『マイ・エレメント』の「3つ」の魅力:ピクサー史上最高の映像表現と、さらなる“夢”への物語
2:『ズートピア』の発展系とも言える多様性の問題
だが、その理想郷のように思えたエレメントシティの中では、それぞれのエレメントが関われないことが“物理的”に示されている。たとえば、火の女の子のエンバーは、列車の中で土の乗客に触れてしまい、生えていた草があっという間に燃えてしまう。もちろん彼女は水にも弱く、両親にとって水の青年と付き合うなんて“御法度”でもあるのだ。つまり、表向きは多様性にも存分に配慮したような世界であっても、それぞれの事情によって、他の者とは関わり合えないという価値観が“当たり前”になっているというわけだ。これらは現実の人種や移民の問題のメタファーとも言えるし、同様に多様性を世界観から打ち出した2016年のディズニー作品『ズートピア』の発展系とも言えるだろう。
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だが、その“当たり前”は、本当に当たり前なのだろうか?と、この『マイ・エレメント』の物語は投げかけている。その当たり前は“慣習”と言い換えてもいい。長く生きていればこそ、その慣習は覆せないと思い込まれているし、それは次の世代へと受け継がれていく。だが、もしも“本当に望んでいること”をないがしろにしてまで、その当たり前の(ではないかもしれない)慣習ばかりを盲目的に捉えてはいないかと、気づきを与えてくれるのだ。そちらはピクサーの近作『あの夏のルカ』にも通じているポイントだ。
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3:ピクサーらしい、さらなる“夢”への物語
そう考えれば、『マイ・エレメント』のメッセージはとても普遍的なもの。「違う世界の素晴らしさを知る」「自分の可能性に気づく」だ。常識外れにも思えたウェイドは自分自身の行動でもってエンバーにそのことを示してくれるし、エンバーもまたウェイドの見方を変える。お互いのことを理解し合う"相互理解"の物語として昇華されているし、それでいて説教くさくもない、コミカルで楽しくていじらしいラブストーリーとして成立させるピクサーの力を、改めて賞賛するしかない。そして、ピクサー作品はこれまでも“夢”について、ほぼほぼ“辛辣”とも言ってもいいシビアさも含めて、真摯に向き合ってきたが、この『マイ・エレメント』でのエンバーのとある“気づき”は、より“自分自身”に当てはめて考えられる人がきっと多いと思う。それは、これから夢を見つけたり、どう生きればいいかわからない若者にとってのひとつの指針にもなり得るし、親御さんが観てこそ子どもの接し方について大いに学べることもあるはず。2013年公開の『モンスターズ・ユニバーシティ』はピクサーが描いてきた“夢”の集大成的な作品でもあったが、そこからさらなる拡張を遂げたと言っていい。
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ちなみに、ピーター・ソーン監督は韓国からアメリカへ移住した経験があり、ブロンクスに定住していた両親は食料品店を開いていたそうで、それは『マイ・エレメント』劇中のエンバーの境遇に反映されている。さらに、前述した世界観がのルーツが「子どもの頃に見ていた周期表の全てが小さなアパートのようだった」ことというのも面白い。そのように、極めて個人的な経験を反映した物語が、とても普遍的な物語に昇華されているのもピクサー作品の素晴らしさだ。ぜひ、現実で少し勇気が希望が持てるかもしれない「あなたの物語」としても楽しんでほしい。
(文:ヒナタカ)
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