映画コラム

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2020年11月21日

『家なき子 希望の歌声』レビュー:「原作を映画的にアレンジする」ということ

『家なき子 希望の歌声』レビュー:「原作を映画的にアレンジする」ということ



増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

「原作と映画は別物!」とはわかっていても……

 小説なり漫画なりアニメーションなりを映画の原作に用いることは古今東西の常ではありますが、おおよそ2時間という上映時間の枠内に収めるため、その内容をアレンジするのもまた常で、そのたびに原作ファンからは「なぜ変えた?」といった論議が巻き起こります。

SNSが発達して誰でも発言しやすくなった今の時代、特にその傾向は加速しているようでもあります。

「原作と映画は別物だから」という理屈は正しくはあれ、なかなかその域に達することができないのもまた人情。

たとえばサスペンス映画の名匠アルフレッド・ヒッチコック監督は、小説の映画化ならば自分流に肉付けしやすい短編小説を好んでいたと聞きますが、長編であればあるほど原作の中身を削ぎ落していかないといけないし、またそこで生じるストーリーのバランスを保つために新しい設定を構築していかないといけない。

また、こうした原作からの取捨選択およびアレンジ作業は、どこまで原作ファンに許容してもらえるかがキモになっていきます。

ここで難しいのが、原作者がアレンジを容認してもファンは許さないとか、監督が原作の大ファンだったにも関わらず、それゆえに客観性を見失い自滅してしまうなど、さまざまな炎上パターンが今では日常のものと化してきている感もあります。

今回ご紹介する『家なき子 希望の歌声』も、世界中に知られる児童名作文学の実写映画化ですが、正直びっくりするほどのアレンジが施されていて、その意味では賛否両論になることでしょう。

ただし私自身は、あの大河小説を2時間以内にまとめるための映画的アレンジとして、そこそこ上手くいっている作品に仕上がっているとは思っています。

これからご覧になられる方々のためにネタバレは差し控えますが、本作を通して原作と映画の関係性に関して少しばかり想いを馳せていただければと思います。

これまで日本で映像化
されてきた『家なき子』




まず、小説『家なき子』はフランスの作家エクトール・アンリ・マロが1878年に発表したもので、日本では1903年に『未だ見ぬ親』の邦題で新聞連載されたのが最初とのことです。

基本ストーリーは、南フランスの農村で貧しいながらも優しい義母と幸せに暮らしていた11歳の少年レミ(彼は捨て子でした)が、出稼ぎで怪我をして帰還してきた義父によって旅芸人ヴィタリスに売り飛ばされてしまうものの、情け深い彼に守られながら犬のカピ、猿のジョリクールともども一座の旅を続けつつ、やがて本当の親を探し求めるようになっていく……というもの。



 その映像化はサイレント映画の時代からフランスやイタリアで幾度もされてきていますが、日本では1970年に東映動画(現・東映アニメーション)が『ちびっ子レミと名犬カピ』としてアニメーション映画化。



この作品で既に、犬のカピがもともとレミの飼い犬という設定であったり、動物たちは心で人間の言葉も話したり、ミュージカル仕立てになったり、いろいろアレンジや工夫が凝らされています。

続いて出﨑統監督による日本テレビ系列のTVアニメーション・シリーズ『家なき子』(77~78)全51話がオンエアされました。



こちらは基本的に原作に沿った忠実な映像化として好評を博し(何よりも出﨑監督の独自のケレンミ溢れる演出は、その後のクリエイターたちにも多大な影響を与えることに)、1980年には総集編映画も公開されました。

日本のみならず世界各国でも放送されて好評を博したこの作品こそ、おそらくは『家なき子』映像化の最高峰ではないかと思われます。

ちなみにこの作品、肉眼で3D効果が得られる立体アニメーション(ステレオクローム方式。専用の眼鏡をかければさらなる3D効果が得られる)として制作されており、今から10年ほど前の3Dブームの際には眼鏡つきのBlu-rayソフト発売などされないものかと期待していましたが、結局通常のものしかリリースされなかったのは残念です。

またこの時期、TBS系『まんが世界昔ばかし』でも1977年に採り上げられています。

そしてフジテレビ系列“世界名作劇場”最終作としてオンエアされた1996年のTVアニメ・シリーズ『家なき子レミ』全23話は、何とレミを少年から少女に代えるという大胆アレンジで、特に後半はオリジナル・ラブストーリーとしての色を強くしていきました。



名優たちの存在が
映画の構成を変えた!?




さて、今回の『家なき子 希望の歌声』ですが、多感な少年期に出﨑統監督版『家なき子』をリアルタイムで接していた身としては、冒頭で記したようにさまざまなアレンジが施されていたことに正直、驚きを隠せませんでした。

ネタバレは避けると言いつつ、冒頭だけあえて記しておきますと、この作品、年老いたレミ(ジャック・ペラン)が子どもたちに自分の少年時代を語り始めていく回想形式になっています。

『ニュー・シネマ・パラダイス』で大人になった主人公を演じたことでも知られる名優ジャック・ペランの早々の登場は、映画のノスタルジー色を一気に高めあげてくれています。

少年レミを演じているのはオーディションで選ばれた、撮影時は11歳だったマロム・パキン。



なかなかにピュアで愛らしい風情で、また美しい歌声も披露してくれています。

そしてヴィタリスに扮しているのは、これまたフランス映画界を代表する名優ダニエル・オートイユ。

原作だとヴィタリスがいるいないで、ドラマの流れは大きく印象を違えていきますが、その意味でも彼の存在によって映画の構成も大きく変わっていったのではないかと勘ぐってしまうほどに見せ場は増え、またそれに伴う魅力も存在感もぐんと高まっています。

100年以上も前の小説を原作にする場合、原作者の許諾などの手間暇もなければ、またリアルタイムのものではない分、読者も冷静に映画化に伴うアレンジなどを冷静に対峙することができるのではないかと思われます。

そのあたり、今が旬のベストセラー小説などの映画化などとは大いに異なるところではありますが、だからこそ本作のような作品は、とかくバッシングだの炎上だのといった不寛容さで過剰なまでの熱を帯びていく現状の中、良きテキストに成り得るかもしれません。

私自身はこの映画の中のさまざまなアレンジに驚きつつ、それによって実に映画的なものになったなとは思っています(原作のご都合主義的なところも、いくらか改善していますね)。

作品そのものの清々しさも含めて、いろんな角度から楽しめる作品です。ぜひご覧になってみてください。

(それにしても、出﨑監督の『家なき子』3D眼鏡付きのBlu-rayソフト、出してくれないかなあ……)

(文:増當竜也)

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