映画コラム

REGULAR

2022年04月23日

『ZAPPA』ギターはマシンガンより軽く、音楽は銃弾よりも速く我々を貫く

『ZAPPA』ギターはマシンガンより軽く、音楽は銃弾よりも速く我々を貫く


フランク・ザッパに対する誤解について



熱心なファン以外にとってザッパのイメージは、音楽好きであってもおおよそ変人・奇人・奇才といったものが多いはずだ。だが、本作が捉えるザッパはその印象を360度回転させてみせる

「なぜ180度ではないのか。360度ならば1周回って同じじゃないか」と脳内で合成された読者が突っ込んでくるが、誤解であるのでちょっと待って欲しい。今までザッパに抱いていた誤解が解けたと言っても「ああ、やっぱりこの変人だわ」と思わせる勢いがあるので、誤解巡りの旅を終えて丁度1周戻ってくる、というのが最適な説明だと感じたからだ。

通常「変人」ときくと話が通じなさそうであるが、本ドキュメンタリーを観るとザッパは驚くほど冷静で、知的で、およそ変人的なエピソードが語られることはない。(と書いたが、もちろん少しはある。それもすっごいのが)



コアなザッパファンであれば「今さら再評価かよ」となるかもしれないが、多くの人の誤解を解くには良い機会であろう。

とか言っている筆者も、以前「ザッパが日本に来た時、内田裕也と一緒に吉原で無茶苦茶やっていた」とインタビューで読んだ記憶があったので「ああ、ザッパってやりそうだなそいうこと」と思いながら偉人・変人の棚に入れて今まで過ごしていた。

だが、本記事を書くために引っ張り出したミュージック・マガジン(76年4月号)を読み直してみると、インタビューではなく記者会見で、不躾な質問に対してもザッパは驚くほど知的に、ユーモアをもって答えている。ちなみに訳は中村とうようで、内田裕也は横からいきなり登場する。

ザッパは「ヒゲの手入れ方法は?」との質問に

「そう難しいことではない。このひげの生育にいちばん効くのは天然体液だ。日本に来る前オーストラリアで僕はボディ・ジュースをたっぷりひげにかけてやったので、あやうく顔じゅうひげだらけになるところだった。昨夜もまた同じ騒動になりかけたが、アメリカの科学者がそのような質問の解決のために特に発明した器具で、今朝剃ってきた。それは、レザーと言い、2枚の刃を持つ器具で、顔にくっついているものならすべてきれいに落とすことができる。今もそれを使ってきたばかりだ。以上の説明がみなさんのお役に立っただろうことを期待します。」

と答える。なんという甘美なユーモア。筆者はこの記事を読んだにも関わらず、ザッパを変人扱いし、誤解し続けていた。記憶は改ざんされるものだからして仕方がないが、それほどザッパの変人・狂人イメージは強烈なのだ。

だが再び、本ドキュメンタリーはザッパの味方を360度変え、誤解を解く力を持っている。チェコのエピソードもヒキが強いが、本作の白眉は彼が言葉と音楽のみを武器に闘争を続けたことを描いている点である。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.

RANKING

SPONSORD

PICK UP!