「おむすび」人生、詰んでしまった翔也(佐野勇斗)【61回】


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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。

平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第61回を紐解いていく。

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「じゃあ別れよう」

翔也(佐野勇斗)に野球場に誘われ、キャッチボールをしながら、選手生命が絶たれたかもしれないことを明かされた結(橋本環奈)
暗いはじまりの第13週「幸せって何なん?」(演出:野田雄介)。今年の放送は今週で終わりなのですが、こんな暗いエピソードってあり? いやいや、きっと週末には上向くであろうと願いながら見ます。

突然の翔也の告白に、なぜいままで話してくれなかったのかと問う結。話そうと思っても、陽太(菅生新樹)が来て話せなかったのです。陽太のせい? 怪我も大河内(中山翔貴)のせいだし、何かと他人に邪魔されがちです。
このときの結の気持ちはいかばかりか。何も知らずにプロポーズかも?と浮かれていたことを恥ずかしく思ったことでしょう。

翔也の身に降りかかったことはお気の毒でなりません。ですが、病院で検査してもらった結果、手術が必要で、かつ、手術しても元には戻りそうにないと言われたにもかかわらず、
「今年のドラフト、こんな状態でも自分は指名してもらえるんでしょうか」と監督に聞く翔也にちょっとびっくり。もちろん、藁にもすがるような気持ちでこんなことを言ってしまうのかもしれませんが、翔也があまりに知性がなく描かれていて、見ていてつらいのです。監督は「(可能性は)ない」とバッサリ。

野球の才能だけあって、ほかは何にもない人もいるとは思いますが、野球にも頭を働かせないといけないことはたくさんあるでしょうから、翔也ほどぼんやりしている人ではそもそも勝ち残っていけないような気がするのです。ピッチャーなんだし。キャラ的に脳みそ筋肉な雰囲気にも見えないし……。

どちらかといえば、陽太のほうが脳みそ筋肉ふうで「今年のドラフト、こんな状態でも指名してもらえるんでしょうか」というセリフも似合いそう。でもその陽太はとぼけて見えて繊細で、いろんなことを慮っているところもあるのです。

翔也はすっかり意気消沈。精密検査を受けたら一旦実家に帰ることになりました。

翔也の状況は星河電器中にすぐ広まったようで。結と翔也の関係も社内で周知されているので、結まで同情の目で見られます。立川(三宅弘城)なんて「いろいろ大変やと思うけど前向け」と結につくったレシピの続きを書き加え、献立を栄養士の観点から見直してくれとと言うのです。すっかりいい人になってしまった。野球が好きだから、結を通して、翔也に「前向け」と言いたかったのかなと感じました。あるいは、自分の料理では野球選手の健康にもよくないと反省したのかも。

実家からなかなか帰ってこなかった翔也がようやく帰ってきたら、別れを切り出します。
精密検査の結果はほぼ再起不能。野球部を退部したものの、実家にも戻れないし、行き場のなくなった翔也は、結を幸せにはできないと思ったのです。

高校生のときは結に、失敗しても何度でもやり直せばいい。道筋はいくらでも書き換えればいいと明るく言っていた翔也でしたが(そのときの丸刈り翔也の素朴さはなかなかのものだったと改めて思いました)、夢の道筋は書き換えられても、ゴール=プロ野球選手 は変えられないと言うのです。翔也が強かったのは、目的があったからで、目的に達するためには、あらゆる方法を試すことを厭わないけれど、その目標がなくなったいま、どうしていいのかわからないのです。これはほんとうに気の毒です。

結はそんな翔也にムカついて、「じゃあ別れよ」「さよなら」とあっさり。

帰宅した結は父母にさっそく報告。なんでも話すのが米田家のいいところです。
聖人(北村有起哉)は同性として翔也の気持ちを「やけになっているだけ」と慮りますが、結は翔也にムカついたとむくれています。

いまの翔也の状態を考えたら、ムカついて別れるという選択はない気がしますし、もっと優しく寄り添ってあげてほしい。でも、優しくしてもたぶん、いまの翔也には響かないでしょう。結はそこまで考えて厳しい態度をとったわけではなく、単に感情的にムカついているだけだと思うので、結、ひどいなあと思ってしまう視聴者もいそうです。

今日のん? 帰宅して父母と話しているとき、結の空のガラス皿が映ります。何かデザート的なものを食べていたのはわかるのですが、何を食べていたのかわかりません。あとで、引きになったとき、愛子(麻生久美子)のお皿に黄緑色のものが入っているのが見え、メロンかキーウイかシャインマスカットか何かかと思うのですが、空になったお皿のカットを選択する意図がわからな過ぎる。深刻な話をしているのに、美味しそうなフルーツのカットはそぐわない。虚しさを表す空の皿がふさわしい、というような判断なのでしょうか。結の言動といい、カット選びといい、受け取りづらい変化球を選択しているちところがこのドラマのおもしろさではあります。


(文:木俣冬)

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