映画『愛のまなざしを』仲村トオル×斎藤工が考察する万田演出の“不自然さ”「痺れが残るような後味の強い映画」
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11月12日に映画『愛のまなざしを』が公開を迎えた。亡き妻の幻影に苦しむ精神科医・貴志(仲村トオル)が、患者との間に芽生えた新しい愛に翻弄され、自我を見失っていく危うさが描かれる本作。姉をめぐる確執から貴志への恨みを拭い去れないでいる、貴志の義理の弟・茂を斎藤工が演じる。
舞台挨拶直後の仲村トオルと斎藤工に、万田邦敏監督の特徴的な演出や観客の反応を通して感じたことなどを語ってもらった。
不自然さを突き詰めてこそ、自由さやリアルな感情が生まれる
——本作のメガホンを取った万田監督の演出方法は、役者の感情に焦点を当てるのではなく、顔の角度や手足の動きなど身体的なアプローチに終始すると聞きました。仲村さんは万田監督作品への出演が4作目ですが、万田監督の演出方法にはどんな意味合いがあると感じますか?仲村トオル(以下、仲村):万田監督とは、2001年公開の『UNloved』で初めてご一緒しました。最初にお会いした日に本読みをしたんですが、万田監督の書かれたセリフに相当な違和感を持ったんです。役者として、なるべくその違和感や不自然さを感じさせないように心がけつつ読んだ結果、万田監督には「仲村さんの読み方が、私の理想とする読み方から一番遠い」と言われてしまいました。そして「不自然なセリフを不自然なまま口にすることで、不自然さを克服してほしい」と。
斎藤工(以下、斎藤):なるほど……。すごい言葉ですね、それは。
仲村:「なんとなくわかるような気がするけど、でも、わからないぞ!?」と戸惑いましたね。違和感のあるセリフ、細部まで作り込んだ動きには、どうしても不自然さを感じてしまう。けれど、万田監督の演出を受けながら「不自然さを突き詰めてこそリアルな感情が生まれるのかもしれない」と思うようになりました。
体の動きに対する演出も「3歩進んで止まってください」「左側から振り返ってください」「少し顎を引きすぎです」といった伝え方で、それは当時からあまり変わりません。野球で例えるなら、万田監督のストライクゾーンはボール1個分くらいに狭いのかもしれない。『愛のまなざしを』では、そのゾーンが少しだけ広がったように感じましたが。
おそらく万田監督は、あえて演技の方向性や感情については役者に伝えずに、体の動きに集中して演出することで、観客の皆さんに伝わる”感情の絶対量”を増やそうとされてるんだと思います。
斎藤:確かに仲村さんがおっしゃるように、あえて体の動きを固定することによって、その中に生まれる自由を、観客の皆さんに見つけてもらおうとしているのかもしれませんね。
仲村:万田監督の演出方法が身体的アプローチに集中しているのは、きっと、監督が自ら感情について語ってしまうと、役者はそれしか伝えようとしなくなってしまうからじゃないでしょうか。もちろん受け取る役者によって異なると思いますが、少なくとも僕はそのように想像しています。情報量が限られるというか、監督が10と言ったら役者はその方向で7しか伝えようとしなくなるというか。
たとえば、こちらから「青+赤」だと指定してしまったら、結果は紫という感情にしかならない。でも、あえて感情の色を定めないことによって、カラフルにもモノトーンにも見える世界を目指しているんじゃないかな、と。
——斎藤さんは、万田監督の演出を受けてどのような感想を持たれましたか?
