<新作レビュー>『彼女が好きなものは』、ゲイとBL好きの恋愛から見え隠れする「真摯なメッセージ 」
<新作レビュー>『彼女が好きなものは』、ゲイとBL好きの恋愛から見え隠れする「真摯なメッセージ 」
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
浅原ナオトの小説「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」は、2019年にNHK「腐女子、うっかりゲイに告る」としてドラマ化されています。
今回は121分の劇場用映画で、またもタイトルが原作と異なるものの、最後の最後まで見終えると、これがふさわしいものであったことが肌感覚で納得できてしまう秀作に仕上がっています。
同性愛者であることを隠す少年(神尾楓珠)と、彼を好きになってしまったBL愛好家の少女(山田杏奈)の交際から見え隠れしていくものは、決して下世話なものではありません。
逆に、未だに下世話な感覚でしかこの事象を捉えようとしない者たちに向けてのメッセージが、心にぐさりと刺さります。
一方で、現在は同性愛に対する偏見など、かなり薄れてきている感もなきにしもあらず。
ただし、実際のところそういうことを訴えている人々も本当はどこかしら「他人事」であるといった、これまた痛いところを巧みに追求していきます。
結論めいたことをお仕着せで描くのではなく、最終的には見る側の感性に委ねる方法論を貫きつつ、その上で作り手の想いを真摯に感じさせてくれるのは、この問題に対してストレートにぶつかっていこうとする草野翔吾監督の姿勢が、キャメラ・アイとして見事に具現化されているからでしょう。
その伝でも今回は高校生を演じるキャスト陣が総じて輝いているのですが、中でも素晴らしいのは山田杏奈!
先ごろ公開されたばかりの『ひらいて』に続く好演というか、もはや彼女なしにこの映画はありえないといっても過言ではないほどの存在感を示してくれています。
とにもかくにもひとつひとつの何げない仕草や台詞回しなど、全てにおいて自然体なのは奇跡的ですらあり、クライマックスに至っては大半の観客をぼうだの涙で包み込むこと必至!
普通であることとは一体何なのか?を改めて考えさせてくれるとともに、2021年は山田杏奈の年でもあったことまでも大いに納得させてくれるトドメの作品として、彼女のファンならずとも強くプッシュしておきたいと思います。
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(文:増當竜也)
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