2021年02月21日

『ある人質 生還までの398日』レビュー:ISに誘拐された若者の地獄と奇跡の救出劇

『ある人質 生還までの398日』レビュー:ISに誘拐された若者の地獄と奇跡の救出劇



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

2013年にシリアの非戦闘地域に赴くも、現地の情勢が急変してIS(イスラム国)に誘拐され、398日間にわたって人質となったデンマークの若き写真家ダニエル・リュー(エスベン・スメド)。

彼が味わった地獄の日々と、家族の献身によって奇跡の生還を果たすまでの救出劇を『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニールス・アルデン・オプレヴ監督が描いたもの。



ヒューマン映画と安易に呼ぶにはあまりにも壮絶すぎる実話の映画化で、主人公が受ける拷問の数々から生々しいまでの肉体的痛みが生理的に見る側にまで伝わってきます。

もっとも、同じく人質になっている仲間たちとの連帯や、彼らの間でIS監視員たちが“ビートルズ”と名付けられていたり(一番残酷なのがジョンというのも、またあまりにも皮肉が効きすぎ)、端々にユーモアの精神を忘れていないのも、ある種の救いかもしれません。

一方で、絶対にテロの脅迫に屈しない強固な姿勢ゆえに身代金の調達を拒むデンマーク政府への憤りと失望の気持ちを抑えつつ、さまざまな方法でお金を集めていく家族の労苦がじっくりと描かれているのが、本作の大きなポイントでもあるでしょう。

誘拐という非人道の極みを堂々と犯しながらも自分たちの行為が正義であると信じて疑わないIS側に対して、どこまで交渉が可能なのか、政府の姿勢は順当なのかなど、現代社会が未だに解決し得ないさまざまな問題を見る側に提示しつつ、最終的には家族の愛によって奇跡が起きることもあるということを示唆した作品です。



主人公が救出されてもしばらく映画は終わらないので一瞬「あれ?」と思いつつ、実はその後、決して目を離すことのできないラストが待ち構えています。

最後の最後まで気が抜けない、まさにスリリングどころではない現代社会の脅威が見事に描かれた秀作です。

(文:増當竜也)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)TOOLBOX FILM / FILM I VAST / CINENIC FILM / HUMMELFILM 2019

RANKING

SPONSORD

PICK UP!