてカラオケを教えてくれと言っているわけではない。組のカラオケ大会で歌ヘタ王になると、組長から下手くそな刺青を彫られてしまう。それをどうしても回避したいのだ。
十八番は「紅」。この映画の稀少なところは「紅」を熱唱する綾野剛を堪能できることかもしれない。
ケガはするが、全力疾走はしないし、絶望もしない。熱心に高校生からカラオケを教わり、一生懸命にカラオケの練習をする。そして聡美との不思議な友情(?)を育んでいく。ヤクザが主人公の作品でこんなにほっこりするとは思わなかった。
©2024『カラオケ行こ!』製作委員会
脚本は野木亜紀子。と言えば、直近ではドラマ「MIU404」が思い浮かぶ。
軽さと熱さ、そして実直さ。分かりやすそうなのに掴みづらい。人間って一筋縄ではいかないし、見た目だけでは判断できないよね、ということを分からせてくれる。
だからこそ「この人のことをもっと知りたい」と思う。物語において、その好奇心をかき立ててくれることは何よりも大切なことのひとつではないだろうか。
個人的には綾野剛が演じる役が絶望しているときは本当に追い詰められているとかなので心臓が痛くなる。その表情も好きなのだが、追い詰める側の役ももっと見てみたい……と思うのは欲張りだろうか。
あと王道ラブストーリーも、またいつか、ぜひに。
(文:ふくだりょうこ)
▶︎『カラオケ行こ!』劇場情報はこちら
『カラオケ行こ!』
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カラオケ行こ!
2024年1月12日(金)全国公開
©2024『カラオケ行こ!』製作委員会
配給:KADOKAWA
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