美しくも勇気ある映画『草原の実験』は 見逃し厳禁たる今年の大収穫!
ロシア映画伝統の韻を踏んだSFファンタジー
ロシア映画にはハリウッドなどと一味違うペシミスティックなSF&ファンタジー映画の系譜があり、それはときとしてアンドレイ・タルコフスキー監督の遺作『サクリファイス』(86)のごとき悲痛なメッセージを伴うこともありますが、本作もそれと同系統のものとして捉えると実にわかりやすくなることでしょう。
また、台詞がない分、どうしてもドラマとしてわかりにくい箇所も多少出てきたりもしますが、あまり理屈で考えず、映像に身を委ねることで、むしろ感覚的に理解できるのではないかとも思います。
徹頭徹尾、静謐に沈黙を保ち続ける映像は、北野武監督作品の静寂さをも彷彿させるものがありますが、本作のアレクサンドル・コット監督は「沈黙は台詞よりも多くのことを語る」とみなしながら、ひたすら画の力で雄弁なる世界を体現させています。
台詞を排した勇気、臆することなく現代社会に訴えておくべきメッセージを訴え得た勇気、世界観の要を一人の少女に託し得た勇気……などなど、この作品は昨今の映画にはない数々の勇気をもって、見る者を感動させ、衝撃を与えるとともに、深く熟考させてくれます。
淡々とした画と音の連なりの中から、映画の持つ可能性をさらに力強く押し広げてくれる作品としても、他に例がないほどです。
繰り返しますが、映画ファンを自認するかたは今年絶対見ておくべき作品です。
いつぞやの「日本よ、これが映画だ」とは、本来こういった作品の宣伝文句として使われるべきものでしょう。
公開に際して、エレーナ・アンも来日して舞台挨拶を行う予定とも聞いております。
後々後悔しないためにも、すぐさまチケットを買いに行ったほうが賢明でしょう。
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(文:増當竜也)
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