「ブギウギ」スズ子がアメリカにいる間に豪邸が建っていた<第108回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第108回を紐解いていく。
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マミーからの手紙
愛子(小野美音)の反対を押し切って、アメリカ行きを決意したスズ子(趣里)。その前に お見送りコンサートが行われました。ミネ(田中麗奈)ほか街娼たちが応援にやってきます。
コンサートは大盛りあがりでしたが、愛子はずっとふくれっ面のまま。
出発の日、窓ガラス越しに、じとっとした目でみつめる愛子。窓ガラスが母と子の距離を物語るようです。
そっと抱きしめ「もっともっと大きな歌手になりたいねん」と夢を語ります。
ドラマではスズ子の歌手としての矜持はあまり描かれていないので、愛子でなくても、なんで行く必要あるのかと理解しづらい感じはあります。
ただ、ひとり、家を出て、深い決意をしたように目をつむる、その表情は印象的で、本来、趣里さんはこういうシリアスな演技が得手だと感じます。この線でドラマが描いてほしかった気もしますが、コミカル路線を今回は選択したのでしょう。最後までがんばってほしい。
ここまで長めのアヴァンで、主題歌が流れ、スズ子がアメリカに行って数日後に羽鳥家の人々がケーキをもって遊びに来ます。アンゼリカののった、昔の色合いのケーキです。
そしてあっという間に3ヶ月が経過。新居が完成します。
それを大野(木野花)と愛子が見に行くと、スズ子から手紙が。
新居が完成する日に合わせて、サプライズ的に新居のほうに郵送したのでしょうか。その手紙には、アメリカでの写真がたくさん入っています。
活躍しているマミー・スズ子の姿がいっぱいですが、仕事の写真ばかりではなく、子供が喜びそうなアメリカの珍しいものを写真に撮ったりはしないのでしょうか。
このドラマを見ていると、自伝や評伝に書かれた面とは違う、ただがむしゃらに生きた人の姿が浮かんできます。一見平凡な庶民の家に生まれながら、じつは実の父母ではなかったという複雑な身の上。でも苦労はなく好きな歌を仕事にすべく楽団に入り、さらに上を目指して上京。天才作曲家・羽鳥(草彅剛)に見出されあれよあれよという間に人気歌手に。
その才能を通して、愛助(水上恒司)と恋愛関係になるも、愛助の家には認められず、内縁のまま子供を生み、愛助は亡くなりシングルマザーに。
家族の縁がどこか薄いが、芸能の運だけはよく、豪邸を建てられるほどの大スターになっていくが、深く考えず、目先のことにただただ懸命になる。
たまたま歌や踊りが、個性的で時代に合っただけの、素朴な人物。
特別な人なんていない、ということをいまの世の中に訴えたいのだと思います。が、特別ってなんでしょう。特別だからえらいわけではないです。だからいばることはないし、あがめることもない。
才能が高い人は厳然たるもので、大谷選手のように才能のある人はいるわけです。そういう人たちはポテンシャルもありますが、トレーニングしたり工夫して才能を磨いています。そして、それが人々を元気にさせるのです。
スズ子のモデルである笠置シヅ子さんは、「買物ブギ」では振り付けを自分で考えたそうです。
一方、スズ子はすごく頑張って歌って踊ってはいますが、それはまわりがお膳立てした環境で、ただ歌って踊る傀儡のようにも見え、じつはそういう哀しい、時代に祭り上げられただけの人だったのではないか、という乾いた解釈が浮かんでしまうのです。
芸能界ってきれいなものでも、いいものでもないのは薄々わかる現代。でもそこで生き残るしかない人たちがいる。彼ら、彼女たちはうんっと稼いで、豪邸とか建ててしまう。その豪邸も、不在の間に、自動的に建って、引っ越しも住んでしまう。人任せ。金任せ。
ふつうの母でいたい、と言いながら、ふつうでは全然ない環境にスズ子は生きている。ライスカレーや中華そばというセリフで、ふつう感を出そうとしてはいるけれど、不在の間に娘と家政婦を豪邸に引っ越しさせる感覚は庶民感覚の斜め上をいっている。
(文:木俣冬)
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