<BiSHオムニバス映画>リンリン×山田健人:パフォーマンスと音楽に惹きこまれる
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2023年に解散することを発表した、“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。
そんな彼女たち初のオムニバス映画が、2022年6月10日(金)に公開される。6人のメンバーそれぞれが6人の監督とタッグを組み、魂を込め全力で主演を演じたという本作は、ドラマ作品からアート作品まで多彩なラインナップ。
本記事ではその中から、リンリンが山田健人監督とタッグを組んだ『VOMiT』のレビューをお届けする。
山田健人監督は本作品の主題歌である「I have no idea.」のMVも手掛けている。BiSHのMVを多く手掛けてきたほか、ライブの演出も何度も務めている。またリンリンが所属するWACKの新ユニット iNNOCENT ASSの「EVERYONE is GOOD and BAD」MVも監督した。
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『VOMiT』レビュー
「彼女はとてもとても特別 彼女はいつも助けを待っている」「時に光は闇よりも盲目で 追いつくことはもう出来ない」
本作は冒頭に出てくるこの字幕と途中で出てくるバスの停留所案内以外、セリフやテキストは一切出てこない。
リンリン演じる酔っぱらって千鳥足で歩く女性を主人公にしたショートトリップムービーであり、壮大なMVもしくはダンスビデオという見方もできる作品だ。
音楽と映像、そしてリンリンの演技とパフォーマンスに圧倒される。
リンリンと山田監督がどんな思いを込めたのかももちろん知りたいが、何を感じても考えてもいいし、もしくは何も考えずただ押し寄せてくるものに身をまかせてもいい、ある意味受け取り手にゆだねられた作品だと思った。
この記事ではあくまで筆者の感想をお伝えするが、それぞれがどう感じるのか、映画館で確かめてほしい。
リンリン、そしてBiSHをずっと好きな人だからこそ、感じられることもあるのではないかと思う。
■惹きこまれてしまう、シュールな展開
夜の道端に座りこみ、瓶ごと酒をあおる女性。歩き出すが、足取りはかなりよたよたしていておぼつかない。揺れるようにひびく低音によって、主人公とともに夜(もしくはこの物語)に落ちていくような感覚を覚える。
惹かれてしまうけど、不安になるような音楽だ。バスに乗り込むと後から“大型犬を連れたボーダー衣装の女性”が大量に乗り込んできてリンリン演じる主人公を囲み、突然踊り出す……という謎の展開にびっくりする。
主人公は明らかに困惑しているのに、なぜか一緒に踊ってしまう。意味は分からないけどかっこいい。
今度は別の場所にいて、頭に何かを投げつけられて血が出たと思ったら目の前に自分の3倍はありそうな黒い仮面の人物(化け物)、後ずさると後ろには白い羊の怪物のようなものがいて、子どもの頃見た怖い夢みたいでちょっと震える。
次の瞬間バスに戻っていて、ボーダーダンサーたちは消えていた。このあたりから、どこまでが現実でどこからが幻覚なのかわからなくなってくる。
バスを降り、建物の地下に降りていく主人公。人々は酒を飲んでいて、どうやらバーのようなところらしい。自分の意志でどんどん進んでいく主人公にこれまでとは違うものを感じるが、ダンスフロアのようなところでは6人の白いドラマ―と黒服のダンサーたちがいて、主人公はまた巻き込まれる。
後半は自分から踊るものの、強い意志でそこから逃げる主人公。倒れ込んで蹴られ、よたよたしながら階段をのぼっていく……。
朝になり、先ほどまでとは全く異なる人工物のない道を進んでいく主人公。相変わらずふらつきながら、牛の群れをかきわけ真っ直ぐ進む。一目散に進む様子に、子どもの頃読んだ絵本「こぶたがずんずん」を思い出した。
周りは明るいし、音楽は今まででいちばん穏やかになっているのに、なぜか悲壮感がただよっている。
冒頭の「時に光は闇よりも盲目で」という言葉を思い出す。背の高さほどの雪の壁の間を通り、最後は足場の悪い雪の中を進む。最後はついに倒れてしまい、雪を食べまくり苦しんで吐き出す。
気が付くとまた道端、主人公はどこまでも転がる酒瓶を追いかけていく。
■音楽の変化
(おそらく男性の)高めボーカルは同じなのだが、曲調がどんどん変わっていく。
冒頭のボーカルが立った部分の後は低音が揺れところどころ不協和音がまじる陰鬱なミディアムテンポ、ピアノのつなぎが入ってゲームの戦闘シーンで使われるようなドラマティックな曲調、ビートが効いた低音のリズムにハイハットのようなアクセントが絡んでくるダンスミュージック調、ラストは和やかでゆっくりな、これまでの中ではいちばん明るい曲調になる。
つながりを感じつつもどんどん変わっていく曲が、怖さや不安を掻き立てるけれど決して嫌じゃない、むしろ繰り返し聴きたくなる魅力がある。
これを観たい(聴きたい)がために映画を何度もリピートする人も多いのではないだろうか。
■主人公の行動の変化
冒頭女性はバスに座り、乗り込んできた集団の客に困惑しつつ一緒に踊る。何かを投げつけられ、謎の大きな生き物(怪物?)に挟まれる。
地下のバーでは自分で進んでいくものの、ダンスフロアのようなところでは前半ダンサーたちに圧倒されまた一緒に踊るが、自らその場を去る。
最後は1人であてもなく、それまでの人工物の中ではない、山道のようなところや雪の間を進んでいく。
巻き込まれながら動き、徐々に自分からの行動が増えていく様子がなんだか人生みたいだなと思ったし、迷いながらでも動いていくしかない、ということを感じた。
また最後1人で歩いていく様子に、来年BiSHが解散した後、それぞれの道をいくリンリンやほかのメンバーたちの姿を連想した。
タイトルの『VOMiT』の意味は……
タイトルの『VOMiT』の意味を調べると「吐瀉物」。ラストの展開まんまかーい! と思ってしまったし、なんでこのタイトルにしたのだろう? と思った。が、さまざまな思いを吐き出した結果のパフォーマンス、ストーリーなのかなと納得した。
「酔っぱらって普段抱えている不安が悪夢になってしまいました」というだけの話かもしれないが、陰鬱なんだけどずっと聴いていたくなる音楽、色数は少ないのに目に焼き付く映像とリンリンの表情、ダンスに魅了されてしまった。
観た人は、どんな感情を吐き出したくなるのか。実際に映画館で確かめてほしいし、筆者も大画面で再度観たいと思っている。
(文:ぐみ)
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