「虎に翼」田中裁判長の判決にすっきり、いい週末に<第10回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第10回を紐解いていく。
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権利の濫用
開始早々、田中裁判長(栗原英雄)が大岡裁き的(古い)な名判決。峰子(安川まり)は着物を取り返すことができました。
感動に打ち震える寅子(伊藤沙莉)ほか、傍聴席の面々。
この短さだったら、第9回の最後に結果を出していい気持で続くでもよかっただろうけれど、あえて、結果を次回に回したのはもっとよかった。
主題歌をはさんで、裁判長は、傍聴している女学生たちに特別に判決の主旨を語ります。
法律で夫が妻のものを管理するのは、妻を守るためであり、結婚生活が破綻している場合、夫の権利をふりかざすのは権利の濫用となる。
笹山(田中要次)はご機嫌で寅子とみんなに「ありがとうね」と礼を言って帰っていきます。面白みのない民事裁判が面白く感じたのでしょう。
「新しい視点に立った見事な判決だったね」と穂高(小林薫)が言うと、よね(土居志央梨)はナットクがいかないようで、「法は力をもたない私達がああいうクズをぶん殴ることができる唯一の武器」であるべきで、今回の判決では、結局、何も変わらず、東田(遠藤雄弥)のような男がこれからものさばり続けるであろうと不満を述べます。
「法とは規則なのか武器なのか それもまた正解はなし」
(穂高)
穂高は課題を残して去っていきます。そのあと、桂場(松山ケンイチ)と大人っぽいお店でお酒を飲みながら語らっていました。
とりあえず、寅子たちはまた甘いものを食べて帰らない? などと言いながら裁判所をあとにしようとした、そのとき、東田が「一生離さない」と妻をなじっていました。「一生離さない」というと愛の言葉みたいですが、執着や抑圧の表れ。物品は取り返せたけれど、離婚裁判がまだ続きます。でも母の形見があるから頑張れると峰子は言います。
暴力を振るおうとしたので寅子は思わず助けに入ります。どうなるの?と思ったら、にゃにゃにゃと猫(寅か)のように爪で対抗。力はたぶんないけれど、勢いで相手を怯ませました。このときの遠藤さんは、怯みながら似た感じのポーズで対抗したすえ、すたこらさっさと逃げていくちょっと滑稽な動作がユーモラスで。ただ悪者顔していただけではない巧さがありました。
シソンヌの弁護や、遠藤さんの悪者描写、伊藤さんの猫攻撃の動きなどに、おもしろみを少しだけいれて、真面目になり過ぎないようにバランスをとっています。そのうえ、判決が前向きで胸がすくもので、朝、いい気持ちになれる知的エンターテイメントです。
この調子で進行すれば、1話完結の週イチ連続ドラマの体裁をうまく朝ドラに持ち込むことができた成功例になるかもしれません。
でもここでまたよねが、殴らせたら現行犯になったと物騒なことを言います。
よねが法律を「武器」と言うと、寅子は「盾とか傘とかあたたかい毛布とかそういうものだと思う」と言います。
寅子は、何かと反抗的なよねのことを「地獄の道に向かう同志」と言い、仲間にしようとします。「私、よねさんのことわりと好きよ」だとけろりと彼女のいいところをいくつもあげて褒めるのもなんとも明るくさわやかです。このへん、「ONE PIECE」的。脚本の吉田恵里香さんはいまの世の中のニーズを確実に抑えて取り入れています。
梛川善郎演出はちゃんと子供たちの情景もいれていますし、旧来の朝ドラぽさを守っている。よねが働いているカフェーは少しいかがわしく、女性が虐げられているとよねが常に怒りを抱えているのもわかる気がしてきます。このへんも旧来の朝ドラぽさ。新旧の価値がうまく混ざりあっていて、旧い朝ドラファンも、新しい朝ドラファンにも愛されそうです。
よねの境遇は、「もっとよねさんのことを知りたい」と、恵まれた家庭でのびのび育った寅子が簡単に言えるものではない、根深いものがありそうです。
(文:木俣冬)
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