『パシフィック・リム:アップライジング』、前作の魂は引き継がれた!

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思えば前作『パシフィック・リム』が公開されて以降の、日本中を熱狂で包み込んだあの頃の狂騒ぶりは“特撮ブーム”の再燃を告げる狼煙だったのかもしれない。日本の専売特許とも言える「巨大ロボット」「怪獣モノ」がハリウッドの潤沢な資金で映画化されただけでなく、むしろ日本で作られる以上に日本特撮への愛が注ぎ込まれた『パシフィック・リム』に、特撮映画好きの筆者は興奮とともに正直嫉妬心すら覚えたくらいだ。それでもその愛が偽りではなかったからこそ、ギレルモ・デル・トロ監督は日本の映画ファンから絶大な信頼を勝ち得たのだろう。

早いものであれから5年が経とうとしている。いよいよ待ちに待った続編『パシフィック・リム:アップライジング』の登場だ。デル・トロ監督は製作総指揮に回り、代わって新鋭スティーヴン・S・デナイトが監督の座に就いた。デル・トロが作り上げた「パシフィック・リム」という世界観はすでに完成されたものであり、それを別の人間が引き継ぐことに対して不安を覚えるファンも多かっただろう。けれど、安心してほしい。新たにバトンを渡されたデナイト監督だが、その根底を支えていたのはデル・トロと同じ日本特撮文化への深すぎる愛だったのだ!

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パワーアップしたロボットバトル!

『パシフィック・リム』の最大の見どころと言えば、やはり巨大ロボット・イェーガーと怪獣=KAIJUによるド迫力のバトルだろう。ジプシー・デンジャーを筆頭にした巨大ロボたちはそれぞれしっかりと個性が与えられ、まるで好きな俳優を挙げるようにファンから熱烈に愛された。またナイフヘッドやレザーバックといった巨大怪獣たちもイェーガーに負けず劣らずの魅力を放ち、街を蹂躙すると同時に怪獣ファンの胸をも高鳴らせてしまった。両者の激突には最先端のVFX技術が注がれつつ、昔ながらの肉弾戦や必殺技をもってして表現され、どこか無骨な巨大ロボと重量感たっぷりの怪獣のぶつかり合いは多くのファンを魅了した。デル・トロ監督がこれまで内に秘めていた特撮愛と異形への愛を、十分なほど知ることになったのだ。

時を経て、今回の物語は前作で怪獣撲滅の歴史に名を刻んだペントコスト司令官の息子・ジェイクを軸に展開する。“英雄”である父親の面影を背負いながらも自身はその英雄になることを諦め、犯罪者まがいの生き方を選んだ姿はたしかにヒーロー像とはほど遠い。ジェイクの義姉であるマコの存在も本作では重要な位置を締めるが、いずれにせよイェーガーとパイロットとなる戦士たちは“リセット”がかかったと言っていい。これは監督も意図していたところで、前作でイェーガー計画が崩れてしまったことを契機に本作ではより洗練されたイェーガーをデザイン。ロボットからは無骨な印象が消え、機動性重視のコンセプトになっている。

もちろん前作のファンからすればイェーガーの重量感が良かったという声もあるとは思うが、新たに誕生したジプシー・アベンジャーらイェーガーは機動性を得た分、新たに登場する怪獣とのファイトにより細かく現実味のある動きを示せるようになった。これにより、正体不明のイェーガーであるオブシディアン・フューリーとの胸滾るバトルシーンでは、ある意味前作では描くことのできなかった本作ならではの鮮烈なアクロバティックアクションを目撃することができる。メイン機のアベンジャーだけでなく、セイバー・アテナやタイタン・リディーマーといったイェーガーたちも同じように機動性が与えられた結果、最終決戦となる日本での怪獣総当たり戦がより迫力を増すことになった。発展を遂げた東京を舞台に高層ビル群の間を駆け抜け、ときにはなぎ倒しながら展開されるラストバトルは本作最大の見せ場であり、進化したイェーガーだからこそ成し得た描写になっている。長編デビュー作にしてこれだけのバトルシーンをものにしてしまうとは、デナイト監督の「俺、こういうの見慣れてるから」感をひしひしと感じざるを得ない

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意表を突くストーリー

続編のジレンマとして、前作やほかのエピソードと結局は同じ話が展開してしまうという負の連鎖がある。もちろん新しい機軸を立てればいい話だが、あまりにテイストを変えてしまえばファンから“別物”のレッテルを貼られてしまいかねない。大作やメジャーシリーズだからこそ余計に目を見張られてしまうところもあるが、本作の場合はそのバランスを取りながら脚本を開発したことが伺える展開が随所に見られる。もちろん巨大ロボVS怪獣の構図を変えるようなことはせず、かといってそれだけでは終わらせもしない。無人操縦ロボットの配置を目指すジン・ティエンや謎のイェーガーであるオブシディアン・フューリーの存在がまさにそれで、観客はこれらキャラクターが現れるたび「次はどう動く?」と常に疑問符が浮かぶはずだ。

デナイト監督はもともと脚本家であり、本作でも脚本を担当しているので物語のバランスを組み立てる上で、そのキャリアは十分に活かされている。さらに「あっ」と驚くような展開まで仕組まれ、デナイト監督の冷静な(言い換えれば冷徹な)ストーリー運びは、映画の中のバランスを取るだけでなく本作と前作を愛するファンとのバランスまで計ろうとしているのだ。こればかりは吉と出るのか凶と出るのか観客次第だが、あらためてデナイト監督の挑戦的な姿勢というか、野心には驚かされる。前作から作品の構造はしっかりと受け継ぎつつも、その精神性はデナイト監督流にアップデートされている。

