「おむすび」怒りのおむすび 翔也(佐野勇斗)がギャル男に【62回】
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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第62回を紐解いていく。
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太極軒で合コン
こんなとき、売り言葉に買い言葉という言葉がふさわしいかわからないですが、野球ができなくなって自信をなくした翔也(佐野勇斗)が別れを切り出すと、結(橋本環奈)はなんだかムカついて「別れよう」と応じてしまいました。どうなるふたり? まあ、佐野さんがヒロインの相手役とアナウンスされているわけですから、次の相手役が出てくるとは思えませんので、この苦境を乗り越えることでしょう。しばし、翔也と結は別々に過ごします。
翔也は会社の仕事をフルタイムで行うことになりますが、新入社員研修のときも不器用でしたし、すぐに切り替えられません。仕事の内容は書類を封筒にいれるという実に地味で、忍耐力の要るお仕事です。
周囲に腫れ物に触るように扱われるのも居心地悪いでしょう。自分が役に立たないという事実に向き合うことはつらいことです。
翔也は、結のいる社食に行くのもためらわれ、休憩室でぼっち飯。
こんなとき、同じ会社って気まずい。
結は、栄養士として少しずつ仕事をする機会ができて、新たななメニュー作成が順調です。立川(三宅弘城)と原口(萩原利久)は調理師としてのさすがのアイデアを出し、いいチームワークで進みます。
翔也は翔也で、封入の仕事をコツコツやり、野球部だったから集中力がすごいと褒められたり、パソコンを覚えたほうがいいとアドバイスされたり。やっぱり腫れ物という感じです。野球部だったから集中力がすごいって間違いではないけれど、そこ褒められても……ですよね。褒め方も難しいものです。
数日後の日曜日、結は菜摘(田畑志真)に誘われて、街に買い物に出かけ、ちゃんみか(松井玲奈)の店(2号店)に立ち寄ると、そこに金髪の翔也が……。
道行く人から、怪我した四ツ木と注目されていたたまれなくなった翔也。別人になりたいと思い詰めたすえ、結がギャルになったとき生まれ変わったようだったのを見て、藁にもすがるような思いで金髪にして、ちゃんみかの店でファッションを変えたのです。涙ぐましい。
ちゃんみかがコーディネートした服が案外似合っている翔也ですが、彼の話を聞いた結は「ギャルなめんな」とブチ切れます。「大嫌い!」と店を飛び出しーー。
家に帰った結は、怒りをこめておむすびを握ります。
タイトルになっている大事な「おむすび」を怒りの感情表現に使うとは大胆なドラマです(脚本に書いてあったのかは不明)。嬉しいときも哀しいときも腹がたったときも人はおむすびを握る、おむすびには握った人の想いがこもっている、という感じでしょうか。
ドラマだから揉め事を作らないと盛り上がらないとはいえ、結のこの反応は、翔也の置かれた状況の重大さをまったく理解していないものです。身体を壊して、夢破れたということの重さに気付けない幼さ、鈍感さ。こういう人もいるとは思いますが、こういうヒロインって珍しい。おむすびを怒りの表現に使うことと合わせて珍しい。そして、聖人(北村有起哉)はいつも翔也の気持ちの代弁役。
でもこのドラマは未熟なヒロインがちょっとずつ成長する話のようなのです。朝ドラはなぜか成長しないヒロイン、変わらなくていい、みたいなノリがありますが、このドラマは結がギャルになって考え方や生き方が変わったり、就職の面接がうまくできなかったのが、最終的には器用に面接用トークができるようになったり。成長が見られます。
切り替え早く、結は菜摘に誘われて合コン(土曜のランチ合コン)をすることになります。店を知らないからと結はいつもの太極軒をセッティング。
この店も翔也と行きつけになっていたのに、ここで合コンするのも、なんだか無神経というか、考え方が大雑把だなあと感じます。セットが用意できないことによって、登場人物の繊細な感情が損なわれるという一例です。こうなってしまった状況を必然にするため、菜摘が結に店を決めるよう頼み、店を知らない結が太極軒を選んでしまったということになっていますが……。
そして合コン要員の男性たちも、聖人と同じく、結に別の角度で物事を考えさせる役割。
結は、彼らから、翔也を支えるために栄養士になったことを思い出させられ、考えはじめます。
翔也を支えたいと思って栄養士になり、翔也のおかげで同じ会社にまで入れたことを忘れてはいけない。支えたいという気持ちの原動力は、翔也への想いであったはずです。
いかにひどいことを翔也に言ってしまったかどうか気づいて結!
(文:木俣冬)
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