映画コラム

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2022年03月01日

『ニュー・シネマ・パラダイス』は歳を重ねるたびに楽しみ方が変わる作品だった

『ニュー・シネマ・パラダイス』は歳を重ねるたびに楽しみ方が変わる作品だった


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1989年に日本で公開され、第62回アカデミー賞外国語映画賞や第47回ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞など、多数の賞を獲得した『ニュー・シネマ・パラダイス』。

地上波で度々放送されていることから、公開時にまだ生まれていなかった若者世代も観たことがある人は多いのではないだろうか。

ちなみに筆者は公開時にまだ生まれておらず、大学生になってから父に勧められてこの作品を鑑賞した。

先日、久しぶりに父と本作品を鑑賞して感想を語り合ったところ、20代半ばの筆者と50代半ばの父で「心が動いた場面」が異なった。当たり前かもしれないが、観る人の経験によって映画の視点も変わる。

両者の視点の違いが面白かったため、本記事ではそれぞれどこのポイントで心が動いたのかを紹介していきたい。

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心が動いたポイント1:映画を愛する人々の熱量

筆者が『ニュー・シネマ・パラダイス』の中で心を動かされたポイントのひとつは「映画を愛する人々の熱量」である。

本作品の前半は、映写技師・アルフレードと、アルフレードに憧れて映写技師を目指した少年・トトの交流が描かれている。

第二次世界大戦後、イタリア・シチリアの小さな村の唯一の娯楽は「パラダイス座」という映画館だった。子どもから大人まで、座席が満席になるほど多くの人が「パラダイス座」に足を運び、同じ映画を観る。同じ場面で笑ったり、泣いたりしている観客の様子は、観ていてとても微笑ましい。

村の人々にとって「パラダイス座」は、職場や学校、自宅以外のサードプレイスだったと言えるだろう。

そんな「パラダイス座」を守っていたのが、アルフレードとトトだ。毎日フィルムで映画を上映し、映写室の小窓から観客の笑う姿や泣く姿を覗いている。映画を通して人々の人生に彩りを与える仕事は、なんて素敵なのだろう。

アルフレードは映写技師の仕事を「つらい仕事だ。いつも独りぼっちだ」とトトに話していたが「お客が楽しんでると自分も楽しくなる」と続けていた。トトが映写技師になりたいとアルフレードにお願いしたのは、アルフレード自身が楽しそうに仕事を行っていたからだと思う。

「映画を愛する人々の熱量」が一番顕著に現れていた場面は、満席で映画館から締め出されて騒ぐ観客たちのために、アルフレードやトトが映写機の光を利用して野外で映画を上映した場面だ。

大の大人が必死になって叫び、映画を求めていた様子はなんだか愛おしかった。彼らをなだめるために、映写機の光を野外の壁までずらし、そこで上映しようと思いついたアルフレードの発想も素敵だ。映画が始まると観客は静まり、みんなで映画を楽しんでいた。

映画には、人の心を動かし、人をひとつにする力がある。『ニュー・シネマ・パラダイス』を観ると、映画館という空間でみんなで一つの作品を観ることの大切さや尊さを改めて感じるのだ。

心が動いたポイント2:『キスシーンを集めたフィルム』

トトやアルフレードが暮らした村は、キリスト教徒の村だ。「パラダイス座」は教会の管理下にあったため、映画を人々に観せる前に神父の検閲を受けなければならない。

神父はキリスト教の禁欲主義を徹底するため、検閲時にキスシーンなどの描写を全てカットするよう求めた。アルフレードは神父の指示に従い、キスシーンのフィルムを切っていくのだった。

筆者の心が動かされたもうひとつのポイントは「このフィルムの行方」だ。

勝手に映写室に忍び込んだトトは、切り離された大量のフィルムを欲しがる。最初は無視していたアルフレードも、あまりのしつこさに「これは全部お前にやる。だが私が保管する」とトトに伝えた。

アルフレードが亡くなったと聞き、30年ぶりに故郷に帰ってきたトトは、アルフレードの妻からアルフレードの形見を渡される。

それは、幼い頃にアルフレードから譲ってもらうと約束したキスシーンのフィルムだった。

幼い頃に交わした約束を覚えていたこと、いつか(といっても、自分が亡くなった後に)戻ってくるトトのためにフィルムを繋ぎ合わせ、妻に預けていたことに、トトに対するアルフレードの大きな愛情を感じた。誰よりもトトの成長を願い、トトを信じていたのだ。

また、そのフィルムが愛の象徴である「キスシーン」だということにも心がジーンとくる。当時の人々が観たくても観せてもらえなかったカットがそこに全て詰まっているためだ。

