<ちむどんどん・やんばる移住編>116回~最終回までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第122回:草刈正雄、麻有、父娘共演
房子(原田美枝子)がやんばるにやって来ました。暢子(黒島結菜)に会いに来たと思ったら、他に大事な用事をもたらします。
戦争で生き別れになった優子(仲間由紀恵)の姉の行方を知る者・大里五郎(草刈正雄)とその娘・悦子(草刈麻有)がやって来ました。
40年前の重大な出来事をなぜ今になって……という謎について考えてみますが、それは後述します。まずざっとストーリーを追っていきましょう。
悦子役は草刈正雄さんの娘さん。「足が悪いので付添ってきた」という設定で、父娘共演を果たしました。
ジョン・カビラさんの家族三代共演に続く家族共演は、これからの朝ドラのスタンダードになるかもしれません。家族ものに俳優も家族で出演する、話題にもなるし、家族のつながりを伝えるドラマとしての意味が色濃くなります。最近、二世俳優も増えていますから、ちょうど良さそうです。
草刈さんは、急なゲストですから、「東京に40年、島の言葉も忘れました」という設定で沖縄言葉がしゃべれない理由も万全です。
第121回では「今お茶入れます」「黒砂糖もだします」というとりあえずセリフというようなものがありましたが、第122回は説明セリフが機能しています。
悦子は、母の遺品を整理していて沖縄の簪ジーファを見つけたと語ります。そのジーファこそ、優子の姉・トキエの愛用品でした。
沖縄戦の最中、五郎は偶然トキエを看取ったのでした。
お父さんとお母さんは機銃掃射に撃たれて亡くなり、トキエも撃たれて重傷を負っていて……悲しい話ですが、優子は40年目にして家族の最期を知ることができました。
「見捨てたんじゃない 必死に探したけどみつからなかった」と五郎がジーファを託されて40年。
なぜ、五郎の妻の遺品に? それまで探さなかった? という謎を推理してみましょう。
「私たち」と五郎は言っています。夫婦で一緒にいて妻が預かっていたのでしょう。
長いこと探さなかった理由はーー
罪悪感ではないでしょうか。
トキエにおにぎりを譲ってもらったにもかかわらず、水をくれと言われても、自分たちの分がなくなるのを心配して水はないと嘘をついたことをずっと胸に抱えていた五郎夫婦。
もしトキエの家族に会ったら、そのことと向き合わないといけない。水を飲ませても命が助かることはなかった。自分たちが生きるために水をあげなかった。そうは思っても罪悪感はつきまとうでしょう。それをずっと抱えた40年、苦しかったと思います。
初期の飼ってた豚を食べることにも似た、生きることの辛さが描かれました。
最後に来て突然現れたゲストにこんなにも重た過ぎる人生を背負わせる。視聴者にもこんなに
重たい話を突きつける。もちろん、優子が遺骨収集をしていたのは家族を探していたからで、その決着を最終週でつけたという理屈はつきますが……。
初期に賢三(大森南朋)の言っていた謝らないといけないことは房子を置いてやんばるに戻ったことで、もっともっと重い謝らないといけないことは五郎に託されたのでしょうか。
人は皆、謝らないといけないことを持っている。きちんと認めて謝ることの重要性をおしつけがましくなく物語に溶け込ませているようです。
優子は形見の簪を差して踊ります。伴奏は歌子(上白石萌歌)です。いつもウィスパーで歌っていた上白石さんの声がここではしっかりしていることで、気合の入り方が違うことを感じます。
簪といえば、優子は子どもたちが幼い頃からずっと木製の簪をしていて、よく簪がアップになっていたので、簪は伏線だろうかと思っていたら、簪は簪でもそれではなく、お姉さんの簪でした。木製の簪が姉のジーファに代わり、それを差して踊ることで家族の弔いになりました。
その後、房子と優子が墓参りして海で語らいます。ふたりとも目に鮮やかなブルーを着ています。
海では房子はブルーの羽織を脱いでいました。脱いだ羽織はかばんの中に畳んでしまったのでしょうか。
房子も海に過去のしがらみを流したようにすっきりした顔になっていました。
戦争と水に関する物語といえば野田秀樹さんの「パンドラの鐘」が鮮烈です。99年に初演された名作で、今年6月にBunkamuraシアターコクーンでも杉原邦生さんの演出で上演されました。主人公のミズヲの名前の由来が明かされるときの衝撃たるや……。今年の公演ではミズヲを成田凌が演じていてそれがすばらしかったです。
「ちむどんどん」の脚本家・羽原大介さんも演劇の人ですから「パンドラの鐘」を知っていることでしょう。「20世紀最後の戯曲集」に収録されているのでご興味があるひとはどうぞ。
放送週に追記します。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
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(C) NHK