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日本という国に対するリスペクト

それでも、デル・トロが前作で示した“愛情を注ぐ”というモチベーションになんら変わりはない。誤解を恐れずに書くならば、デル・トロは異形への愛ゆえなのか、どことなく怪獣寄りの立ち位置にいたような印象を受ける(もちろん「マジンガーZ」といったロボット作品に対するリスペクトも強い(とくにジプシー・デンジャーに色濃く見受けられる))。人類が勝利を収めたとはいえ、それはあくまでもギリギリの勝利であり、怪獣は徹底的にイェーガーを痛めつけた。デル・トロがメディアの取材でウルトラ怪獣に遭遇するたびに目を輝かせ少年に戻る姿に思わずほっこりしつつ、本編では“推し”の退場に悲鳴を上げたくなるファンも多かったはずだ。

一方のデナイト監督といえば、おそらくイェーガーのアップデートや、よりメカニカルになったロボットの細部の描写などから見ても“ロボット寄り”なのではないだろうか。「そっくりそのままは真似できない」としながらも、今回のイェーガーのコンセプトデザインについて「機動戦士ガンダム」などのビジュアルから受けた影響は少なくないと思われる。さらにじっと見ていれば、巨大ロボが繰り出す、より人間的な動作やアクションからもロボットアニメーション(たとえば「ヱヴァンゲリヲン」や「機動警察パトレイバー」といった作品群)からのインスピレーションを感じずにはいられない。監督の言葉によれば、「セイバー・アテナ」にはイェーガーの中でもとくに日本的なイメージが込められているという。

本作には日本から菊地凛子以外にも新田真剣佑が加わっているが、彼の初登場シーンで印象的なカットがある。画面の片隅で、真剣佑演じるリョーイチがかるた取りの練習をしているのだ。ストーリー自体にかるたは絡んでいないが、これはもちろん真剣佑が出演している映画『ちはやふる』に関連してのこと。真剣佑が『ちはやふる -結び-』の役作りのため撮影現場にもかるたを持参して練習していたところそのまま本編に採用されることになったそうで、そういったアイデアからもデナイト監督の日本文化への愛が汲み取れるかもしれない。最終決戦の地が日本となったこともしっかりと理由づけられていて、本音を言えば「デナイト監督日本好きすぎるでしょ」とすら思えてしまうほどだ。

とはいうものの、もちろん本作の魅力は日本へのリスペクトがメインではない。それは前作も同じであり、むしろもっとグローバルでありながら、国や人種の違いをなくしたフラットな地平が平等に用意されているからだ。流れている血は違えど手を取り合い、ともに強敵に戦いを挑む姿は映画だからこそ描くことのできる“希望”でもある。デル・トロもデナイト監督も、「パシフィック・リム」という世界線がもつ魂を見つめる視線はまったくブレておらず、そんな意味からも本作が製作された意図が掴めてくるのではないだろうか。

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“パシリムのテーマ”が帰ってきた!

前作が大きなムーブメントを呼び起こした要因の1つに、観客を鼓舞する「音楽」の魅力があったことは間違いないだろう。とくに映画の序盤、ベケット兄弟がジプシー・デンジャーに乗り込み出撃する際に流れるテーマ曲は、今や映画音楽の枠を超えてさまざまな場面で使用されるなどして耳に馴染みきった感すらある。同時にラミン・ジャワディという作曲家の名前が一気に知れ渡るきっかけにもなった。

残念ながらジャワディの再登板は叶わなかったが、今回音楽を担当したロアン・バルフェはジャワディと同じハンス・ジマーの門下生になる人物。「ダークナイト」シリーズや『ダンケルク』などを手がけているジマーは「リモート・コントロール」というプロダクションを展開しており、2人はジマーのもとで作曲のノウハウを継承している。ジマー特有の勇壮なメロディ性がしっかりと受け継がれた結果、「パシフィック・リムのテーマ」が誕生したわけだ。バルフェの活躍ぶりも近年目覚ましいものがあり(多作家の面もある)、『ターミネーター:新起動 ジェニシス』『レゴ バットマン ザ・ムービー』『ゴースト・イン・ザ・シェル』『ジオストーム』『ホース・ソルジャー』といった作品で音楽を響かせている。

前作のファンも気になっていたであろう「パシフィック・リムのテーマ」の扱いだが、本作でも重要な場面でしっかりとアレンジ版(リミックス担当はパトリック・スタンプ)が流れ、サウンドトラック盤にも「GO BIG OR GO EXTINCT」というタイトルで収録されているので要チェック。もちろんバルフェもデジタルビートとキャッチーなメロディラインで新たなテーマ曲を提示しており、全編で鳴り響く音楽についてデナイト監督も称賛しながら「ぶっとんだスコア」と表現している。ちなみに本作の国内盤サウンドトラックは、“昭和怪獣映画風”のコンセプトを採用したオリジナル帯。邦題トラックタイトルも合わせてなかなか“イカした”リスペクトデザインになっているので、ぜひ手に取り目と耳で燃え上がってほしい。

パシフィック・リム アップライジング

まとめ

デル・トロが作り上げた『パシフィック・リム』の精神を継承しつつも、デナイト監督が示してみせた新たな世界の眺望。その展開に賛否分かれる結果となるかもしれないが、イェーガーと怪獣の構造的対立は変わらず、ネクストジェネレーションに託された“一致団結”というメッセージ性にもなんら変わるところはない。アップデートされ“アップライジング”した「パシフィック・リム」の世界を、デナイト監督がぶつけてきた特撮愛を楽しむためにもビッグスクリーンでの鑑賞は必須だ!

(文:葦見川和哉)

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