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映画『ヴィレッジ』藤井道人監督の作家性と7作品の魅力に迫る


映画『ヴィレッジ』が2023年4月21日より公開される。本作の面白さは後述するとして、ここでは藤井道人監督という名前を推しておきたい。

間違いなく、日本映画の未来を担う監督であり、作品それぞれが「ガツンと来る」映画の魅力に満ち満ちているからだ。「新作が公開されれば観に行く」映画監督として、さらに多くの人に知ってほしいと心から願う。

ここでは、2018年以降の長編映画作品に絞って、その魅力を紹介しよう。後述する「作家性」が一貫していることもわかるはずだ。

1:『青の帰り道』(2018年)



7人の若者たちの、高校卒業後のそれぞれの人生の3年間を描く群像劇だ。うまくいかない、理想とはまったく違うそれぞれの歩みの先にある、とても辛く苦しい出来事を描きながらも、多くの人にとって福音となる優しさもある作品だった。

実は、本作は出演者が起こした“事件”により撮影中止がされ、お蔵入りをしてもおかしくなかった映画でもある。それでも、スタッフとキャストたちが交わした「絶対に撮り直す」という約束が結実し、約2年後の2017年夏の再撮影により完成した。

実際の本編には、真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、森永悠希、戸塚純貴、秋月三佳、冨田佳輔それぞれの若手キャストの撮影当時ならではの魅力、光と闇がないまぜになったような青春の輝きが詰まっていた。完成したことが奇跡とも言える、作り手たちの想いが鋭く刻印された映像と物語を、ぜひ堪能してほしい。

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2:『デイアンドナイト』(2019年)



父が大手企業の不正の内部告発により死に追いやられ、家庭も崩壊寸前の男が、児童養護施設のオーナーから手を差し伸べられるという物語。タイトル通り「昼間」と「夜」のそれぞれを対比させる映像表現も見どころだ。

テーマとなっているのは「善と悪はどこからやってくるのか」。権力を盾に正義を名乗る者がいる一方で、弱者は追い詰められ犯罪に手を染めるという、残酷な世界の“縮図”を突きつけられる内容でもある。

後半の展開は好みが分かれるところだが、個人的には善悪の境目は曖昧で簡単なジャッジができるものではない、だからこそ安易な解決方法やカタルシスを用意しない作り手の気概だと受け取った。阿部進之介、安藤政信、清原果耶それぞれが演じる生きづらさを抱えた人たちの心情は切実で、誰にとっても他人事ではないだろう。

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3:『新聞記者』(2019年)



望月衣塑子の同名書籍を原案とした映画で、政権の暗部に気づき葛藤するエリート官僚と、真実に迫ろうとする新聞記者との対峙が描かれている。後には同じく藤井道人監督によるNetflix配信のドラマ版も制作され、森達也監督によるドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』も公開された。

主軸は巨大な権力や不正に立ち向かう物語であり、ひと時も退屈させないエンタメ性に満ちているため、政治に詳しくない方でもおすすめできる。松坂桃李とシム・ウンギョンの熱演と存在感があってこその、鮮烈なラストシーンを忘れることができない。

現実の問題を明らかに描いていながらも実名を出していないため「逃げ腰だ」「安全圏から撃っている」という批判もあるのだが、個人的にはフィクションにしたことで「この問題に限らない」普遍性につながっているので肯定したい。良い意味で強い怒りを覚える物語だからこそ、その現実の問題にも目を向けるきっかけになるはずだ。

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4:『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020年)



野中ともその同名小説が原作であり、現実に即したドラマを撮ることが多い藤井道人監督作品では珍しいファンタジー。疎外感を感じていた中学生の少女と、彼女が密かに想いを寄せている大学生や、謎めいた老婆との交流が描かれている。

少しナイーブな清原果耶と、毒舌な桃井かおりの漫才的なやり取りが楽しく、思春期の少女の誰にも話せない悩みなど、タイトルどおり屋根をモチーフに“家族のあり方”を捉えた優しい物語を主軸に、多重的な要素が折り重なっていく様が心地良い。

どこかプラネタリウムを連想させる、大間々昂による音楽がより美しい映像に「浸らせて」くれる。ミステリー要素のあるジュブナイル冒険ものとしてもワクワクできるので、幅広い層におすすめだ。

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5:『ヤクザと家族 The Family』(2021年)



1999年、2005年、2019年という3つの時代で、社会での立場が変わっていくヤクザの姿を描くドラマだ。その勢いがあったのは序盤だけ。14年の出所を終えた主人公が目の当たりにするのは、かつての姿形もなくなった組の姿だった。

描かれるのは、たとえヤクザをやめたとしても、周りに認められないどころか、人間とも思われないほどに社会から排除されていく悲哀の物語。ヤクザが嫌いだったり、ヤクザ映画が苦手な方が観てこそ、他人事ではない物語として捉えられるだろう。

何より、20年に渡る時間の「重み」を感じさせる役者陣が凄まじい。綾野剛のやさぐれつつもどこか希望を感じさせる表情、磯村勇斗の“あの顔と一言”は二度と忘れられないほどのインパクトと感動があった。

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6:『余命10年』(2022年)



小坂流加による同名小説の映画化作品で、約30億円の興行収入を記録した大ヒット作。タイトルからわかりやすく「余命宣告もの」であり、キレイゴトや安易な解決に頼らず、不治の病への葛藤や苦しみも丹念に描かれた誠実な内容になっている。

重要なのは、主人公が死に至る病を抱えている一方、恋人となる青年は自ら死を選ぼうとしていたこと。それに付随して社会でうまく生きられない、疎外感を持つ人たちの物語にもなっているのだ。

重い悩みを持っているからこそ「放っておけない」と母性本能をくすぐってくれる坂口健太郎、シニカルな視点を持ち自嘲ぎみに笑うような一面もある小松菜奈はこれ以上のないハマり役。藤井道人監督ならではの美しい画作りが、RADWIMPSの楽曲と見事にシンクロする様にも注目してほしい。

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