究極の絶望の中から覚悟の希望を示唆する ロシア映画『裁かれるは善人のみ』


安易な希望よりも
勇気ある絶望を


しかしながら、こういった究極の絶望を描く、いわゆるアンハッピー・エンドの映画は、逆に観客の心の目を見開かせ、鑑賞後しばらくすると不思議なまでに意識が鮮やかになり、ある種の開き直りともいえる覚悟をもって、前を見据えて歩んでいこうという気概に導かれるものであり、本作も例外ではありません。
sub3


人生とはかくも無慈悲なものではあるが、それでも生きていられる間は生きていかねばならない、そういった覚悟を抱かせてくれるのは、先ほども記した本作の圧倒的な自然描写が神話的情緒をもたらすことで、人類は常に苦悩しながら長き歴史を渡り歩いてきている事実を映像の力で説き伏せているからでしょう。

劇中、リリアが目撃する海の怪物めいた生物や、打ち上げられた巨大クジラと思しき骨なども、どこかファンタジックに神話的情緒を増大させていきます。

とどのつまり、人生そのものが究極のダーク・ファンタジーなのかもしれませんし、その中で成功するものなどごくわずかで(しかも善人など少なかろう)、大半は志半ばにして斃れ、朽ちていく。

安易な希望よりも究極の絶望こそが、人の心を真にプラスへ導くのかもしれません。
sub5


本作は第67回カンヌ国際映画祭で脚本賞を、ゴールデングローブ賞外国語作品賞を受賞。アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされました。

ハリウッド映画ではおよそありえない、勇気ある絶望の描出が評価されたのだと思います。

見る側も、どうか勇気をもって、この絶望の映画に接してみてください。

鑑賞後、しばらくすると不思議なまでの希望が心の内に灯るはずです。
main



■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)
映画『裁かれるは善人のみ』は10月31日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー!
公式サイト http://www.bitters.co.jp/zennin/

(c) 2014 Pyramide / LM

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!