大人になったトトは、1人の女性を愛せず、一緒に過ごす相手をころころ変えていた。アルフレードがトトに渡したフィルムは「心から愛する人を見つけなさい」というメッセージだと捉えるのは、筆者の勝手な思い込みだろうか。

キスシーンのフィルムを視聴する場面は、トトに対するアルフレードの愛や、切り取られたフィルムの作品に出てくるたくさんの人たちの愛で溢れていて、涙が止まらなくなる。

心が動いたポイント3:『トトと故郷の繋がり』

ここからは、50代半ばの筆者の父が『ニュー・シネマ・パラダイス』の中で心を動かされたポイントを紹介していく。まず父は「トトと故郷の繋がり」に胸を打たれたと言っていた。

幼い頃から映写技師としてアルフレードの下で働いていたトト。アルフレードが火事の影響で盲目になってしまってからは、1人で映写技師の仕事を担うようになる。

青年になっても文句を言わずに「パラダイス座」で働き続けたトトに、アルフレードはこのままではトトの未来の可能性が潰されると、危機感を覚えたのかもしれない。

「村を出ろ」「ここにいると自分が世界の中心だと感じる」「一度村を出たら、長い年月帰るな」と言う。

大切に面倒を見てきたトトを、彼の未来のために村から追い出したアルフレードの姿勢に、感銘を受けたのだそう。アルフレードの言葉があったから、彼はローマで映画監督として成功することができたのだ。

また、この約束を守り、アルフレードが亡くなるまで一度も故郷に戻らなかったトトを、村の人々が温かく迎え入れた様子にまた感動したという。

「こんにちは」と挨拶したり、目配せをしたり。青年は中年になり、中年は老年になっても、関係は変わらない。

変わったのは、トトの社会的地位である。村の人々は映画監督として活躍するトトに敬意を払っていた。だがトトは成功を収めても、年上の人を尊重する気持ちを忘れていなかった。この、トトと村の人々がお互いを敬っていた関係がよかった、と言っていた。

心が動いたポイント4:『「パラダイス座」が壊される場面』

もうひとつ、父は「パラダイス座」が壊される場面にも心が動かされたらしい。

娯楽の選択肢が映画館しかなかった第二次世界大戦後から30年の時が経ち、テレビやラジオなどさまざまなエンターテイメントが誕生していく。アルフレードが亡くなった数日後、かつてみんなが大好きだった「パラダイス座」は取り壊されてしまうのだった。

取り壊される日になると、みんなが「パラダイス座」の前に集まり様子を見守っていた。こんなに愛されていた場所が消えてしまうことが、観ていて切なかったのだそう。

そして父は、自分の母が亡くなったタイミングで売ることになった実家の存在を思い出したらしい。

父の母(筆者の祖母)は、祖父が亡くなってからは3階建ての家で1人で暮らしていた。祖母が亡くなると家を管理する人がいなくなったため、売ることになったのだ。

結婚するまでの30年間過ごした家を、父は気に入っていたのだろう。祖母が生きていた頃は月に1度のタイミングで実家に帰っていた。

実家がなくなることは、故郷に帰る意味を失うと言っても過言ではない。父は「心の支えを失った」と言っていた。筆者はまだ実家を失った経験がない。このとき父がどんな気持ちでいたかは想像することしかできない。

きっと、しばらくの間喪失感に苛まれたはずだ。「もうあの場所へは、行けないな」とつぶやいていたのが、いまでもずっと心に残っている。

父はこうした自分の経験から「パラダイス座」という大切な場所を失ったトトの気持ちに共感し、心が動いたのだと思う。

経験によって視点が変わる『ニュー・シネマ・パラダイス』

20代の筆者と、50代の父はそれぞれ心が動いた場面が異なった。

父いわく、若い頃は筆者と同じくラストのキスシーンを集めたフィルムの場面に一番感動したらしい。観る人の経験によって視点や解釈が変わってくるのだと思う。父と話していて、自分も30年後にもう一度観たいと思った。

そしてもうひとつ。心が動いたポイント①でも書いたが『ニュー・シネマ・パラダイス』は、映画を愛する人々の想いが強い。

いまの世の中はお金を出さなくても楽しめる娯楽がたくさんあるため、昔と比べると映画を観る人口が減ってしまっている。

新しい文化が生まれているという意味では素晴らしいことかもしれない。だが『ニュー・シネマ・パラダイス』を観て、やはり映画という文化は廃れてはならないと感じたし、映画館という場所もなくならないでほしいと強く願うようになった。

同じ空間で同じ作品を観て、一緒に笑ったり泣いたりする文化が消えないよう、これからも映画は映画館で楽しんでいきたい。

(文:きどみ)

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