映画コラム
“真のエヴァンゲリオン完結編”だった:BS1スペシャル「さようなら全てのエヴァンゲリオン~庵野秀明の1214日~」
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“真のエヴァンゲリオン完結編”だった:BS1スペシャル「さようなら全てのエヴァンゲリオン~庵野秀明の1214日~」
大きく変えようとしたアニメーションの作り方について
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』においてアニメーションの作り方を大きく変えようとした庵野秀明は、普通の外側にあるものから出たものを取り込まないと“新しい”面白いものは生まれないという考えから、アニメ制作には必須とも言うべき絵コンテを排します。
「プロフェッショナル」ではこの絵コンテに変わるプリヴィズ(事前にCGによってレイアウトや動きを作るもの)の制作と熱海合宿の部分が大きく取り上げられています。“アングル”に異様なこだわりを見せる姿が印象的でしたね。
これに対して「さようなら全てのエヴァンゲリオン」では、ここに映画公開後に展示がスタートして大きな話題を呼んだ「第3村ミニチュアセット」に関するパートが新規に時間をしっかり取って挿入されています。電柱好きを自認する庵野秀明の嬉しそうにミニチュアをいじる姿を切り取っています。
スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが“万年青年”と表現する庵野秀明の一面を感じることができる部分でした。
追求し続ける庵野の姿と周囲の反応
面白さを追求し、作品至上主義で、作品と命を天秤にかければ作品の方が思いという庵野秀明は、一つの正解を出すため、多くの“正解ではないもの”を生み出していきます。
その“正解でないもの”達は一つ一つが周囲のスタッフによって時間をかけ精巧に作られたものばかりです。しかし、それがまるまる“正解ではない”という庵野の判断によって削り落とされていきます。
当然周囲のスタッフは疲弊し、困惑します。庵野自身もそのことを把握していて取材班に「自分の差配によって困っている人たちの姿を切り取った方が面白い」と言い切ります。
周囲のスタッフの困惑は“エヴァンゲリオンあるある”という自嘲めいた表現で語られていきます。この困惑の言葉と疲弊する姿が「さようなら全てのエヴァンゲリオン」ではさらに分量が増していて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が無事完成し、2021年3月8日にすでに劇場公開されていることがわかっていながらも「この映画は完成しないのではないか?」と感じてしまうほどでした。
新型コロナウィルスの感染拡大の影響についても今回の「さようなら全てのエヴァンゲリオン」では大きく取り扱っています。コロナ禍での公開延期を決める一方で、庵野のこだわり、修正はさらに分量を増していきます。
しかし、最後の完成締め切り直前になると、それまで庵野に振り回されてきた感のあるスタッフたちが各々の納得いくまでリテイクを重ね、逆に庵野を待たせるという現象が起きてしまう様子も記録され、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は庵野秀明の映画ではあるものの、彼一人のモノではないと言うことを垣間見ることができます。
「さようなら全てのエヴァンゲリオン」では声優陣とのやり取りの分量も多くなっていて、そこでは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に対して、素直にかつ客観的に語る庵野秀明の姿を見ることができます。物語のキーパーソンである碇ゲンドウの声優・立木文彦には「最終パートのゲンドウが一番のテーマでピーク」「ゲンドウは寂しい男だった」とリラックスした様子で本音を吐露するシーンは印象的でした。人気キャラクターの式波・アスカ・ラングレーを演じた宮村優子には「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は“ああよかったね”という話だから」と語っている姿も記憶に残ります。
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