「ブギウギ」茨田りつ子の復活、より深まった「別れのブルース」<第69回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第69回を紐解いていく。
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長いつけまつげも復活
終戦から3ヶ月、コンサートができることになりました。スズ子(趣里)はさっそく、楽団事務所へ。
一井(陰山泰)の自宅のガレージを事務所化した場所は焼けることなく無事でした。今日は
えなりかずき(二村役)さんもいました。
最初の曲は何にしよう、もちろん「ラッパと娘」です。
これを歌って踊ってこそ、福来スズ子の復活なのです。
愛助(水上恒司)も大喜び。なにしろ彼は福来スズ子の大ファンです。
批評文を読み上げるように、福来スズ子のすばらしさを語る姿は濃いファンそのもの。
「戦争によって止まっていた時間が再び動き出す」
なにかのキャッチコピーのようです。
たどたどしい大阪弁と文語調の言葉が、愛助の独特のキャラクターを作り上げています。ともすればやばい人になりかねないところ、水上さんの清潔感や誠実さが勝っています。
こうして、あっという間にコンサート当日。
スズ子は、真っ赤な派手な衣裳に袖を通し、久しぶりに長いつけまつ毛をつけます。でも久しぶりなので心ここにあらず。小夜(富田望生)の心配がむしろ邪魔で、楽屋から追い出します。
と、そこへ茨田りつ子(菊地凛子)が現れました。
お互い、戦争を生き抜いたことを労って……。
家が戦争で焼けてしまったりつ子。そのうえ、慰問先で、特攻隊の若者たちに何もできなかった悔いも抱えたまま……。
なぜ、りつ子にばかり重圧が重なっているのでしょう。暗い歌ばかり歌っているから呼び寄せてしまうのでしょうか。
りつ子「歌は人を生かすために歌うものでしょう。戦争なんてくそくらえよ」
スズ子「ほんならこれからはわての歌で生かさな」
スズ子はりつ子を励ましながら、自分自身を鼓舞し、やる気を漲らせます。
ステージに立ったりつ子の歌は、以前に増して、深みのあるものになっていました。特攻隊の人たちのことを思うと、これまでただ微動だにしないで歌っていたものが、自然に、柔らかな動作や表情になっていきます。マイクをぐっと握り、2番まで謳い上げました。
観客はじーんっと聴き惚れています。
ここで、気づいたことがありました。
最近の「ブギウギ」の戦後の焼け跡描写は、なんだかリアリティーがなく、いかにもスタジオに簡易セット建て込みましたという、作り物感丸出しで、もう少し汚しに手を加えることができるのではないかと思って見ていました。が、これは意図的なものかもしれません。そこには深い狙いが感じられます。
というのは、「ブギウギ」の世界では、本来作りものであるステージ上こそが”ホンモノ”という考えのもとに作られている節があるからです。
つらいとき、ステージを見て、活力をもらう、それがエンタメです。
エンタメのひとつであるドラマ自体が作りものですから、リアルだリアルじゃないという観点もナンセンスであり、そこにホンモノを見出すとしたら、俳優の一瞬の表情にしかありません。
菊地凛子さんの心をこめて歌っている表情には力があり、それだけがホンモノなのです。
彼女の歌う姿を見ている間、戦後の貧しい虚無的な風景は、ウソに見えるのです。
(文:木俣冬)
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