『神在月のこども』柴咲コウと井浦新の両親役にも注目の「自分と向き合う」ロードムービーになった理由
3:日本の文化、特に出雲へのリスペクトがある
本作のコミュニケーション監督を務める四戸俊成は、「この島根・出雲の原風景や文化を世界に届けたい」「“島国の根” と書く”島根”の原風景や伝承、そこに宿る“ご縁”という価値観に触れていただけるよう、その魅力をアニメによって表現する」と熱意を持って企画を始めたと語っている。劇中では日本の文化、特に出雲という土地へのリスペクトが大いにみてとれる。例えば、10月の別名である神無月が出雲では(全国から神様が集まってくることから)「神在月」と呼ばれていることや、旅の仲間のウサギが歴史書「古事記」の物語の1つ「因幡の白兎」が元ネタであることなどだ。また、公式サイトの「製作追体験」のページが充実しており、こちらを合わせて読むとより志の高い作品であることがわかるだろう。
4:豪華なボイスキャストの熱演と、作品の精神性をすくいあげた主題歌
本作の目玉は冒頭に掲げた通り豪華なボイスキャストにもある。連続テレビ小説『おかえりモネ』で主人公の妹役を演じた他、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)や2022年1月28日に公開予定の『Pure Japanese』などの映画でも活躍が目覚ましい蒔田彩珠が、今回は素直なようで内心では葛藤を抱えている少女を好演している。序盤は正直に言って他の声優陣とのギャップも感じたのだが、演技力でもって徐々に「ハマっていく」魅力があった。幼少期の同役を演じた新津ちせも流石の上手さだ。さらに、主人公の父親を演じるのは井浦新。同じく蒔田彩珠も出演している『朝が来る』(20)や、アニメ映画『ウルフウォーカー』(20)でも「父親らしさ」を声質と演技をもって体現していたが、今回は「優しさ」方向に振り切った良きパパを好演していた。
柴咲コウはディズニーの実写映画『クルエラ』(21)の吹き替えで「我が道をゆく」女性を演じていたが、今回は明るく元気な雰囲気の(今は亡き)お母さんにもバッチリとハマっていたし、物語の後半での「変化」の演技も見事だった。
さらに、大人気声優である入野自由が『千と千尋の神隠し』(01)のハクとは好対照の「親分肌をきかせる乱暴者だけど優しい」憎めないキャラとなり、演技の幅がとても広い坂本真綾がかわいいウサギのキャラクターとして大活躍してくれるの嬉しい。ベテラン声優の高木渉、茶風林、神谷明の「おいしい」役どころにも注目だ。
そして、miwaの主題歌「神無-KANNA-」は、miwa自らが台本を読み、主人公の気持ちに寄り添えるようにとの想いを込めて描き下ろした楽曲だ。走ることがいちばん大好きだった“はず”の心のままに歌ったかのような、作品の精神性を見事にすくいあげたこの楽曲を、映画本編の後に、歌詞を噛み締めるように聴き入って欲しい。
映画本編は、メインの物語そのものは丁寧につくられている一方、正直に言って必要な展開が欠けていてるように感じたり、やや強引に思えてしまう場面もあった。劇場で観るアニメ映画としては、もう少し躍動感があるシーンもほしいとも願ってしまう。
だが、それ以外は『神在月のこども』はスタッフとキャストが真摯に作品に向き合っている、素晴らしいアニメ映画だと敬服する。前述したようにタイトルの神在月は出雲における10月の別名でもあるため、それとぴったりの時期に公開してくれるのも実に嬉しい。
エモーショナルなクライマックスの展開と、これまでの出来事が集積された見事なラストに、きっと涙を流す大人も多いはず。ぜひ、観る人を選ばない、楽しくて元気がもらえるアニメ映画を期待して、劇場へ足を運んでほしい。
(文:ヒナタカ)
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(C)2021 映画「神在月のこども」製作御縁会