「虎に翼」夫婦別姓問題は戦後から続く問題だった<第47回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第47回を紐解いていく。
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謙虚なサディ
ちょっとコメディ色強めではじまった新章ですが、寅子(伊藤沙莉)の仕事はお固いものです。民法親族編、相続編の改正です。裁判官にはなれなかったけれど、これはけっこう意義のあるお仕事なのではないでしょうか。
戦前、男性優位になっていた婚姻に関する法律が、戦後、できるだけ男女平等になるように考えられています。万年筆で書かれた改正案のインクの色の微妙な変化が美しい。
寅子は真剣に読むあまり、傍らでじっと見つめているライアンこと久藤(沢村一樹)に気づいていません。
声をかけられびっくり。ライアンは寅子の横顔が「絵画のよう」で見とれていたとくすぐったくなるようなことを言います。
朝ドラに限ったことではないですが、なぜ、エンタメでは、外国文化に傾倒した人物をコメディリリーフ的に描くのでしょうか。それも一種の差別ではないかと思うのですが、「虎に翼」では、堅苦しい言い方をすれば、「うさんくさい」と思える人物が意外と知性的であるという、人間が勝手にレッテルを貼ってしまうことを主人公自ら侵すことで教訓を与えようとしているのだと思います。法という正義を司る主人公もいろいろ間違えていることがこのドラマの肝なんじゃないかと思うのです。
人間はみんな完全ではない。完全ではない者たちが人間を裁くのです。すごいことです。
改正案の感想をライアンに聞かれた寅子は肯定的な感想を述べますが、ライアンは「君は思ったより謙虚なんだね」と指摘します。なぜ、寅子が「謙虚」に思われる反応をしたかというと、どうやら、ここでうっかりしたことをして仕事を失うわけにはいかないとセーブしたからのようです。
それを見抜いているのか、ライアンは、婚姻における夫婦の名字の扱いについて寅子に質問。この改正案はGHQに「生ぬるい」と突き返されたのだと教えます。
ただし、GHQの言うとおりにすると、夫に先立たれた女性が夫の名字を名乗れなくなるというのです。
寅子もまだ「佐田」を名乗っています。夫の家族とすぐにさようならできない女性もいるというところで、花江(森田望智)のカットが入ります。直言(岡部たかし)が花江は直道(上川周作)が亡くなっても猪爪家にいていいんだよね?と寅子に確認していたことが思い出されます。直言はああ見えてやっぱり社会情勢のことよく考えていたのかも。
夫の名字になりたくない人もいれば、夫の名字を名乗りたい人もいる。あらゆる例を考慮しないといけないから、法律づくりは大変です。
「早急に決めないと世の中の善悪が宙ぶらりんになっちゃうからね」とライアンは危惧しています。
寅子は家に戻ると、この話をしながら夕食を家族と食べます。家族揃って、寅子の仕事場の話で盛り上がる。なんてすてきな家族でしょうか。ただ、隣に子供・優未(斎藤羽結)がいるのに、寅子のお母さんらしい仕草があまりなかった。家に戻ったらお母さんに変身するわけではないようです。仕事場でも家でも寅子は寅子。
そして、花江は、夫を殺めたアメリカ人と寅子が仲良く仕事していることを好ましく思えないとこっそり吐露します。食卓では言わず、ふたりっきりのときに言うのです。
アメリカの言いなりになるのは負けたから。アメリカは婦人を解放しようとして、それを喜ぶ人もいるけれど、夫を失い、夫の名字を名乗ることも奪われるという悲しみを背負わされている女性もいるのです。
翌日、寅子は、司法省で桂場(松山ケンイチ)に“謙虚”に挨拶。それを薄っぺらいと言われ、あんなに軽蔑していた「スンッ」を行ってしまったと寅子は苛まれます。スンッをしないで済んだのは環境に恵まれていたおかげ。大海に出れば「スン」としないと生きていけないのでしょうか。「スン」としないでお互いが言いたいことを言い合って喧嘩ではなく、ディスカッションすることでより良い方法が見つかるというのが理想なのだと思います。
スンっと処世術は男たちもやっているようです。
民法改正審議会の委員である東京帝大の神保教授(木場勝己)が「この国を破滅させる気かな」と改正案に反対します。きついことを言っているのに顔はにっこり。受けて立つライアンも笑顔を崩しません。男たちは男たちで、本音を隠しながら丁々発止でやり合っているのです。
(文:木俣冬)
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