斎藤:普段から親しくさせてもらっている小曽根真さんというジャズピアニストを思い出しました。世界的なジャズピアニストでありながら、国立音大でクラシックを教えている方です。クラシックには、寸分狂わぬピッチで、あの瞬間の弾き方をそのまま再現することを美とする考え方があるんです。小曽根さんは、そんなクラシックの考え方と相反する、ジャズのエチュード的な側面も合わせた、両方の表現を突き詰める境地にいる方だと感じていて。クラシックとジャズ、対極にあるもの同士の交点を探す戦いをされているように見えるんです。
万田監督の演出には、それに近いものを感じました。一般的な道とは逆へ向かっているように感じるのに、その方向は間違ってないと思える、不思議な体験をしましたね。
一本の糸がつながるように、この物語が目指す着地点を共有できた
——お二人が演じた貴志と茂は対立関係にあり、殺伐とした共演シーンが多かったのではないかと思います。印象的なシーンについて教えてください。仲村:斎藤くんのクランクインは、ラストシーンの撮影からだったんですよね。「この作品が目指す着地点を踏まえたうえで、物語を逆算するように撮影に臨めた」と言っていて、なるほどと思いました。
それを聞いて僕自身も、中盤ではすさまじいことが起こる映画なのに、こういう穏やかな終わりに向かっていくんだな、と感じたことを思い出したんです。
斎藤:貴志と茂が、とある場所で静かに語り合うシーンですね。貴志によりそう茂の構図を切り取った後に前段を撮っていきました。最後から中盤へと向かう撮影順だったからこそ、対立関係にある二人の間にも一本の糸が繋がっているように感じられました。
このラストシーンを通じて、貴志と茂にはどこか共通する部分があるのかな、とも思ったんです。だからこそ、必要以上に言葉でディスカッションする必要がなかったんですよね。
「咀嚼する時間が必要な、心地よい混乱が残る映画となった」
——舞台挨拶で、観客の反応をご覧になっていかがですか?仲村:映画をご覧になる前と後では、皆さんのオーラがまったく違いますね。
斎藤:僕もそう思います。
仲村:どこか、この映画を見て混乱していらっしゃるような印象を受けました。願わくば、それが「心地良い混乱」であったらいいな、と願うばかりです。
斎藤:観客の皆さんの表情を見ていたら、人生で初めて映画と出会った子供たちを思い出しました。2014年から始めた移動映画館「cinéma bird(シネマバード)」では、映画館のない地域での上映会を行っています。その活動のなかで何度も、初めての体験をした人たちが集まる異様な空間を体験していて。今回の舞台挨拶では、それを彷彿とさせる空気感を味わいました。
仲村:その話を聞いて思い出しました。自分の子供が初めて宮崎駿監督のジブリ作品を見たときも、実になんとも言えない表情をしていたんです。「目や耳から大量に情報が入ってくるけど、一体これは何だ?」って不可解に思うと同時に、心地良くもある体験をしていたんじゃないかな。
『愛のまなざしを』を見た皆さんの心の中でも、同じことが起こっていたのかもしれません。この映画を見て感じたことを言語化するには、ものすごく時間がかかると思います。ジワーッとした痺れが残るような後味の強い映画ということが、万田監督らしさが全面に出ている証拠になっている気もしますね。
斎藤:「いま見たものはなんだったんだろう?」っていう、咀嚼する時間が必要ですよね、きっと。それは僕自身もそうで、(まだ1回しか観ていないこともあり、)いまだに消化しきれていない面もありますから。それこそが上質な映画体験だと思っているので、より多くの方にこの世界観に浸ってほしいです。
——仲村さんは11月20日(土)に大阪での舞台挨拶(※)がありますし、また新鮮な客席の反応を感じられるのも楽しみですね。この度はありがとうございました。
※舞台挨拶詳細
■テアトル梅田(9:45の回上映後、12:15の回上映前)
登壇:仲村トオル、万田監督(予定)
■イオンシネマ シアタス心斎橋(12:30の回上映後、15:10の回上映前)
登壇 :仲村トオル(予定)
(<仲村トオル>スタイリスト:中川原 寛(CaNN)、ヘアメイク:宮本盛満、<斎藤工>スタイリスト:yoppy(juice)、ヘアメイク:くどうあき、撮影:冨永智子、取材・文:北村有)
<衣装クレジット(斎藤):ジャケット、シャツ、パンツ/ 共にBlanc YM(ブラン ワイエム)
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