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2023年08月31日

「こっち向いてよ向井くん」第8話:パフェはいつか食べ終わるけど、賞味期限はいくらでも伸ばせる

「こっち向いてよ向井くん」第8話:パフェはいつか食べ終わるけど、賞味期限はいくらでも伸ばせる


ねむようこの同名漫画を原作とした赤楚衛二主演のドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)が2023年7月12日よりスタート。本作はGP帯連続ドラマ初主演となる赤楚が、雰囲気も性格も良く、仕事もできるのに10年間彼女がいない30代の男性を演じるラブコメディだ。共演には、波瑠、生田絵梨花、藤原さくら、岡山天音らが名を連ねる。

本記事では、第8話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

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「こっち向いてよ向井くん」第8話レビュー

元カノ・美和子(生田絵梨花)との10年越しの恋に決着をつけた向井くん(赤楚衛二)。その大きな喪失感を埋めてくれるのが、仕事と洸稀(波瑠)の存在だ。「微妙な時期のカップルの周りを他の女がウロウロするのはご法度」という理由でしばらく洸稀から距離を置かれていた向井くんだが、美和子とお別れしたことで以前のように気軽な飲み友達に戻る。

しかし、そこで登場してくるのが、洸稀と同僚以上、恋人未満の関係である環田(市原隼人)。元後輩の向井くんと洸稀の親しげな様子を目の当たりにして火がついた彼は、「あの子にちょっかいを出さないで欲しい」と向井くんを牽制する。いやいや洸稀との都合の良い関係に甘んじている癖に、それは流石に勝手すぎないか。

……と思いつつ、恋愛強者の環田がまだまだ若々しさが残る後輩の向井くんを脅威に感じるほど、余裕がなくなっていることに驚いた。そこまで彼を本気にさせた洸稀の手腕にただただ頭が下がる。これまでどんな恋愛をしてきたのか気になるし、真面目に恋愛指南書を出版してほしい。

それはさておき、微妙な時期のカップルの周りをウロウロする異性側になってしまった向井くん。そんな状況下で2人の会社とタイアップすることになるのが、第8話だ。立場が一気に逆転し、今度は向井くんが環田に気を使って洸稀と不自然に距離を取るようになってしまう。しかし、さすがは洸稀。百戦錬磨の彼女には全てお見通しで、環田が自分に熱を上げ始めているのも、向井くんが彼に何らかの釘を刺したであろうことにも気づいていた。

その上で、「結婚を視野に入れて付き合ってほしい」という環田の申し出を断った洸稀。彼女が環田に対して違和感を持ったのは、「(元妻の)環境を整えて“あげたくて”」という何気ない言葉がきっかけだった。つまり環田は、洸稀がバカにされてると感じてしまう“守ってあげたい男”だったわけだ。それだけじゃなくて、独占欲をまる出しにして、自分のコミュニティを断ち切ろうとする環田に洸稀は冷めてしまったのだろう。

恋人になったらもっとかっこ悪い面も見えてくるかもしれないし、自分の嫌な面も見せてしまうかもしれない。本来はそこを乗り越えることで恋が愛に代わり、2人の絆は深まっていくものだ。だけど、パフェの一番上にあるフルーツの部分だけ食べていたい洸稀は、しなしなのフレークに到達する前のバニラアイスゾーンで食べる手を止めた。彼女は出来立てのパフェみたいに、お互い着飾った状態でいられる関係を望んでいるのである。結婚願望がないわけではなさそうだが、それだと難しいのではないだろうか。

そんな彼女に聞かせたいのが、向井くんの母・公子(財前直見)の言葉だ。相変わらず、言葉足らずで元気(岡山天音)を困惑させている麻美(藤原さくら)に公子は「踏み込まずにいられる関係が本当に幸せなのかもわからないし、夫婦も家族も人間関係だからね。たかだか紙切れ一枚で離婚して、煩わしいこと全部なくなるって思ってるんだったら甘い」と忠告する。

友達も恋人も、夫婦も家族も、人間関係には別れがつきもの。洸稀は「恋愛に賞味期限がくるのは逃れられない」と言うが、それは何も恋愛に限ったことではない。ただ死別を除き、その賞味期限は話し合うことで多少なりとも伸びていくはずだ。

向井くんは再会した美和子に「一緒に考えてほしかった。私の話も聞いてほしかった」と言われたことで、それを学んだのだろう。美和子も言葉足らずだったし、向井くんも彼女の気持ちを聞こうとしなかったから10年前に2人の恋は終わった。洸稀に対する「落ち度のない人なんていないじゃない。嫌だなって思う行動を取られたら、それは嫌だよ、やめてって伝えたらよくない?」という言葉はそんな経験から出てきたものだ。洸稀が正直に自分の気持ちを伝えれば、環田も分かってくれたかもしれない。

それができなかったのは、洸稀の自信のなさにある。洸稀は以前付き合った人に「仕事の時は魅力的だと思ったけど、普段は全然普通で面白くない」と言われたことがあり、他人と深い関係になるのが苦手になってしまったのだ。

そんな洸稀が向井くんとはカラオケで一夜を共にし、一緒に朝ごはんを食べられたのは、彼がバニラアイスとフレークをパフェの本体と思っている人だから。着飾った状態ではなく、毒舌でズバズバ物を言う素の自分を面白いと思ってくれる向井くんとなら、もしかしたら洸稀は安心してより踏み込んだ関係に進めるのではないだろうか。

かたや、柿ピーのピーナッツしか食べない麻美のために、柿の種を食べ尽くす元気はパフェに例えるなら、相手が残したところ以外を全部食べてくれる男性だ。“相手のために”と言えば恩着せがましいが、元気は別に無理をしているわけじゃない。自ら進んで何かをしてあげたい、相手のために変わりたいと願う気持ちはもはや愛だ。それに気づいたタイミングで、元気に離婚届を渡された麻美。2人の関係性の賞味期限はここで切れてしまうのだろうか。

最後に、洸稀から別れを告げられた環田が一人朝ごはんを作って食べる姿に切なくなった。彼もまた向井くんのようにバニラアイスも、しなしなになったフレークも美味しいと言って食べてくれる人だったかもしれないのである。もしまた恋をすることがあったら、環田がその人と一緒に朝ごはんを食べれることを願ってやまない。

(文:苫とり子)

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