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2021年03月26日

『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』レビュー:寝てもいい、いや寝ること前提のコンサートがあった

『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』レビュー:寝てもいい、いや寝ること前提のコンサートがあった



2021年3月26日より、映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』が公開されています。

本作のタイトルに冠されている「マックス・リヒター」をご存知でしょうか。個人的には、今を生きる映画音楽の作曲家の中でも最も好きな方であり、その美しもどこか寂しくもある旋律は、作品の印象で最初に頭に浮かぶほどに耳に残ります。

特におすすめなのは『パーフェクト・センス(Perfect Sense)』と『ふたりの女王 メアリーとエリザベス(Mary Queen of Scots)』と『ある画家の数奇な運命(Never Look Away)』。映画そのものを観るのはもちろん、これらのサウンドトラックは音楽配信サービスにて配信されているので、それぞれの英題で検索して聴いてみるのがいいでしょう。

マックス・リヒターを全く知らないという方は、ヨハン・ヨハンソンがメインの楽曲を担当した『メッセージ(Arrival)』のエンディングで使われた「On the Nature of Daylight」から聴いてみてもいいでしょう。その魅力は、言葉にするよりも実際に聴いてみることで、きっとわかるはずです。



そして、この映画『SLEEP』は、そのマックス・リヒターの楽曲のコンサートに密着するという内容なのですが……全くもって普通のコンサートではありません。

なんと「8時間に渡って演奏し、その間は眠っても良い」という、規格外の内容なのですから。演奏は真夜中から始まり、終わるのは明け方。観客は会場に並べられたベッドに横になることも、歩き回ることも自由。ただし、スマートフォンの電源は切っておくようにという通達もされています。



「8時間のコンサートに密着って、退屈にならない?」と心配している方もご安心を。その前代未聞のコンサートがどのように行われているかの解説、言語化が難しいマックス・リヒターの楽曲の魅力や彼の来歴、演奏者の(交代し休憩に入ることもあるが)苦労を示したりと、単調にならない、さまざまな視点の語り口があるので飽きることはないでしょう。

何より、全編でとても心地よい旋律が響いている中で、劇中の観客と同じように、映画館でゆったりと、身を任せるように観るという行為は、退屈だとか面白いだとか、そういった範疇に収まらない、「これでしかあり得ない」映画体験だったのです。本来であれば8時間かかるコンサートを、上映時間の99分に「凝縮」したかのたような贅沢さもありました。



これは、新しい芸術、エンターテイメントの形とも言えるかもしれません。通常であれば、コンサートで寝てしまうことは失礼であるし、もったいないと思うところを、寝ている間にも音楽が聴こえていること、その心地よい眠りでさえも、貴重な体験へと変えているのですから。(ともすれば、この映画も観ながら寝てしまってもいいかも?)

マックス・リヒターのファンはもちろん、全く知らなかったという方にとっても、またとない体験ができ、感動できること間違いなしのこの『SLEEP』は、言うまでもなく映画館での鑑賞をおすすめします。ヒューマントラストシネマ渋谷では、カスタマイズされたスピーカーに備わる音圧を全身で堪能する「odessa」上映が実施されており、より極上の心地よさを味わえるでしょう。



ちなみに、劇中のコンサートは数万円のチケットが数分でソールドアウトするほどの人気なのだとか。この映画では、その凝縮版を2000円にも満たない価格で楽しめるのですから安すぎます。ぜひ、全身で音楽を浴びるように、堪能してきてください。

(文:ヒナタカ)

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