映画コラム
<全力解説>『ソニック・ザ・ムービー』がゲームの映画化作品として大成功した「5つ」の理由
<全力解説>『ソニック・ザ・ムービー』がゲームの映画化作品として大成功した「5つ」の理由
3:「孤独」を描いた物語
さらにクレバーだと思ったのは、ゲームでのクールなソニックの「らしさ」はそのままに、新たに「孤独」という悩みを持たせたことだ。例えば、彼はとても「おしゃべり」でもあり、「生きるのに必死な悲劇のハリネズミでも想像してた?」などと言いつつ、洞窟の中で「1人」で卓球やジム(洗濯機の中で走る)を楽しんでいた。だが、そのおしゃべりな様は、孤独や悲しみをごまかす、あるいは抵抗するための「せめてもの方法」に見えてくる。ソニックはいつでも明るく楽しそうにふるまっているが、それでも夜にひっそりと野球をしても、昼間に見た子どもたちのようなハイタッチをしてくれる相手はいなかったのだから。その特徴は、正体を明かせない宿命を背負いつつも過酷な戦いに挑み、そしておしゃべりなキャラとして描かれることも多いヒーローのスパイダーマンにも近いだろう。
このソニックの悩みは、『新世紀エヴァンゲリオン』でも言及されていた「ヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマ」のメタファーとも言えるかもしれない。それは「相手と仲良くなりたいけど、傷つくの恐れてためらってしまう」という心理。ソニックが孤独でいようとするのは、自分が特別な力を持っていて、育ての親のロングクローから「生き延びるためには身を隠すしかない」と言われていたことに起因するのだが、「自分や他の人のためにも孤独でいようとする」悲しい心理そのものは現実にあり得るものだろう。
そんな孤独なソニックが、大切な友達となっていく青年と旅をするロードムービーでもあることがミソ。彼は「バケツリスト」という「やりたいことリスト」を作り、それを短い旅の中で達成しようとする。その顛末には、確かな感動があるだろう。
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ちなみに、映画『最高の人生の見つけ方』(2007)の原題は「The Bucket List」。本作と同様に「やり残したことを実現する」冒険に旅立つ友情の物語である。
さらに、本作は他にも映画ネタが多く、警察署で「俺の記憶を消していかないのか?」と言うのは『メン・イン・ブラック』(1997)が元ネタだったり、ソニックが「ヴィン・ディーゼルの映画(『ワイルド・スピード』シリーズ)みたいだ!」と言ったりもする。エンドロール後のオチはおそらく『キャスト・アウェイ』(2000)を意識しているのだろう。
4:悪役とその部下との関係性が尊い……!
ジム・キャリー演じる悪役ドクター・ロボトニックを抜きにして本作は語れないだろう。クレイジーという言葉はもはや褒め言葉、ダンスも含めてキレキレな振る舞いや行動はいっそスガスガしいほど。ジムは娘がソニックの大ファンだからこそジプロジェクトに惹きつけられていたそうで、脚本に基本的な指示しか書かれていないこともあってジムの言動の多くがアドリブだったというのもすごい話だ。さらに魅力的、というかこの記事で最も書きたかったことは、ロボトニックと、リー・マジドゥブ演じる部下のエージェント・ストーンの関係性がものすごく尊いことだ。というのも、ロボトニックはしきりに命令通りに行動する機械(ロボット)のみを信用して、人間嫌いであることを告げているのだが……そばにいるストーンへの言い方は悪辣であったとしても、素直になれない「ツンデレ」な部分が垣間見えるのだ。
例えば、ストーンが家から逃げ出したソニックたちを尻目に、ロボトニックの方に駆けつけた時のことを思い出してみよう。ロボトニックはここで「止めようとしたのか?おい言ってみろ!そいつを止めようとしたんだろうな?」としつこく聞き、ストーンが「ご無事かどうか確かめようと……」と言うと、さらにロボトニックは「世界一賢い人間の苦労は、周りがみんなバカに見えるということだ!」と声を荒げ、ストーンはそれを(何度も言っていて知ってるから)「ほぼ同時に復唱」するのだ。
このシーンは、表向きにはロボトニックは「機械通りにできない人間とお前はバカだ!」と言っているのだが、「ひょっとして、自分を優先して心配してくれる、機械ではあり得ないストーンの行動が嬉しかったんじゃないの〜!?」とも思わせる。だからこそ、その嬉しさをかき消すために、「他の人間はバカ」だと強調しようとしたのではないか。
さらに、中盤でロボトニックが音楽をかけて、機械たちによる演出もあってノリノリに踊るシーンも、彼がいかに機械を愛しているかを象徴するようなシーンなのだが……そこでストーンは「オーストリアのヤギで作ったラテ」を持ってきて「お好きかと」と聞き、ロボトニックはややキレ気味に「もちろん飲むとも、お前のラテはうまい!」と答えるのである。
ここでストーンは、自分が大好きな機械とのセッションの邪魔をしているのに、「表向きにはキレる」というムーブを見せながらもなんだかんだで「お前のラテはうまい」と正直に言うので、「なんならラテだけじゃなくストーンごと大好きなんじゃないの〜!?」とキュンキュンした。少なくとも、ロボトニックははなんでも命令通りにこなす機械だけを愛していると言いつつ、そうではない行動をする人間のストーンのことが気になって仕方がないというのは明白である。
もちろん、ストーンの方も、あれだけ悪辣な言動をするロボトニックのことが放っておけない……いや大好きなのだろう。その2人の関係は一種の共依存。ある意味で、ソニックと友達になる人間のトムとは「鏡像」とも言える。ストーンの方がソニックと同様にハイタッチを求めるが、ロボトニックは腹にパンチをするというコミュニケーションしかできないことに、とても切なくもなるのだ。
そして、ロボトニックがストーンが大好き(その逆も然り)という証拠は、エンドロール後のおまけにあった。爆笑しつつも切なくもあるこのオチから、「いつか2人とも幸せになって」という願いを新たにしたのは言うまでもない。
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