「ブギウギ」スズ子とタイ子はなぜ連絡をとってなかったのか<第95回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第95回を紐解いていく。
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二人の格差
スズ子(趣里)とタイ子(藤間爽子)との再会は悲しいものになりました。かたや、国民的人気歌手になり、かたや、貧しく、病にかかり寝たきりで息子に働かせている。
だから、タイ子は、スズ子のことを知らないと言い張ります。
いったんはそのまま帰ったスズ子でしたが、また、達彦(蒼昴)に靴磨きを頼みます。
このとき、愛子はいません。誰に預けたのか。やっぱり山下(近藤芳正)なのか。
靴磨きをしてもらいながら、タイ子の夫や親戚が戦死して、母一人子一人であることを知るスズ子。
何年も会ってなかったけれど、スズ子はすぐに前の関係に戻れるのです。何年も会ってなかったけれど、困っているタイ子を放ってはおけません。
「タイ子ちゃんは福来スズ子の生みの親や」と達彦に言うのは、ほんとうにそう思ってもいるでしょうし、達彦を元気づけたい気持ちもありそう。母親が病気で何もできずにいるのではなく、いまをときめく福来スズ子の恩人で、すごい人なのだとわかれば、ちょっとは気持ちも上向くでしょう。
スズ子は、おミネ(田中麗奈)に相談。おミネの話から、自分のちからで生き抜きたいという気持ちに寄り添うことが大事と感じたスズ子は、パンパンたちを靴磨きの客として紹介します。
以前、達彦の売上を奪った少年たちは、おミネが撃退。今日も田中麗奈さん、かっこよかったー。
過去最高の売上をあげた達彦が意気揚々と帰宅すると、タイ子はお金の出処を疑います。そっと様子を伺っていたスズ子は辛抱たまらずタイ子の前に。
タイ子の「こんな不幸のどん底にいてんのに聞こえてくんねん。どこにいたかて、あんたの『ブギウギ』言う歌が」という涙声が胸に響きました。つらい。
タイ子はスズ子の原点で幼馴染とはいえ、登場回が少なく、彼女のことを、すっかり忘れていた視聴者もいたようです。なにしろ、最後の登場は第40回。ツヤ(水川あさみ)が亡くなってお別れ会のときです。このとき、出張のたびに呼んでくれたお客さんと結婚して東京に行くから「東京でまた遊んでね」と言っていました。
結局、お互い、東京で1回も遊ぶことはなかったようです。
タイ子がなぜここまでスズ子を拒否するのか考えるうえで、重要な点があります。
タイ子は芸者の子供で、若干、世間から引け目を感じながら生きていた人物です。お父さんは、たまに家に来るだけです。つまり妾的なものだったのです。それでも、タイ子の母も彼女も、芸で身を立てるのだという矜持を持って生きていました。
そしてタイ子はお客に身請けされました。東京での結婚生活が、幸福だったでしょう。その夫が戦死ーー。タイ子も体を壊して思うように働けなくなってしまった。そんなつらい生活に「東京ブギウギ」が応援歌のように流れてきても、どん底のタイ子には、励まされるどころか惨めになってしまう。勝手に想像すると、恵まれない環境でも前を向いて生きてきたのに、結局、自分は不幸になってしまった絶望に苛まれ、愉快に歌っているように見えるスズ子が、まぶし過ぎて辛い。
当時「東京ブギウギ」で救われた人たちがたくさんいた一方で、歌なんかで救われないと思っていた人たちもいたでしょう。素敵な歌でみんな元気に復興、という短絡的な展開にしない配慮を感じます。
達彦の売上を巻き上げた少年たちにも、スズ子は「みんな生きるのに必死や」と理解を示しています。
彼らのことも一方的に悪者にはしていないのです。
ただ、ひとつ気になったのは、達彦のところにパンパンたちが群がって、ほかの靴磨き少年たちの仕事があがったりになってしまっていたことです。平等って難しい。
(文:木俣冬)
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