アメコミ映画は日本でも、ヒット・ジャンルになるか?(後篇)
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」「デッドプール」


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「X-MEN」シリーズの安定と迷走

後輩 で、「バットマン」シリーズが日本で興行不振だったにもかかわらず、アメコミ映画は製作されていますよね?

先輩 そうそう。だから、アメコミ映画というくくりではなく、ハリウッド映画の大作として公開されて、まずまずのヒットとなったのが2000年公開の「X-MEN」。興行収入で18.5億円あげたんだから立派だよ。

後輩 「X-MEN」のシリーズは、現在でも続いていますよね。

先輩 続編やらスピンオフやら、たくさんあって、もうわけがわからん(笑)。ただ、こうした多角的な展開を初めてしたアメコミ映画は「X-MEN」だろうね。現在でもこの展開が続いていて、新作の「X-MEN:アポカリブス」が、この8月に公開される。

後輩 結局このシリーズって、日本でヒットしてるんですか?

先輩 2003年に公開された「X-MEN2」は興収18億円と、前作とほぼ同額をキープしたから悪くない。続いて2006年公開の「X-MEN:ファイナル・デシジョン」が15.3億円と、大ヒット・シリーズとは言えなくても、安定はしていた。ただしこれが2009年公開の「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」になると8.85億円にダウンし、2011年公開「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」7.02億円、2013年公開「ウルヴァリン:SAMURAI」8.12億円、2014年「X-MEN:フューチャー&パスト」10.3億円と、初期作品ほどの勢いは感じられないね。

後輩 ウルヴァリンは・・・毛深いし(笑)。

先輩 その「X-MEN」シリーズより、ちょっと遅れてスタートしたのが「スパイダーマン」で、これはソニー・ピクチャーズの配給。

「スパイダーマン」シリーズは、青春映画だから受けた?

後輩 「X-MEN」と同じくマーベル・コミックのフランチャイズですが、「スパイダーマン」の1作目は、日本でも大ヒットしましたよね。なんで同じアメコミ映画なのに、こんなに興行成績に差が出たんですか?

先輩 2002年5月に公開された「スパイダーマン」は、君が言うように興収75億円をあげる大ヒットになった。なにせ当時としては破格の304スクリーンで公開され、オープニングで興収11.89億円を計上しているから、勢いもあったわけだ。

後輩 「バットマン」シリーズは、内容が暗いから海外のマーケットでヒットしないといった指摘は、正しかったわけですね。

先輩 確かにそれはあるけれど、それだけじゃないよ。「スパイダーマン」って、冴えない高校生がある日突然特殊能力を持ってしまい、ヒーローになるわけだけど、その葛藤やジレンマも表現されている。つまり青春映画っぽい内容なのが受けたと思うよ。

後輩 今風に言うと、主人公に観客が「共感」したわけですね(笑)。

先輩 オレ、その言葉キライだ(笑)。

後輩 ちょうど日本のマーケットに、シネコンが増えてきた時期とも重なりますね。

先輩 そうそう。「スパイダーマン」シリーズは1作目が2002年、2作目が2004年、3作目が2007年に公開されている。これはシネコンの主戦場が地方都市から都会へと変わっていった時期と重なる。東京では2007年に新宿バルト9がオープンしているしね。

後輩 それなのに、なぜ「アメイジング・スパイダーマン」の成績はパッとしないんですか?

先輩 パッとしないとは言っても、1作目31.6億円、2作目31.4億円あげてるのは立派だよ。ただし内容的に、前の「スパイダーマン」と同じことをやっている。早すぎるリメイクという感じもする。何かもっと新しいことを織り込まなくては、リニューアルした意味がない。

後輩 その「スパイダーマン」大ヒット3作品と、「アメイジング・スパイダーマン」の間に登場したのが、「アベンジャーズ」で、つまりMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の第1フェイズのクライマックスですね。

先輩 なにそれ? 知らない。とにかくアメコミ・ヒーローも個人戦から団体戦の時代になったわけだ。

「アベンジャーズ」の大ヒットで、アイアンマン3」の成績も伸びた。

先輩 「アベンジャーズ」は日本でも2012年に公開されたけど、この年は6月に「アメイジング・スパイダーマン」、7月に「ダークナイト・ライジング」、そして8月に「アベンジャーズ」と、さながらアメコミ映画大挙登場の夏休み興行だった。

後輩 でも、「アベンジャーズ」がトップだったんでしょ?興行成績は。

先輩 うん。「ダークナイト・ライジング」は、「バットマン・ビギンズ」「ダークナイト」に続くクリストファー・ノーラン監督の新しいバットマン・シリーズだったけど、前作の「ダークナイト」と比べて、内容的にがっかりというか(笑)。

