「ブギウギ」スズ子が若者に背中を見せつけた「買い物ブギ」<第106回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第106回を紐解いていく。
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エンタメは素敵な仕事
新しいマネージャー柴本タケシ(三浦獠太)がポンコツで、スズ子(趣里)は気が気でありません。新曲「買い物ブギ」をワンマンショーに向けて仕上げないとならないのに、頼りの羽鳥(草彅剛)も山下(近藤芳正)もいなくて、逆に、新人の面倒を見ないとならないなんて……。
考えてみたら、もう一人前とかいうのはさておいて、コンサートの前に、使えない新人マネージャーの補完をしないとならないなんて、冗談じゃない話だと思います。山下が急に倒れたとか五木(村上新悟)のように逃げたとかいうわけではないのですから、引き継ぎをするのはコンサートが終わってからが妥当でしょう。
そういう常識のない行為をしてしまうのが山下なのです。しかも、身内のプー太郎をスズ子に押し付けている。
タケシは最初は調子よく誤魔化していましたが、大学中退で、働いても続かない、夢中になれることが見つからない、さまよっている人でした。
スズ子は、はな湯時代から、アホのおっちゃんたちと仲良くしてきているので、
社会貢献しているしっかり者でなくても目くじらを立てることはありません。小夜(富田望生)に対してもかなり広い目で見ていました。困ったなあと思いながらもついつい面倒見てしまうのです。
結局、山下は、スズ子のそういうところに甘えたのでしょう。
おそらく、この時代の芸能界は、スズ子や山下に限ったことではなく、いまほどビジネスライクではなく、身内とか独特の人間関係などで成り立っていたと思います。
トミ(小雪)も、やたらと「家族」を強調していました。才能や実力以前に、家族になることで守られるという、独特のルールみたいなものが存在していたのです。身分制度が厳然とあった時代、そうやって、身分のかなり低い人達は仲間をつくって歌や踊りを見世物にしながら、生きていくしかなかった。大河ドラマ「光る君へ」の散楽の人たちみたいなものです。
明治時代になって身分制度がなくなると、芸能をやっていた人たちはスターとして、地位や名誉や財産が得られるようになり、立場が逆転していくわけですが、元はそういう感じなので、かなりラフな感覚な人たちもたくさんいるのだと思います。そこが良さでもあるのです。
エンタメとは、自分のいまある状況がどんなにつらくても、貧しくても、しがらみを忘れて、ひととき楽しむものです。
劇場とは、そこにいる人たちが立場なんて関係なく、フラットになって楽しむ場所。スズ子のモデルである笠置シヅ子さんはあらゆる境界をぶち破って、空間を祭りのような場所に変える力をもった逸材だったのです。つまり、スズ子もそうです。そうでないといけないのです。
新曲「買い物ブギ」をスズ子は全身全霊で歌い踊ります。日常のいろんな問題は微塵も感じさせず、ひたすら愉快に、明るく。
羽鳥(史実では服部良一)の作詞作曲した「買い物ブギ」は羽鳥が久々に音楽の自由を感じたというだけあって、意味なんてない、へんな歌です。
商品の羅列で、ややこしややこし、と理屈を破壊し、音楽と言葉の楽しさだけで満たされます。
スズ子のステージを見て大喜びするお客さんを見たタケシは、エンタメの仕事の意義を知り、自分もこの業界で頑張ろうと思うようになると、という筋書きです。
ワンマンショーの初日に寝坊して遅刻したタケシに、大野(木野花)が「正直にぶつかれ、ウソも誤魔化しもなく、正直にぶつかって一生懸命働け」と助言しました。
それでか、タケシは、スズ子に実は音楽にも興味はなかったと告白します。
スズ子の姿に、やりたいことがみつからなかったタケシも、芸能の世界の魅力に取り憑かれたことでしょう。
客席では山下が見ていて、頭を下げながらそっと席を立ちます。
できの悪い甥っ子もこれで安心と思ったのでしょう。
いや、彼は、トミたちの時代の人間なので、大阪芸能界のドンであるトミが亡くなったいま、自分たちのようなやり方の時代は終わったと思ったのかもしれません。ここから芸能がどんどん巨大ビジネスになっていくのです。
正直なところ、今週の脚本は、途中でちょっと気の利いたセリフを言ってまとめてしまう回が多く、それはまるで、歌が好きでもないのに好きだとうそぶくタケシのようでもありました。ここで決めセリフを言っておけば丸く収まるように見えます。確かにまとまっていますし、その手際はじつに見事です。でもそこに実がない。あるいは、ほんとうはそれを主題に描きたいけれど、説得力を持たすまで練ることができなかった、そんな感じがしました。なぜ、そうなっているのか、そこが知りたい。
(文:木俣冬)
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