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『ノック 終末の訪問者』M・ナイト・シャマラン監督のネタバレ厳禁のどんでん返しよりも「大切なこと」とは

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『ノック 終末の訪問者』が2023年4月7日より公開されている。目玉はやはり、『シックス・センス』や『スプリット』のM・ナイト・シャマラン監督の最新作ということだろう。

ネタバレ完全なしの事前知識

今回はオリジナル企画ではなく原作となる小説があるのだが、後述するように題材そのものがシャマラン監督の「らしさ」に溢れており、同時にシャマラン監督の作家性を相対的に見つめ直したような特徴を持っている。そのため、シャマラン監督作品を観慣れている方こそ、本作を興味深く観られるのではないだろうか。

とはいえ、物語そのものはシンプルで、シャマラン監督作品を知らないという方でも楽しめるだろう。ただ、そのクセの強い作風はある程度の賛否両論を呼ぶだろうし、とてもG(全年齢)指定とは思えない良い意味でストレスが強いショッキングな展開が続くので、覚悟の上で観ていただきたい。

なお、公式サイトで注意書きがされているように、津波などの災害に関する描写が含まれているので、そちらも了承の上で映画館に足を運んでほしい。

ここからは、前半はあらすじ程度のことは示しているが基本的にはネタバレなし、後半は具体的な展開は明記しないがネタバレを含むという形で、『ノック 終末の訪問者』の”面白さ”と”恐ろしさ”を解説していこう。



迫られる理不尽どころじゃない「究極の選択」

本作のシチュエーションは「4人の武装した男女が、山小屋の家族を人質に取る」というもの。見ず知らずの屈強な体格をしたおじさんが7歳の少女に「友達になろう」などと話しかけてくる序盤から怖いが、その後に見るからに殺傷能力の高い武器を持った男女が山小屋を取り囲んで来る様はめちゃくちゃ怖い

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しかも、その男女の要求はカネなどではなく、「家族の犠牲か、世界の滅亡かを選べ」という、狂気に満ちた「究極の選択」をさせるものだった。もともと彼らは赤の他人同士だったのだが、共に「この山小屋にいる家族が、自分たちの中から1人を選んで殺せば、世界の滅亡を防げる」という啓示を受け、それを信じてやって来たというのだ。

理不尽な要求どころの話ではないが、彼らの言動は切実そのものなため、どこか説得力もあるようにも思える。さらには「決定的な事実」が知らされたかと思いきや、それと相対する「過去の因縁」が提示されたりもするので、「狂ったカルト集団か」「それとも真実を言っているのか」と疑心暗鬼になっていく、なんとも良い意味でイヤな気分になれる作劇になっているわけだ。

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その説得力をさらに加速させるのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでおなじみのデイヴ・バウティスタが、その恵まれた肉体によるアクション性を封印し、リーダー格の「物腰が柔らかく知的に思える男」の熱演。メンバーのひとりを演じたルパート・グリントも『ハリー・ポッター』シリーズのロンとは似ても似つかない憎たらしくもどこか切ない役にハマっているので、そちらも楽しみにしてほしい。

「自分の役割や使命に気づく」ことへの危うさ

シャマラン監督作品にはほぼ一貫した特徴がある。そのひとつが主人公が「理不尽な悲劇が起こる世界の中で、自分に与えられた役割や使命に気づき、選択し行動する」というものだ。

例えば、『スプリット』や『オールド』では限定的な空間を「世界の縮図」のように見立てて、そこから脱出しようとする(または生き方を見つめ直す)人々を描いていたりもした。『ハプニング』では今回の『ノック 終末の訪問者』と同様に、家族の視点から世界の滅亡の危機を描いたこともある。



そういう意味では、今回の『ノック 終末の訪問者』において、「武装して家族を人質に取り、世界の滅亡を防ぐために、究極を選択を迫る4人の男女」は、まさに「理不尽な悲劇が起こる世界の中で、自分に与えられた役割や使命に気づき、選択し行動する」という、シャマラン監督作らしさがまっしぐらなキャラクターなのだ。

とは言え、その4人が側から見れば「終末論に浸かりきったイかれたカルト集団」なのも事実。しかも、人質に取るのがゲイカップル(とその幼い)娘であるため、同性愛嫌悪に満ちた差別主義者という見方までもがされる。これまでシャマラン監督作の中で主人公として置かれていた者たちが、はっきりと悪役側かつ、劇中のキャラクターからはもちろん、この映画を観る観客からも嫌悪感を持たれる立場となっているのだ。

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そもそも、「理不尽な悲劇が起こる世界の中で、自分に与えられた役割や使命に気づき、選択し行動する」の時点で、洗脳やカルト的な危うさを伴っているとも言える。今回は原作小説があるので「たまたま」とも言えるが、そのように作家性が一貫していたシャマラン監督が、今回はその危うさを自覚して、ストレートに作品内で表現したような、一種の迫力を感じさせたのだ。

また、シャマラン監督は「ネタバレ厳禁のどんでん返し」が作品の売りとなりやすく、観客からも期待されがちなところもあるが、やはり物語上では「役割や使命に気づく」ことが前提にあり、それが結果としてサプライズにもつながっている場合が多い。『シックス・センス』の「秘密」や、『アンブレイカブル』の衝撃的なラストはその最たるものだろう。

そういう意味では、シャマラン監督作を観る際は、ネタバレ厳禁のどんでん返しそのものではなく、その「役割や使命に気づく様」や「そこからの選択」に注目して観ると、より面白くなると思うのだ。

そして、役割や使命は人生の希望にもなるが、時には誰かをひどく傷つけることにもなり得るという危うさを、この『ノック 終末の訪問者』は無情なまでに突きつけている。それがまさに「シャマラン監督節」であると同時に、その新境地でもあると思えた。

余談だが、この『ノック 終末の訪問者』の公開日である4月7日より、同じく「終末映画」である『世界の終わりから』も公開されている。理不尽に世界の命運を託された者が苦しみながらも、正しいと信じた行動と選択をすることは両者で一致していながらも、結末やそれに至る過程は全く異なるものになっている。合わせて観るとより楽しめるだろう。



さて、そうしたシャマラン監督の特徴を踏まえた上で、ここからは少しネタバレに触れた上で、「賛否両論を呼びそうだが、こう考えたら納得できる」ポイントについても解説していこう。

※ここからは『ノック 終末の訪問者』の一部ネタバレに触れています。サプライズ要素や具体的な展開の明記はしていませんが、ラストを予見させる記述も含まれていますので、映画を未見の方はご注意ください

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