後輩 「ダークナイト」だって、アメリカでは大ヒットしたのに、日本では16.1億円しかあげられなかったじゃないですか。

先輩 うーん・・・凄い映画なんだけどなあ、「ダークナイト」。もうこのシリーズって、日本のマーケットにとって鬼門としか思えない。バットマンはどうやっても、誰がやっても暗くなってしまうんだとしか言いようがないね。

後輩 話は「アベンジャーズ」に戻りますが、アイアンマンやハルク、キャブテン・アメリカといったマーベル・コミックのオールスター・キャストではあるものの、その知名度は未知数ですよね、確かに。

先輩 アメコミの熱心な読者が、さて日本で何人いるか。そしてそういう人たちが、夏休み映画1本の興行を支えるだけの力があるのか。残念ながら、日本では国産のコミックが圧倒的なシェアを持っているし。

後輩 わかった。アメコミ映画を支えているのはアメリカの男性観客だと思いますが、同じように日本では少女漫画の映画化が盛んで、こちらは女性客に受けている。男女の違いはあれど、コミック文化が映画を支えている構造は同じだという。

先輩 その通りだけど、アメコミ映画のファンは確実に日本でも増えていると思うぞ。特に男性客は。

後輩 昔のように、アメコミの映画化ではなく、ハリウッドの超大作という風貌を前面に押し出してヒットに持ち込むという手は、今のご時世ではむしろ不利なんじゃないでしょうか?

先輩 そうなんだよ。それと、マーベル、DC共にこれだけの数の映画を作ってきたわけだから、アメコミの存在はさておき、映画オリジナルのキャラクターが受け始めたと言えるかもしれない。でないと「デッドプール」のこの好調ぶりは説明がつかない。

後輩 「アベンジャーズ」が興収36.1億円をあげたおかげで、翌年5月に公開された「アイアンマン3」は25.7億円のヒットになります。これは明らかに「アベンジャーズ」でアイアンマン=トニー・スタークを認知した人が増えたと言えませんか?

先輩 その指摘は正しいだろうね。「アイアンマン」シリーズは、1作目9.4億円、2作目12億円と興収がアップしていたけれど、3作目が2作目の2倍以上も行ったということは、明らかに「アベンジャーズ」の影響がある。

後輩 それと、一昨年ぐらいから稼働を始めたIMAX、4DX、MX4Dといった、体感起動装置と呼ばれるハードも、こうしたアメコミ映画を楽しむ観客の増加に貢献していると見ていますが。

IMAX、4DXは、アメコミ映画の興行に貢献しているか?

先輩 ところがそれはそうでもないようなんだよ。「シビル・ウォー」のIMAXの全国興収シェアは10パーセントに満たないからね。前篇で触れたように、「シビル・ウォー」は3D上映をほぼIMAX 3Dだけに絞ったんだけど、それでもシェアは飛躍的に伸びない。

後輩 3D映画そのものが飽きられているってこともあるんでしょうね。

先輩 うん。体感起動装置の類いは、映画館をアトラクション・パーク化したけれど、そうなると若い観客が多くなる。それとどうしても大都市の上映館が有利になってくる。

後輩 人口区分別に見ても、やはり若い観客は大都市に多いってことですか?

先輩 それとIMAXにせよ4DXにせよ、特別料金を徴収するじゃないか。三半規管の弱い僕なんか、なんでバカ高い料金を出して、揺さぶられたり霧を浴びたりしなくいはならないのか、理解に苦しむよ(笑)。仮に地方のシネコンで4DXを導入したとしても、そもそも若い観客の絶対数が少ないんだから、都会ほどの稼働にはならない。

後輩 だって、先輩ももう少しで適用されるシニア料金が1100円ですからね。そら3000円近い料金を払って三半規管を刺激しようとは思わない(笑)。つーか、そもそもシニア観客はアメコミ映画の主要な客層ではありませんから。

先輩 じゃあ、どんな客層をとりこんで行けば、アメコミ映画はヒット・ジャンルになるんだい?

後輩 やっぱ若者たちでしょう。

先輩 若い観客たちは流行に左右されやすいから、あっという間にブームが終わるしかもしれない。というより、まだアメコミ映画のブームなんて来てないじゃん。

後輩 これからですよ、これから。マーベルに対抗して、DCも「バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの誕生」から団体戦に突入しますから。さし当たっては9月公開の「スーサイド・スクワッド」から。

先輩 だから「シビル・ウォー」みたいにオールスター総登場で実はシリアスな内容だったり、「デッドプール」みたいに笑える映画だったり、1作品1作品の個性が明確になることは、大歓迎。そういうバリエーションの豊かさとキャラクターのユニークさで、日本のファンを増やしていくのが正解だろうね。

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(企画・文:斉藤守彦

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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