『となりのトトロ』が深い“5つ”の理由!
『となりのトトロ』は何度も観ても飽きない作品でありますが、ここでは本作がさらに奥深く感じられる“サツキの性格”についての“盲点”について書き出していきます。
※本記事では『となりのトトロ』のラストを含むネタバレに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。
1.メイはとにかくわがままで強がり!
サツキの性格を分析する前に、その妹の4歳のメイについて書いてみます。
ご存知の通りメイの性格は“わがまま”で、「メイ、(家にいるのは)リスがいい!」「お母さんは(一緒に寝るのは)いいの!」など、自分の希望を素直に言ってしまうところもあります。
わがままなメイは、特に“長い時間”を我慢することができません。
- お母さんがもうすぐ退院できると聞くと「もう少しって、明日?」と言ってしまい、サツキに「またメイの“明日”が始まった!」と突っ込まれてしまう。
- 探検に出かけたときも、すぐに「お父さーん、お弁当まだ?」と聞いて、お父さんに「え、もう?」と驚かれる。
- おばあちゃんに預かってもらったときも、メイはサツキの小学校に来てしまうので、いっしょに授業に受けさせてもらう。
さらにメイはけっこう強がりで、しょっちゅう「メイ怖くないもん!」「メイ泣かなかったよ、えらい?」とも言っています。その一方で、メイは探検している間に帽子を落としても気づかないなど、注意力が散漫だったりもします。
妹がこのような性格だったら、お姉ちゃんのサツキはどのように振る舞うでしょうか……言うまでもなく、“しっかり者”にならざるを得なくなるのです。
2.しっかり者に“見える”サツキの性格
サツキは、12歳の女の子とは思えないほどにしっかり者に見えます。近所の大人にはちゃんと敬語で挨拶していますし、お父さんが寝坊したときも3人分のお弁当を作っていました。
一方で、サツキはメイ以上に好奇心旺盛で、なんでも正直に言ってしまうところがありました。
初めて家の近くに来たとき、トラックから先に飛び出して“木のトンネル”に感動したのも、「早くーっ」と急かしたのも、家を見て「わあーっ、ボロッ!」と言ってしまうのも、メイではなく、サツキでした。
サツキがカンタのことを「男の子キライ!でも、おばあちゃん家のオハギは、とーっても好き!」とおばあちゃんに話すシーンもありましたね。本当は、サツキはそのくらいに素直な女の子なんです。
サツキが、そうした子どもっぽい素直さを出さないのは、決まって知らない大人と接するときか、メイと一緒にいて「お姉さんらしくしないといけない」時です。それは、「お母さんがいないから、私がしっかりしなければいけない」というプレッシャーのためでもあったのでしょう。
そんなサツキの“しっかり者”の面は、病院からの電報を受けてから、崩れてしまいます。
悪い予感がしたサツキは、いつも気にかけていたはずのメイを放っておいて、カンタの本家へと走ってしまいます。さらに、お母さんが戻ってこないことにメイが「ヤダー!」とグズると、サツキは「じゃあ、お母さんが死んじゃってもいいのね!」と、“自分が思っている不安”を口にしてしまいます。
そんなサツキが、おばあちゃんを前にして「この前もそうだったの、ほんのちょっと入院するだけだって。風邪みたいなものだって……お母さん、死んじゃったらどうしよう。もしかしたら、お母さん……」と言ってから泣き出してしまうのは、ずっと自分が思っていた不安に、ついに耐えられなくなったからでしょう。
サツキは、しっかり者にならなければいけないと思っていたからでこそ、そうした不安な気持ちも、なかなか口に出すことができなかったのです。
また、メイはわがままだとは言いましたが、メイもまた「怖くないもん」と言って強がることで、お姉ちゃんと同じようなしっかり者になろうとしていたのもしれませんね。
3.メイのことが、本当に大切だった
サツキはいなくなったメイを探すために走り出します。
このときにサツキは、近くにいたおじさんにはじめは敬語で話していたものの、すぐに「わからないの」といつもの言葉遣いに戻ってしまうばかりか、お礼も言うこともなく走り去ってしまいました。
さらに、若いカップルが乗ったオート三輪の前に飛び出て、無理やり止めるという危険なことまでしていました。
池でメイのサンダルらしきものが見つかると聞くと、カンタの忠告も聞かずに走り出し、泥だらけになった自分の足を見てからサンダルを脱いで、また走り出しました。
これらのシーンでは、サツキにとって妹のメイがいなくなるということが、いままでできていた“大人へのちゃんとした対応”ができなくなり、誰かの声も聞こえなくなるほどの一大事であることが伝わってくるのです。
またメイがいなくなってしまう前、メイはサツキが泣いてしまうのを見ていました。おそらく、メイが遠い病院まで走って行こうとしたのは、“お母さんに会いたい”というだけでなく、しっかり者のサツキが泣いているのを知り、“お姉ちゃんを安心させてあげたい”ということも、理由だったのではないでしょうか。
メイにとっても、お姉ちゃんのサツキは大切な存在だった……そう感じるのです。
4.子どものように、抱きついてもいいんだ!
