映画『うみべの女の子』が「中学生同士の性描写」に説得力を持たせられた理由
2021年8月20日より、浅野いにおの同名マンガを原作とした映画『うみべの女の子』が公開される。
原作は中学生同士の性描写が満載という点で、センセーショナルな内容だった。だが、その過激さはもとより、「傷つけ合う少年少女たち」の関係性が、その「精神的な幼さ」も含めリアルに綴られていることが、真に重要な作品(原作)だったのだと、今回の映画を観て思い知らされた。
本作で誰もが褒め讃えるのは、石川瑠華と青木柚という若手実力派役者の熱演なのではないか。2人の佇まいそのものは、正直に言って実年齢相応の大人に見えるシーンもある。だが、「演技が中学生」そのものだった。石川瑠華は思春期特有の不安定な心の内を辛そうな表情から、青木柚は独善的で自分勝手な言動の幼さを体現していた。もちろん性的なシーンでも同様であり、それをもって「中学生同士の性描写」に説得力を持たせられたことがすごい。他キャストでは、『キネマの神様』にも出演中の前田旺志郎が、主人公2人とは異なる価値観を持つ良い役を観られて嬉しかった。
また、設定だけ見ればポルノ的にも捉えかねないだろうが、ドラマの魅力を存分に推し出しているので、そこを批判する方は少ないだろう。海辺の街の閉鎖的な場所に暮らす、14歳という多感な年齢の少年少女が、言葉を重ねて分かり合う前に、性行為に及んでしまうということそのものが痛々しい。もちろん全ての人に当てはまる物語ではないが、「自分もあの頃に、似たような焦燥感や絶望を感じていたのかもしれない」と、つぶさに思える内容にもなっていた。
何より、恋愛とは好き合うだけの楽しいものではない。嫉妬の感情や苛立ちがお互いに募ることもままあるし、精神的に未熟な14歳の年齢ではそれは「世界の全て」のように強烈に襲ってくることもあるのではないか。そのことに、大人になってから気づけるし、「あの頃の辛かった自分」を抱きしめてあげられるような優しさを感じることもできた。
ウエダアツシ監督はこうも語っている。「単なる思春期の未熟な恋愛ではない」「恋愛は年齢を重ねたからと言って成長をするものでもない気がする」「主人公2人の恋愛で揺れ動いたり傷ついたりする心の動きは、むしろ大人こそ共感できるものがあるのではないか」と。確かに、劇中の恋愛から巻き起こる辛い出来事は、確かに大人になっても通じるもの、それが14歳の少年少女だからこそ際立って残酷かつ痛々しく感じられる、ということなのかもしれない。
『おそいひと』(07)や『空気人形』(09)でも楽曲を担当していたworld's end girlfriendの劇伴も、その美しい旋律とのギャップをもって青春の痛みを切り取っていた。原作にも明記されていたはっぴいえんどの楽曲『風をあつめて』も鮮烈な印象を残す。原作そのままのロケ地、何より「再現度」も完璧と言える出来栄えだったのではないか。浅野いにおのファンはもちろん、『リリイ・シュシュのすべて』(01)のような残酷な青春物語を体験したい方にも、この映画『うみべの女の子』をおすすめしたい。
(文:ヒナタカ)
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(C)2021『うみべの女の子』製作委員会