『おまえの罪を自白しろ』を映画で観てほしい“3つ”のポイント
『おまえの罪を自白しろ』ーー「おまえ」とは誰を指すのか? 「罪」とは何なのか? 一度目にするとなかなか頭から離れない印象的なタイトルである。
人気作家である真保裕一の同名小説が原作となった本作は、映画で観るからこその面白さが盛りだくさん。101分の間怒涛の展開が繰り広げられていく。今回は、ぜひ映画で観てほしいと感じた3つのポイントを紹介したい。
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1:映画と好相性なタイムリミットサスペンス
物語は、政治家一族の宇田家の次男・宇田晄司(中島健人)を中心に展開されていく。政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の父・宇田清治郎(堤 真一)の秘書を務める晄司は、ある日の夕方、姉である麻由美(池田エライザ)の幼い娘・柚葉が誘拐されたと連絡を受ける。
「明日午後5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」。タイトルの「おまえの罪を自白しろ」という強烈な言葉が含まれたこの脅迫文は、柚葉を誘拐した犯人から清治郎への要求である。孫娘を救うには、清治郎は自分が犯した「罪」について自白しなければならない。だが「罪」の告白をすると政界から離れることになるかもしれない。
孫娘の命か、政治生命か。果たして清治郎はどちらを守るのか?本作は、 晄司を中心に柚葉の救出と犯人を追及するタイムリミットサスペンスである。この「タイムリミット」が、時間芸術である映画と非常に相性がいい。
清治郎は、柚葉を心配しつつも、すぐに記者会見を開こうとはしない。罪の告白による宇田家へのダメージを最小限に抑えるため、他の派閥の動きを窺う。物語が進む、すなわち時間が経過すればするほどタイムリミットが迫ってくる。焦る政治家もいれば、何かを企む政治家もいる。
幼い命が脅かされているにもかかわらず、清治郎含めて政治家たちは保身のための身の振り方をしていた。一般市民にとってはなかなか理解し難い政治家たちの動きだが、時間が経過するにつれてそれぞれの思惑や疲弊している様子が顕著に表れてくる。この変化を目で観て楽しめるのも、映像だからこそである。
また同じ時間軸で奔走しているのが、平尾(山崎育三郎)を始めとする捜査一課の刑事たち。平尾は、非協力的な政治家たちに不信感を抱きながらも人質の救出と事件の解明を急ぐ。犯人は誰なのか、目的は何なのか。柚葉を確実に救出するために限られた時間で捜査を進める。
政治家とは異なる動きをする、正義感あふれる刑事にも注目である。
2:説得力のあるキャスティング
実写化に際して重要な要素のひとつが、キャスティングである。作中に登場するのは、連日テレビに出て答弁しているような政治家たち。登場シーンが僅かであっても、政治家としてスクリーンに登場するのに相応しい、貫禄のある大物俳優が出演していた。
清治郎が支えた内閣総理大臣・夏川泰平役を金田明夫が、清治郎たちと覇権争いをしている政党の幹事長・木美塚壮助役を角野卓造が、そして清治郎を長年支援してきた後援会長・草川庄一役を平泉 成が務めている。それぞれの立場の「長」として、堂々とした様子で画面に映っていた。
清治郎役を務めた堤 真一は、柚葉が誘拐された後、時間の経過とともに疲弊していく様子が印象的であった。政治家としての威厳を見せつつも、柚葉の祖父として安否を気にしている様子もある。自分の感情を露骨に表現していなかったからこそ、滲み出る“人間らしさ”にグッときた。
そして、そんな大物政治家たちと対等に渡り合うのが、中島健人が演じた晄司だ。そもそも晄司は、建築会社を設立するも倒産し、やむなく父の秘書を務めている。
まだ政界の色に染まり切っていない彼は、柚葉が誘拐されたのにも関わらず政治生命を気にする父に最初は憤りを覚える。だが目の前で行われている政治的な駆け引きを見ているうちに、政界での生き残り方を学ぶ。
貫禄がある面々を前に圧倒されず、堂々と自分の色で対峙していく様子は、日頃アイドル兼俳優として活躍する中島健人と重なる部分がある。
中島健人も、大物俳優に気兼ねなく話しかけたり、ハリウッドを代表する映画監督に芝居を見てもらったりと、どんな相手であっても臆することなく正面から挑む。そんな中島健人が見せた、相手の懐に入る“あざとい”演技にも注目だ。
3:丁寧に描かれた人間模様
本作は「誘拐事件」をきっかけに変わってしまった、さまざまな立場の人を描いているのも見どころだ。
宇田家にとっては、何の罪もない幼い娘が誘拐された許せない事件であった。中でも見るからに憔悴していたのは母親である麻由美。突然愛娘を奪われた母の悲しみを池田エライザは見事に体現していた。
政治家にとっては、突然降ってきた爆弾のような出来事である。自分への被害を最小限に抑えるため、あれこれ画策する様子は呆れるほどに自分勝手であった。そんな政治家の動きを冷ややかに見ながらも、刑事たちは人命救出を最優先に捜査を続ける。「正義とは何か?」を考えさせられた描写である。
そして誘拐事件を起こした、加害者の描かれ方にも注目だ。幼い女の子を誘拐するという残虐な手段を選んでまで自白させたかった「罪」とは一体何か。もちろん誘拐は絶対に許されるべきではないのだが、本作では加害者がそうせざるを得なかった背景までしっかりと描かれている。ぜひ最後まで見届けてほしい。
真相を知るともう一度観たくなるタイムリミットサスペンス
本作はサスペンス要素があるのはもちろん、父と子の親子関係を描いていたり、政治の在り方について問いかけていたり、さまざまな観点で物語を追うことができる。特に事件の真相がわかると、今度は別の視点で最初から鑑賞したくなる。
国民の暮らしを支えるのが政治家たちの仕事であるはずだが、国民は時に政治家たちの勝手な判断により苦しめられることがある。本作で描かれる政治家の愚行や不誠実な態度は、一般市民の我々にとって身に覚えのある光景だ。
エンターテインメントでありつつも、「面白かった」だけでは終わらせない、映画が終わった後も続く現実社会の在り方について考えさせられる作品であった。
ぜひ、「自白」の目撃者となってほしい。
(文:きどみ)
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