本作で何よりも感動してしまうのは「サツキがトトロに抱きつく瞬間」でした。
まず、序盤にサツキとメイとお父さんが、お母さんのお見舞いに来ていたときのことを振り返ってみます。
病室に入ってきたとき、サツキは周りの患者さんに「こんにちは」と挨拶をしていましたが、メイは「あーっ、お母さーん!」と言いながらすぐに抱きついています。ここでも、サツキは大人のいるところではしっかり者で、メイはわがままで思ったことをすぐ行動に移してしまうことがわかりますね。
暗い森のバス停でお父さんを待つとき、メイは不安そうにサツキの手を握りしめていましたが、やはりサツキは平気なふりをしているように見えます(もちろん、サツキだって怖いに決まっていますが)。
この後にトトロの姿を初めて見たサツキは、バスから降りたお父さんに、メイと同時にうれしそうに抱きついていました。トトロは、サツキの“しっかり者”でなくてもいい、子どもらしくしてもいい、という気持ちを後押ししてくれたのかもしれませんね。
そして、庭でトトロと空を飛ぼうとするシーンでは……メイは大喜びでジャンプしてトトロに抱きつきますが、“しっかり者”でいなければならないサツキは、やはり無邪気にそうすることができません。
しかし「抱きついてもいいんだよ」と促すように見つめ返すトトロの顔を見て、サツキはやっと「しっかり者でなくていい、子どもでいていいんだ!」と気づいたのでしょう。サツキもメイと同じように笑顔になり、トトロに抱きつくのです。なんと繊細な描写なのでしょうか!
等身大の子どもに戻ったサツキは「メイ、私たち、風になってる!」と叫ぶほど、トトロとの空の旅を心から楽しみます。メイとサツキが子どもとして、夢のように空を飛ぶシーンは、これ以上のない開放感に溢れていました。
5.サツキとメイは、なぜ最後にお母さんに会わなかったのか?
物語の最後、メイとサツキは、お母さんのベッドのそばの窓にトウモロコシを置いて去っていました。なぜ2人がお母さんに会わなかったのか……といえば、2人が「お母さんにすぐに会わなくても大丈夫」だと気づいたからなのでしょう。
メイは前述した通り「(お母さんが帰ってくるのは)すぐって明日?」と聞くほどに長い時間が待てませんでしたが、ここではお母さんの元気そうな顔を見て、“退院を待ってもいい”と思えたのでしょう。
サツキもまた、お母さんの無事を確認できたことで、“死んでしまうかもしれない”という不安がなくなったのでしょう。
メイとサツキは今まで会えなかったお母さんに甘えようとしていた……それでも、ここではあえて会わずに帰るのです。つまり、この“トウモロコシを置いて帰る”というのは、幼かった姉妹が成長して、少し大人になったことを示しているのでしょう。
お母さんはそんな2人のことを、こう話します。
「あの子たち、見かけよりずっと、ムリしてきたと思うの。サツキなんか聞き分けがいいから、なおのこと、かわいそう。退院したら、今度はあの子たちに、うんとわがままをさせてあげるつもりよ」
お母さんは、サツキが“しっかり者”でいようとしていたことに気づいていたんですね。(序盤にお母さんは、サツキに「あなたは母さん似だから」とも言っていました)
サツキとメイは少し大人になりましたが、お母さんはちゃんと“子ども”の2人のわがままを聞いてあげると話す……。本作のラストが心地よいのは、そんな“幸せへの予感”があるからなのでしょう。
なお「サツキとメイの影が終盤でなくなっている、これは2人が死んだことを示している」という都市伝説が有名になったこともありましたが、これは公式の広報部に否定されています。
影がないのも、日が落ちて影を描く必要が無くなっただけという作画上の理由であることが明言されているので、心配する必要はありません。
おまけ.スタッフロールのメイにも注目!
金曜ロードショーでは放送されないかもしれないですが、DVDやBlu-rayなどでスタッフロールの絵にも注目してみてほしいです。
そのスタッフロールでは、お母さんが退院した後のことが描かれていました。子どものグループで遊んでいるという絵では、メイだけが赤ちゃんくらいの子どもをじっと見ていたりもするのです。
おそらくメイもまた、子どもの面倒をみられるような“お姉ちゃん”になろうとしていたのでしょう。その後では、メイは子どもたちを率いて“電車ごっこ”をしていたりもするのですから!
このほかにも、『となりのトトロ』には、まだまだ気づいていない“盲点”がきっとあるはず。皆さんも、ぜひ見つけてみてください!
(文:ヒナタカ)
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