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2024年02月02日

賛否両論渦巻く『“それ”がいる森』を「子供たち」に観てほしいワケ

賛否両論渦巻く『“それ”がいる森』を「子供たち」に観てほしいワケ





宇宙人だったのだ!

劇場に足を運んだ観客は心の中で「マジかよ!」と叫んだに違いない。そして、その正体こそ「賛」に向くか「否」に転がるか最初の分岐点にもなっている。

「中田ホラー=幽霊モノ」のイメージを裏切る形となり、舵切りがエクストリームすぎると興奮する人もいれば、「この令和の時代にメジャー映画で宇宙人ネタかよ」とツッコミを入れた人もいるだろう。

中田監督と宇宙人は「混ぜるな危険」


とはいえ、そこはJホラーの先駆者。たとえ“それ”が宇宙人でも、特に夜間における空間演出はやはり怖い。仮に実体のない幽霊がぼうっと立っていても薄気味悪いが、宇宙人という実体のある存在だと「いつ・どこから」唐突に目の前に現れるかわかったものではない。淳一がライトを片手に夜のビニールハウス内を歩き回るシーンは、良い意味で「中田監督は性格が悪いな」と感じたほどだ。

また幽霊モノは『リング』しかり『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』しかり、「なぜその怪異が現れたのか」ルーツを探るミステリ仕立ての枠組みがある。一方で宇宙人モノは起源を探るストーリーを入れようにも、「とりあえず地球外からやってきました」「たまたまその場所に降り立ちました」で話が済んでしまう。

そのため本作は序盤から潔く、“それ”が“宇宙人”である可能性をほのめかしている。(森の中に鎮座する宇宙船)

その直後、宣伝とは打って変わってもったいぶらずに宇宙人そのもののビジュアルを見せたことも後々のストーリーを進展させる布石となった。

圧倒的な“懐かしさ”


前述のとおり本作は賛否両論を招いたが、もしかすると1990年代のエンターテインメントに触れて育った世代は誰よりも受け入れやすかったかもしれない。当時は今よりもUFO特集などのオカルト番組がずっと多く放送されており、現在の特番スタイルではなくゴールデンタイムのレギュラー枠が割り当てられていたことをご存知だろうか。

たとえばネットミーム「な、なんだってー!?」の元ネタマンガ「MMR マガジンミステリー調査班」を実写ドラマ化した「MMR未確認飛行物体」。あるいはUFOに限らずUMA(未確認動物)など幅広いテーマを扱った情報番組「特命リサーチ200X」。

90年代といえばバブル崩壊を迎えただけでなく、「1999年7の月に人類が滅亡する」というノストラダムスの大予言に翻弄された時代でもある。世界が終わるかもしれないというある種の熱狂の中、ハルマゲドン(最終戦争)をもたらすのは地球外生命体ではないかと予想する声も多かった。


娯楽や文化など“流行は30年周期で訪れる”とされており、思えば近年は80~90年代のエンターテインメントが相次いでリメイクされたり、突如として続編が制作されている。そんな潮流の中で日本を代表するホラーの旗手が宇宙人ネタに振り切るとは、なかなかの挑戦だったのではないだろうか。

本作に登場する宇宙人は序盤から凶暴な性格を見せており、新規軸のホラー映画ともいえる。実際に子供相手でも容赦のない展開となるが、宇宙船のデザインやクライマックスでの宇宙人とのバトルなど、あえてB級タッチで描いているようにも思えた。

そのリアリティと作り物感の狭間で、まさしく90年代のエンターテインメントを浴びて育った筆者は鑑賞中に「そうそうこれだよ!」と懐かしさのあまり嬉しくなったものだ。

子供から大きなお友達まで楽しめる娯楽作!


クライマックスの舞台が「夜の小学校」というのも心憎い。いわゆる学校の怪談ブームが巻き起こったのも90年代であり、幽霊や怪異といった類とは異なるが、「子供を襲うため小学校に侵入した宇宙人」という構図は学校の怪談の新たなステージともいえる。

ちなみにオカルト好きの方々は本作のエンドロールにもご注目を。中田監督いわくエンドロールで流れる「ある映像」は、本作プロデューサーが実際に撮影してきた“加工なし”の“本物”らしい。そういった素材を嬉々として映画の締めに使用する心意気に、なんだか嬉しくなってしまう。

──と、いうわけで。もちろん現代のエンターテインメントを否定するつもりは全くない。それでも、こういった作品を楽しむおおらかさと熱気を併せ持つ時代があったんだよ。と子供たちに紙芝居を聞かせる老人のようなトーンで、筆者はこれからも本作を推していきたい。

(文:葦見川和哉)

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(C)2022「“それ”がいる森」製作委員会

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