【映画VS原作】『マスカレード・ナイト』“厚み”の原作&“スピード”の映画
【映画VS原作】『マスカレード・ナイト』“厚み”の原作&“スピード”の映画
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※今回は映画『マスカレード・ホテル』『マスカレード・ナイト』とその原作について触れますが、真相に当たる部分のネタバレは一切ありません。安心してご覧ください。
映画『マスカレード・ホテル』は素晴らしい出来栄えだったと思っています。あの作品を仕上げた方々が手掛けられるということなら、「マスカレード・ナイト」の映画化をお任せするにあたり、何ら心配する必要はないでしょう。挑戦的な脚色も大歓迎です。木村さんの新田浩介、長澤さんの山岸尚美に再び会えると思うと今からわくわくします。華やかでスリルあふれるエンターテイメントになることを期待しております。
これは映画『マスカレード・ナイト』の原作者・東野圭吾のコメントです。
2019年の前作「マスカレード・ホテル」の映画化にどれだけ満足していたかが伝わります。
映画『マスカレード・ホテル』(19)は原作者だけではなく、一般の観客も大いに満足したようで、興行収入46.6億円というビッグヒットを記録しています。
それから2年、再びホテル・コルテシア東京を舞台に壮大な謎ときエンターテイメントがスクリーンに帰ってきます。
前作『マスカレード・ホテル』とは?
都内で連続殺人事件が発生、現場に残された不可解な数字の羅列から予告殺人であるとして捜査が進みます。警視庁捜査一課の新田浩介(木村拓哉)は新たな数字が指し示した場所・ホテル・コルテシア東京が新たな殺人の舞台になると考え潜入捜査を決断。
実際にフロントクラークとしてホテルマンの業務をこなしながら犯人を追うことに。
浩介の教育係になったのはコルテシア東京の優秀なフロントクラークの山岸尚美(長澤まさみ)。
次々と現れる素性の知れない宿泊客を前に刑事として“犯人逮捕”を真っ先に優先する浩介と、“お客様の安全”を第一とする尚美は、価値観の違いから、ことあるごとにぶつかり合っていく…。
“誰もが仮面を被っている”というホテルの利用客の中に殺人犯はいるのか?仮面をはがそうとする浩介と仮面を守ろうとする尚美がたどり着く真相とは…?
『ガリレオ』『新参者』に続く映像シリーズ化
原作者の東野圭吾の作品は映像化が多いことで知られていて、映画に限って言っても国内で20本以上の映画があり、海外でも複数の作品が映画化されています。
これについては、東野圭吾の小説自体がアジア圏でも非常に人気があることも大きな要因と言えるでしょう。
今年『マスカレード・ナイト』が公開されますが、来年も福山雅治×柴咲コウのコンビが復活する「ガリレオ」シリーズの『沈黙のパレード』が映画化される予定です。
現在まで3冊の小説が発表されている「マスカレード」シリーズですが、主人公の新田浩介は木村拓哉をイメージしていたとも言われ、原作の段階から映像化を念頭に置いていたようです。
『マスカレード・ホテル』そして、今回の『マスカレード・ナイト』、どちらも監督は鈴木雅之。「HERO」シリーズを手掛け、木村拓哉とも相性の良いベテラン監督が絶妙な手腕を見せています。
『マスカレード・ナイト』には何が起きるのか?
練馬のマンションで女性の他殺死体が発見される。
きっかけは匿名情報ダイアルへのFAX。
続けて、この事件の犯人が大晦日のホテル・コルテシア東京のカウントダウンパーティー会場で新たな殺人を犯すという内容のFAXが届く。
警視庁捜査一課は、再び新田浩介をホテルマンとしてコルテシア東京に潜入させることを決める。
浩介がコルテシアに到着したのは大晦日の午後、尚美との再会を喜ぶ時間もなく、潜入捜査を開始することに。
しかし、大晦日のコルテシア東京のカウントダウンパーティーは参加者全員が仮装する仮面舞踏会だった…。
“皆仮面を被っている”というホテルの利用客が、さらにリアルに仮面を被っているという中で、予告された時間が迫る…。
容疑者はパーティー参加者の約500名。犯人の正体は?その目的は何なのか?
厚みを持たせた原作「マスカレード・ナイト」/ スピード感を与えた映画『マスカレード・ナイト』
原作者の東野圭吾が“大胆な脚色”と評した映画版の『マスカレード・ナイト』。
原作では12月26日から翌年の元日まで約1週間の物語になっていますが、映画はこれをぎゅっと濃縮してなんと大晦日の24時間の物語に脚色。
厳密にいうと大晦日の午後からメインの物語が始まるので、劇中の時間はさらに限られています。
このことで、否が応でも緊張感が高まり、タイムリミットサスペンスとしての要素が強まります。
前作の映画(と小説)の『マスカレード・ホテル』の裏テーマはカルチャーギャップを楽しむことだったと思います。
「人を疑って見る刑事」と「人を信用し続けるホテルマン」という、水と油ともいうべき正反対の職業にいる刑事・新田浩介とホテルマン・山岸尚美の価値観の違いからくる衝突と、それを乗り越えて真犯人逮捕につながっていくというカタルシスが『マスカレード・ホテル』の面白さでした。
例えばジャッキー・チェン(アジア人)とクリス・タッカー(黒人)の刑事が凸凹コンビを組み、衝突を繰り返しながらきずなを深めていく『ラッシュアワー』(98~)シリーズ。
ほかにも、ブロードウェイミュージカルのクラシックタイトルとしても知られる『王様と私』(56)、コメディ映画の『クロコダイル・ダンディー』(86)やハリウッドリメイクもされた『最強のふたり』(12)、日本でも『テルマエ・ロマエ』(12)などなど、本来なら交じり合わない文化・考え方の人たちが思わぬ形で巡り逢い、そこで生まれる軋轢と、相互理解を描いた物語は枚挙にいとまがありません。
『マスカレード・ホテル』もまた、そんな違った文化圏の人々の出逢いの物語で、そこで生まれる違いを楽しむ物語でした。
しかし、『マスカレード・ナイト』では新田浩介と山岸尚美は互いの立ち位置や考え方を理解しあっている状況にあります。
互いに「またですか・・・!?」とは言いつつも、遠慮なく思いをぶつけあえる関係性になっています。
時には尚美が同僚から「あなたは刑事ですか?」と言われてしまうほどです。
そこで『マスカレード・ナイト』の映画化にあたって、原作にあった時間の厚みを捨てて大晦日の1日の出来事に脚色することで、カルチャーギャップを楽しむ物語から、タイムリミットサスペンスにシフトチェンジしました。
結果として、タイムリミットサスペンスの脚色は大成功と言えるでしょう。
シリーズ通じて登場する無理難題をぶつけてくる利用客のエピソードの部分が少し駆け足になっている感もなくはないのですが、サスペンスという映画『マスカレード・ナイト』に求められている最大の要素を大きく補強していていると言えます。
前作の映画(と原作)『マスカレード・ホテル』と同じ舞台設定ということで、映画『マスカレード・ナイト』に同じテイストを予想するといい意味で裏切ってくれます。
(文:村松健太郎)
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