『ゾッキ』レビュー:竹中直人×山田孝之×齋藤工が仕掛けた素っ頓狂な“寄せ集め”快作!
誰がどこを撮ったか
見分けのつかない一体感!
竹中直人といえば、1980年代よりコメディアンとして人気を博しつつ、俳優として数々の名作に出演し、1991年に『無能の人』で映画監督デビューを果たして世界的評価を得ながら、現在もマルチに活躍中の才人です。
そもそも彼が映画を監督しようと思った理由のひとつに「監督なら最後まで撮影現場にいられるから」というのがあり、要するにいつも現場でスタッフ&キャストとわいわいやっていたい。
ならば、自分でみんなを現場に“寄せ集め”すればいいじゃん! というのが彼の映画制作理念のひとつなのでした。
また『無能の人』の原作がつげ義春という昭和カルト漫画の代表格である点も含めて、彼はいわゆる華やかなメジャー的な題材よりも、たとえ密やかながらも確実に接する者へ影響を及ぼし続ける、そんな深みのあるカルティックなものにこそ興味を示す向きがあります。
本作もそんな竹中直人が『無能の人』同様の興味を持って取り組んだ映画なのでした。
そして、そんな彼に閃かれた山田孝之&齋藤工。
山田孝之はデビュー当時はイケメン若手男優として売り出されたものの、本人は当初からそこに違和感を生じており、次第にクセのある役を好んで演じるようになっていきました。
さらには『デイアンドナイト』(19)で映画プロデュースにも乗り出すなど多彩な活動を続けています。
もっとも彼は自分に映画監督は向かないと思っていて、今回の竹中直人からの誘いにも最初は躊躇してしまったようですが、結果としては初監督としての緊張感が初々しい効果をもたらすものへと導かれています。
一方、齋藤工は知る人ぞ知る大の映画マニアで、『blank13』(18)『COMPLY+-ANCE』(20)など、既に映画監督としても意欲的に活動。
また劇場体験が困難な被災地や途上国の子どもたちに映画を届ける移動映画館“cinema bird”を主宰したり、昨年から続くコロナ禍の中でオンラインを駆使した映画活動を展開し続けています。
そんな彼ですが、実は自身が映画を監督したいというきっかけになった1本として『無能の人』を挙げています。つまりは今回のコラボも宿縁だったといえるでしょう!
ここではあえて、3人の監督がどのエピソードを演出しているかは記しません(映画のエンドクレジットに、それぞれのパートが表記されます)。
なぜかというと、誰がどこを撮ったのか、まったく見分けがつかないほどに、1本の映画としてのまとまりが上手くなされているからです。
完全なオムニバス映画ならまだしも、1本の映画を複数の監督が撮るとどこかで個性のぶつかり合いが生じて、そこからほころびが見え隠れしたりもするものですが、本作にはそれが微塵も感じられません。
それはやはり総監督的なポジションに立った竹中直人の存在と、彼を信じながら自由に演出を采配していった山田孝之&齋藤工との信頼関係の賜物であったともいえるでしょう。
はてさて、そんな感じで映画『ゾッキ』、上映中は本当に、何だか素っ頓狂ながらも不思議と惹かれてやまないものを見せられている気分になってくることでしょう。
そしてすべてが終わったとき、「一体このカタルシスは何?」といった感動とも達成感ともつかない気持ちにつかまれること必至。
それこそ即ち映画『ゾッキ』の本質であり、同時にこれぞ映画鑑賞の醍醐味であるのでした!
(文:増當竜也)
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